「CITY HUNTER」を観たくてネトフリに入ったが…
冴羽獠に会うために
中学生の頃、初めて新宿駅に降り立ち、東口へと出た。
そう、伝言板を探すために。
誤解のないよう弁明(?)しておくが、私は東京生まれ東京育ちのシティーボーイだ。
ただ、生まれ育ったのが隅田川より東のエリアだったので、新宿に縁がなかっただけだ。
さて、その日新宿で見つけたのは、見たことのない“質”の人混みと、本物のヤ○ザだけ。
伝言板などかけらもなく、冴羽獠も実在しないことをまざまざと思い知らされてすごすごと隅田川を渡ったのだった。
ちなみに、新宿駅の伝言板は携帯電話の普及よりはるか前に、通行に支障があること、落書きだらけなことから撤去されていたとのこと…
(原作の連載開始時期の1985年頃には既に撤去済みだったらしい)
あれから30有余年。
本物の冴羽獠は、NETFLIXにいた…
NETFLIX限定配信の実写版「CITY HUNTER」
アニメ版で出会い、原作マンガにハマった作品が実写版になる…
実写化に心配が出そうな作品ながら、なんとなくいい作品になりそうな予感があった。
これが観たくてNETFLIXに入った。
先に言ってしまうと、CITY HUNTERのためにNETFLIXに入ったのは大正解だった。
何をもって大正解と言うのか、ネタバレしながら独り言を吐くことにする。
※以下ネタバレを含む。
※基本、敬称略。
※以下ネタバレあり(2回目)
キャストの感想
冴羽獠が冴羽獠すぎた
主人公・冴羽獠を演じるのは鈴木亮平。
このキャスティングだけで観る前から期待度が高まる感があった。
そして観た結果で言えば、最高に冴羽獠だった。
獠と言えば、裏の世界で知らぬ者はいないほどの凄腕スイーパーでありながら極度の女好き。
カッコよさとだらしなさが両極端に共存しながら、それでも一つのキャラクターとして成立する。
むしろそのギャップこそが獠なのだが、これを実写版で演じ切れる俳優はそういないだろう。
鈴木自身、原作の大ファンであり、いつか演じたいと願っていたとはいえ、これほどの完成度で仕上げるのは凄まじい。
原作者の北条司も、アニメ版で獠を演じる声優の神谷明も、それぞれインタビューで鈴木が獠を演じることに納得したと言うのも頷ける。
おちゃらけ獠ちゃんの時の声がほぼ神谷明ボイスだったのはご愛嬌だろう。
鈴木本人も神谷との対談で神谷の声から離れたかったが染みついた声から逃れられなかったというような発言をしている。
でも、それがよかったのだと個人的には思う。
むしろ神谷明ボイスも含めてちゃんと一人のキャラクターに収めている鈴木はすごい。
ガンアクションを中心にしたアクションシーンもカッコいいだけでなく自然だった。
それを支える肉体もきちんと獠だった。
そして欠かすことのできないもっこりシーン。
冒頭の「歓喜“もっこり”の歌」と、ショーパブでの「もっこりダンス」
任務中にもっこり美女によそ見してしまうのも、同行者や尾行者(今回の場合、香)を巻くためにナンセンスもっこりな行動に出るのも、原作のイメージにピッタリ。
鈴木が獠として“もっこり”を心の底から楽しんでいる感じが最高だった。
もう語っても語り尽くせないが、とにかく鈴木亮平の冴羽獠は最高に完璧だった。
惜しむところがあるとすれば、息絶える槇村を抱きながらのセリフ、「しばらくの間地獄はさびしいかもしれんが、すぐにぎやかにしてやるよ… 槇村…‼︎」がなかったことくらいだと思う。
(あえて言わなかったのかもしれないが)
槇村はもう少し見たかった
元刑事で獠のパートナー・槇村秀幸を演じるのは安藤政信。
一見頼りなく冴えない男に見えるのだが、腕は確かで冷静沈着。
獠が動で槇村が静という絶妙な組み合わせだ。
安藤と槇村ではイメージが合う感じがなかったが、これが作品の中ではビッタシハマっていた。
俳優ってすごいなぁ…
安藤自身は事前に槇村のイメージがなく、鈴木のアドバイスで役作りを進めたと語っている。
それでここまでの完成度なのは、鈴木のアドバイスと安藤の再現力の双方ともレベルが高いということだろう。
