死刑制度をめぐる問題点
一 死刑制度をめぐる論点
1989年国際人権B規約第2選択議定書いわゆる死刑廃止条約が国連総会において採択されて以来、死刑廃止が世界の潮流となり、2009年12月時点における条約加盟国は72か国にのぼるが、日本はまだ締結していない。死刑制度についていかなる問題点が存在するのか、以下検討する。
1 死刑という刑罰は人道上許されない刑罰ではないのか。
国家自身の手により犯罪者を永久に抹殺する手段は人道上許されないのではないかという議論が存在する。生命は個人の重要な法益であり、他人の生命をはく奪することは許されない行為である。そのために法律は殺人罪を規定し禁止しているにもかかわらず、国家の刑罰として死刑を制度化するのは矛盾しているといえる。死刑制度は人道上も許される行為ではない。
2 憲法36条残虐な刑罰の禁止規定に抵触しないか。
判例は、死刑制度について、「刑罰としての死刑そのものが、一般に直ちに36条にいわゆる残虐な刑罰に該当するとは考えられない」(最判昭23.3.12)として、死刑が憲法36条に抵触しないとする。
しかし、「残虐な」とは、方法がむごいことのみならず、行為がもたらす結果についてもむごいことをいい生命のはく奪がむごい結果をさすのは明らかである。最高裁がそもそも死刑制度を36条にあたらないとするのは結果ありきの解釈であって、なんら理由となっていない。
3 制度化しておく合理的な理由があるか
①誤判の問題
裁判においては、常に誤った判断が下される恐れがあり、死刑以外は刑罰の場合は再審の道も開かれるが、死刑が執行されれば、新たな証拠が発見され再審の可能性が開かれたとしても、命を取り戻すことはできない。
②死刑の抑止力の問題
死刑制度が存在すれば、凶悪な犯罪発生の抑止力になるとの主張があるが、死刑制度が存在しても一定の凶悪犯罪は常に発生しており、抑止力になる科学的証拠はない。
③事件被害者、遺族の感情の問題
遺族感情として、加害者に対する処罰感情から死刑の存続を訴える主張がある。確かに被害者感情を社会全体として考慮し寄り添い支援する必要はあると考える。しかしながら,こうした被害者や遺族に対する支援を充実させるべきことと,死刑制度の存否を考えることとは矛盾しない別個の重要な課題であり,分けて考えるべきである。罪を犯した人を処罰するについて,量刑の決定にあたり,犯罪被害者・遺族らの感情を考慮するとしても,それを決定的な要素とすることはできない。とりわけ死刑は,他の刑罰とは本質的に異なる,生命を剥奪する刑罰であって,誤判・えん罪があった場合に取り返しのつかない重大かつ深刻な人権侵害の問題である。死刑が究極の人権侵害である以上,犯罪被害者・遺族らの処罰感情を根拠に死刑制度の存置を正当化することはできない。
二 刑事政策論としての死刑制度
生まれながらの犯罪者はおらず,犯罪者となってしまった人の多くは,家庭,経済,教育,地域等における様々の環境や差別が一因となって犯罪に至っているケースが多い。そして,人は,時に人間性を失い残酷な罪を犯すことがあっても,罪を悔いて変わり得る存在である。このように考えたとき,刑罰制度は,犯罪への応報であることにとどまらず,罪を犯した人を人間として尊重することを基本とし,その人間性の回復と,自由な社会への社会復帰と社会的包摂の達成に資するものでなければならない。
死刑制度は生命をはく奪するという究極の刑罰であり、犯罪者に対する更生の可能性や教育の可能性をすべて否定する価値観の発露であり、刑事政策として取りうる政策といえない。
罪を犯した人の更生の道を完全に閉ざすことなく,処遇や更生制度を抜本的に改革し,福祉の連携を図り,すべての人が人間として尊厳を持って共生できる社会を目指すべき社会として刑事政策の基本的な価値観に置くべきと考える。
三 我が国の死刑制度をめぐる議論の展望
死刑制度を廃止できない理由として政府は世論の動向をあげる。しかし、政府が死刑制度廃止に向けて積極的な啓もう活動を国民に向けて実施してきたわけではない。死刑がいつどこでどのように行われたか発表せず秘密裏に行われている現状では、国民が死刑制度に対して正確な知識を持てるはずがない。もし、死刑の実行を実際に国民の目に触れさせたとき、最高裁が言うように絞首刑を残虐な刑罰とはいえないという同様の結論を世論がもてるかどうか、本当の議論はそこからはじまるのではないか。
私は、死刑制度の問題点は、死刑の実際を国民のほとんどが知らない現状ににあると考えている。もし国民が現実に行われている死刑の実際を知ることとなれば、死刑制度を廃止する世論はもっと多くなるはずだ。死刑制度廃止論が高まらないのは、死刑の実情を隠している政府とそのことを報道しようとしないマスメディアに原因の多くが存在すると考えている。
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