【詩】 吸血鬼の向日葵
きっと、ぼくは太陽に嫌われている。
暑いし、
肌は焼けるし、
ぼくの命を溶かしてしまう。
でも、ぼくは太陽が大好きなんだ。
世界を明るく照らす朝日も、
水平線に沈む夕日も、
太陽の全てが愛おしい。
大好きで、大好きで、
いつも隣にいたいのに、
太陽はそれを認めない。
太陽を直に感じると、
ぼくの命は蝋燭のように溶けてしまうんだ。
大好きな太陽に嫌われてるなんて。
こんな人生に、意味なんてない。
ある夜。
ぼくは花の種を拾った。
荷馬車が走った跡のわだちに落ちていた。
可哀想な種。
荷馬車から落ちなければ、
みんなと一緒に会えてもらえたのに。
ぼくは家に持って帰って、庭に植えた。
この可哀想な花の種を、
育ててあげたくなったから。
種には水が必要だった。
毎日忘れず水をあげたり、
草をとったりしないといけない。
ぼくは毎晩、散歩の前に、必ず水をあげていた。
小さな芽が出で、大きな茎になって、
ぼくの顔より大きな黄色い蕾がなった。
明日は咲く。
きっと咲く。
ぼくは翌朝を楽しみにした。
だけど、深夜に嵐がやってきた。
ビュービューと風が吹き、
ぼくの花をへし折ろうとする。
ぼくは慌てて外に出て、
花の茎に体を押しあてた。
嵐はぼくのフードを剥ぎ取り、
雨風が直接ぶつかってくる。
ぼくの花は、恐ろしそうに項垂れている。
ぼくはずっと話し続けた。
大丈夫、大丈夫だよ。
ぼくが守ってあげるから。
嵐が止み、空の雲が晴れている。
ぼくは、花を守り切った。
あー、でも、なんだか疲れちゃったな。
ね、大丈夫だったでしょ。
ぼくは花の顔を見上げた。
蕾はきれいに開き、大きな顔を覗かせる。
花は太陽を見上げ、明るい黄色の花弁の中には、たくさんの種を持っていた。
キミは、向日葵だったんだね。
良かった。
キミも、キミの子どもも、無事だったんだね。
太陽のようなキミを、ぼくは守れたんだね。
でも、なんだかぼく、眠くなってきちゃった。
...じゃあね。
最後に見たのは、向日葵が太陽を見上げ、涙を流すように、花の中の種をポロポロとこぼしている姿だった。
......。
次に目が覚めたとき、ぼくは太陽を見上げていた。
でも、不思議だ。
ぼくは太陽に嫌われているはずなのに。
ふと、周りを見渡すと、ぼくを囲むように、たくさんの向日葵が咲いていた。
そして、自分の体に目を落とす。
......理解した。
ぼくの身体は、きっとあの、嵐の翌日に、溶けて消えてしまったんだ。
だから、いまのこの姿が、ぼくの新しい身体なんだ。
隣を見ると、見覚えのある向日葵が咲いていた。
そうか。
彼女の涙が、ぼくを救ってくれたんだ。
ぼくは誓った。
この向日葵と共に生きていこう。
嵐が来て死んでしまうかもしれない。
だけど、今のぼくには、生きている意味がある。
あの日のぼくのように。
そして、隣にいる向日葵のように。
誰かに新しい意味を与えられる存在になろう。
ぼくは真っ直ぐ太陽を見つめた。
太陽は暖かく、ぼくを照らしてくれていた。
(終)