槇村というキャラクターは、原作ファンでは人気があるが、いかんせん死ぬのが早すぎる。
アニメ版でもかなり序盤で死ぬ。
本作でもオープニング曲の前には命を落としてしまう。
それでもその存在感は揺るぎない。
原作でもしばしば槇村が取り上げられるし、「劇場版CITY HUNTER 〜天使の涙」では時間こそ短いものの、物語に欠かせない描写となっていた。
今回のストーリーは原作の序盤、コミックスでいうと1巻半ばから2巻半ばにかけてのストーリーを下敷きにしたオリジナルストーリーだろうから、槇村の描写は(その最期も含めて)とても重要なのだが、安藤の槇村は過不足なく、ストーリーの核となっていた。
それだけに、ストーリー展開上仕方ないのだが、もう少し槇村を見たかった。
あまりに早い退出は儚くさえある。
その儚さこそが、今回のストーリーに必要といえば必要なのかもしれないが…
そう思わせるくらい、安藤政信の槇村が素晴らしかったということだろう。
原作と異なり、香が妹になった経緯からエンジェル・ダストに深く関わり、それ故にユニオン・テオーペから目を付けられていたという設定だったが、悪くはなかった。
この設定ゆえ、ユニオン・テオーペの巣窟に乗り込んだうえ、仲間になれという誘いを断るという原作の場面が不用になったというのはあるか。
むしろ原作のイメージを壊すことなく、本作のストーリーに合う設定にうまく落とし込んだなぁとさえ思う。
香が香になっていった
槇村の妹で、槇村の死後、獠のパートナーとなる槇村香を演じるのは森田望智。
あまりドラマや映画を観ないので、森田についての事前の印象はなかったが、本作のプロモーションのインタビューの様子からは香を想像できる雰囲気ではなかった。
香は表面的には男勝りでガサツな感じがあるが、内面的には繊細で奥手な面もあり、獠とは違う形で二面性をもつキャラクターだ。
兄(実は血が繋がっていない)との別れという悲しみ、苦しみを抱えながらも乗り越えようともがく姿は原作にも本作にも共通する。
原作との大きな違いは、兄の死の受け取り方だ。
原作では自らの誕生日祝いを自宅で待つ間に兄が殺され、獠からそのことを知らされる。
しかし本作では、レストランでの自らの誕生日祝いの場に乱入した暴漢によって目の前で殺されてしまう。
兄の死に立ち会ったことで、兄の仇を討つ使命に燃える香というキャラクター設定がより色濃くなった。
本作で最初に描かれる香は、原作やアニメでイメージしている香とは少し異なる気がした。
男勝りな部分、繊細な部分のいずれもがやや薄いというか、弱い印象だったのだ。
しかし、兄を失い、獠をある意味頼りながらも衝突し、気持ちが先走ってやらかしながら、ついに獠とバディを組んで敵と対峙する。
その過程を通して、香が香に、我々がCITY HUNTERの原作で接してきた香になっていくのである。
そもそも、原作にあっても、初出の香は男勝りではあるが、それ以上の深みまで感じさせない。
兄の死を受け、獠と共闘し、パートナーになっていく、その過程の中で槇村香が完成していったのだ。
原作において、獠はある程度完成した存在として描かれ、香は素材からどんどんと完成度を上げる存在として描かれているとさえ感じるところがあり、そういう意味では原作に忠実に香を描いた結果なのかもしれない。
コスプレイベントでの獠vs蠍で助太刀を試みる場面と、ローレに乗り込んでくるみ救出のために獠と闘ういわゆる“40人戦”の場面のそれぞれの香が対比として描かれていて、その構成のうまさに感銘すら覚える。
前者では周りが見えず無鉄砲なだけだった香が、40人戦では必死ながら的確なバディぶりを見せる。
特にオートマ銃のシリンダーを2本、ノールックで手渡したシーンは、それを受け取る獠の表情も込みで思わずつられてニンマリしてしまう。
そして40人戦の中で、獠の「プランBだ!」の号令に香が「元からAなんてないでしょ!」と返すあの場面、予告編で観たからわかっていたのにグッとくる。
もちろん、それは序盤にあった(獠)「プランBで行きますか」(槇村)「元からAなんてないだろう」という会話が伏線になっているのだが、その伏線が活きるのは、このセリフの応酬が獠にとって香がパートナーと呼ぶにふさわしい存在に近づくきっかけになっているからに他ならない。
(その後(獠)「プランCだ」に対して「えぇっ⁉︎…へ?うん、プ、プランCね…」と気圧されるように返すのも、香の必死さが伝わってかわいい)
そしてラストシーンの「あんたには新しい相棒が必要でしょ」というセリフ、さらにはそのセリフを境に獠/香と互いに呼び合う流れ、とてもいい。
森田は意識して香を無垢からシティーハンターのパートナーに作り上げたというから、 それは鈴木の役作りに匹敵する演技力だし、ものすごいセンスの持ち主ということなのだろう。
というわけで、森田望智の槇村香も大ハマりなのである。
(そして森田望智という俳優にもハマりそう)
冴子は悪くないがしかし…
時に美貌とグラマラスな容姿をも武器にしながら悪を討つ女刑事・野上冴子。
槇村は元同僚であり、獠ともただならぬ関係でもある。
本作で冴子を演じるのは木村文乃。
グラマラスかというとそこは届かないかもしれないが、それを埋めて余りある説得力のある演技だったと思う。
冴子は、“ツンデレ”ではなく“ツンエロ”とでも言おうか。
敵と対峙する時と獠のもっこりを討つ時には男性顔負けのファイターに変貌するにもかかわらず、その美貌を武器とするときは敵が敵意を喪失し、獠が前後不覚になるほどのエロスを醸し出す。
本作では、
①「罪な女だねぇ〜冴子ちゃ〜ん」とタコチューで迫る獠の顎を銃で押しやりながら「罪を増やさせないで」といなす場面
②獠と槇村に加担する冴子に対して「出世に響くぞ、野上!」と諭した先輩刑事・伊東に対して「や〜だ、パワハラですかぁ?伊東さん」と交わした場面
の2場面で、木村の演じる冴子が原作に負けない魅力的なキャラクターになる予感を抱かせる。
原作やアニメほどのエロスがあるかといえばそこまでではないかもしれないが、実写化に堪える最大限の冴子としてアリというのが個人的感想。
ただ、いかんせん出演時間が少ない。
本作の流れ上致し方ないのだが、もう少し木村の演じる冴子を見たかった。
そう思わせるほどに冴子の魅力が木村から滲み出ていたように思う。
海坊主はどうだったのか
獠とは海外での傭兵時代の敵同士であり、現在ではスイーパーとして凌ぎを削るライバルである海坊主(別名:ファルコン、本名:伊集院隼人)
本作ではマフィア梶田が演じている。
…らしい。
マフィア梶田を知らないからどうとか抜きにして、いや、一体どこに出てんのよ!
かなり短時間の出演らしい。
確かに、本作の流れ上、重要な位置に海坊主が出てくるのは不自然だし、いればわかるだろう。
もしかしてあの場面?と思うところはあり、なんとなくいる気もするのだが、確証が掴めない。
本当にあそこにいたのが海坊主なのだろか…
くるみの存在感
華村あすか演じるコスプレイヤー・ミルクことくるみは、原作にないオリジナルのキャラクターだが、本作の核となる主要人物としてシティーハンターの世界を創っている。
シティーハンターのストーリー展開は、依頼人(その多くはもっこり美女である)の依頼を受け、その依頼を遂行する中で生じる諸問題を獠が解決するというのが基本線。
ゆえに、依頼人が中心になって物語が進むことも多い。
しかし、今回は依頼人から探してほしいと依頼される捜索対象がくるみである。
SNSで人気のコスプレイヤーという表の顔と、裏に隠された寂しさ、さらに追われる者としての切迫感とエンジェル・ダストに侵された苦しさ、そんな様々な要素が入り交じるキャラクターを、華村が演じきっている。
そして、コスプレイヤーという設定が、シティーハンターを令和に繋いでいる部分もある。
そのキャラクターと設定に違和感がないのも、華村の熱演あってのこと。
誰も信用できない、頼れない、だから頼らない。
でも、心の奥底では救いを求めている。
そんな入り組んだ心境が過不足なく現れている。
そして終盤、ローレの実験室で起きた凄惨な現場をイスに縛り付けられて何もできずに見せられている時の、恐怖と焦燥感と絶望感の入り交じった表情は、そのシーンの切迫感を高めていて説得力があった。
本作の成功には、華村演じるくるみの設定とキャスティングの成功も一役買っているのは間違いないニョン。
脇役の素晴らしさ
いい作品は脇役がしっかりしている。本作でも脇を固めるキャラクターとそれを演じる俳優陣が素晴らしいのだ。
ユニオン・テオーペの組織側としては、実働部隊である羆(阿見201)と蠍(片山萌美)、おそらく幹部であり、化粧品メーカー・ローレ社長の瀬田月乃(水崎綾女)の秘書・今野國雄に擬態する男(迫田孝也)が挙げられる。
特に片山は元々個人的に推しなので、出演を知っただけでウキウキし、「もしや冴子では?」と勘繰ってしまった。
結果悪役の一人として登場するのだが、蠍がくるみの姉を騙って獠に捜索を依頼する場面の片山はまさにもっこり美女。
一転、コスプレイベント会場での獠とのバトルでの悪役ぶりや、最後獠の首を捉えて「さ〜え〜ば〜‼︎」と吠えながら麻酔に堕ちるところはまさに迫真の演技と言えるだろう。
それにしても、コスプレ会場に現れた蠍は、原作のこのキャラに見えてしまうのだが…
迫田の悪役ぶりもよかった。
悪役らしい悪役、わかりやすい悪役、悪役だろうという期待を裏切らない悪役だった。
冴子の先輩刑事・伊東(杉本哲太)の立ち回りもよかった。
序盤で獠を「ゴロつき」と見下し、槇村を悪し様にこき下ろすあたり、アニメ映画に登場する“公安の下山田”的なキャラクターかと思ったが、まさかの裏切り。コスプレ会場からくるみを救護すると見せかけて攫う件、初見では騙された。
新宿を縄張りにする阿久津組の組長・阿久津の橋爪功はさすがの存在感だった。
あこそに強面ではなく老獪なキャラクターを当てるあたり、なんかわかってるなぁという感想。
アニメ版で獠の声優を務めるレジェンド声優・神谷明もチョイ役ながら声で出演した。インタビューで鈴木が感心した通り、神谷の声とハッキリわかりながら、獠の声とは違っていて、さすがはレジェンド!と唸ってしまう。
とにかく、メインからサブに至るまで、キャスティングには文句なしである。
場面設定の感想〜オリジナル設定と随所に光る原作愛〜
槇村がナイフで闘ったワケ
槇村がエンジェル・ダストの暴漢に襲われた際、手近にあった食事用のナイフで応戦する。
原作では両肩に1発ずつ銃弾を撃ち込むのだが、なぜ違う描写になったのか。
銃による反撃をしなかったのは、香の誕生祝いのレストランという場面で銃を所持していなかったということがまず挙げられるのではないか。
原作と同じ、コルトローマン・MkⅢを使っていたことは後に出てくるが、その銃をいつまで使っていたのかは触れられていないので、すでに銃を使わなくなって久しい設定だという可能性もある。
もう一つは、エンジェル・ダストの設定。
投与後、短時間の間本来のポテンシャルを超える身体能力を引き出すところは原作と本作で共通するが、どうも本作のエンジェル・ダストは銃弾に敵うものではないようだ。
終盤、エンジェル・ダストを投与したと見られる人たちを銃殺するシーンがあることからもそれが伺える。
だとすると、槇村が襲われた際に銃で反撃したら倒せてしまう。だから、槇村が銃以外で反撃する必要があったのだ。
では、なぜナイフ、それも食事用のナイフだったのか。
もちろん、レストランという場面設定で自然だからというのもあるだろうが、原作の一場面がモチーフになっているように思えてならない。
シルキィクラブに呼び出された槇村が、ユニオン・テオーペから暴力団組長の始末を依頼され断るシーン。
その態度に激昂して背後から襲おうとした下っ端に対して…
私など、本作で槇村が暴漢に対してナイフを手に取った刹那、この場面を思い起こしたほどだが、どうだろうか。
阿久津組のカジノ
もっこりダンスで香を巻くことに失敗した獠は、観念して香同伴である場所に向かう。
重厚な扉、厳重な警備、怪しげで屈強な門番…
一旦は門番に止められた獠。
しかし、店内から出てきた別の男が耳打ちすると、門番は態度を一変して獠を中へと案内する。
中はカジノだ…
カジノと言えば原作ならこのシーンだ。
原作に登場するカジノはユニオン・テオーペが裏で手を引く場であり、組織の資金源である。
ここで客を装って金を巻き上げる幹部の男爵を獠が仕留め、ユニオンに対する宣戦布告となる。
本作では、新宿を根城にする暴力団・阿久津組の持ち物として描かれる。
冒頭でくるみを助けようと乗り込んで大立ち回りしたのも阿久津組の事務所。
当然その場に居合わせた若い衆は遺恨を晴らさんと詰め寄るのだが…
若頭らしきお偉方が制裁を加えたのは、獠ではなく若い衆。
そこで阿久津が言う。
「とりあえずこれで手打ちしてくれねぇか。まだ若いモンの教育ができてねぇんだよ、冴羽さん」
獠「元気そうじゃねぇか、爺さん」
若い衆「冴羽って…シティーハン…(睨まれて黙る)」
これも、原作のどこって指摘するのは難しいけど、原作にありそうな流れだ。
しかも、このシーンを通じて獠が裏の世界で顔が効く存在であること、実は槇村の死の真相に向き合っていたことを香は知る。
そして阿久津の呟きがきっかけになって獠&香がくるみと出会う。
それにしても、このシーンで「あんた…ズボンを履いてくれ」という小ネタを挟むセンスよ…(最高)
人混みを銃弾がすり抜ける
ようやく見つけたくるみに逃げられてしまう獠と香。
ライブハウスに逃げ込んだくるみを、今度はユニオンの刺客が狙う。
くるみに銃口を突きつけるのは羆。
獠にその姿を見せつけて挑発する。
ここで獠はコルトパイソンのトリガーを引く。
放たれた弾丸は人混みの隙間をすり抜けるように羆の左肩を撃ち抜いた。
鈴木は神谷との対談で、このシーンの元が「喧騒の中で銃を撃ち、車のエアバッグを作動させる」シーンを想起したと語っている。
しかし、どちらかと言えば、人混みの公園でナンパ男のベルトのバックルをピンホール・ショットした場面の方が近い印象だ。
いずれにせよ、獠の正確無比でかつ大胆な射撃を端的に表現している。
さらに、その後羆が反撃しようと銃を構えるも、人混みに遮られてトリガーが引けない描写が、獠の超絶ぶりを際立たせるという演出も続く。
それにしてもこのシーン、演者が動きをスローにして撮ったと鈴木は語っていたが、それもまたすごいな…
ガラス越しの…
前半に原作に対するリスペクトを詰め込んだことで、中盤以降のオリジナル設定にも説得力が加わったように思う。
また、緊迫するストーリー展開の中で、香とくるみでコスプレイベントの練習で盛り上がるシーンを挟むなど、緩急も効いていてシティーハンターっぽさが補強されている。
さて、コスプレイベントでの大立ち回りの中、刑事・伊東の裏切りもあってくるみは組織の手に渡ってしまう。
くるみを助ける方策を模索する中、獠は香の思いを汲み取り、装備を揃えて香とともに行動を起こすことを決意。
さりげなくくるみに仕込んだ発信機と阿久津(“あっくん”って…笑)からの情報を元に組織のアジトへ乗り込む。
この緊迫した場面で「大人の話だ、黙っていなさい」「何も言ってないけど⁈」という軽妙な会話を挟むのは粋だ。
一方、冴子率いる公安も、裏切りの結果組織に始末された伊東のデータから組織のアジトを割り出し向かう。
獠と香は“40人戦”をくぐり抜け、今野に捕えられるくるみを追う。
エンジェル・ダストで強化された羆と闘う獠を置いて先に今野に追いついた香だったが、今野とくるみがいる部屋を遮る防弾ガラスに阻まれ、さらには衝撃の過去も告げられる。
ガラス越しのシーンと言えば、原作の最終盤、海原神との対決を終え、爆発する船からそれぞれで逃げねばならないという場面で獠と香が交わした「ガラス越しのキス」が浮かぶ。
鈴木もインタビューでこの件に触れている。
本作では、ロマンチックとは真逆の、シリアスなシーンであり、香の悲痛な叫びが観る者にも重く響く場面である。
ここで追いついた獠がガラスに銃弾を撃ち込む。
獠の“ワンホール・ショット”が防弾ガラスを撃ち抜き、相手の額、左胸と急所の位置に穴を開けていく。
ここで“ワンホール・ショット”はシビれる。
そして、穴だらけにしたガラスの壁を破ってくるみの元へ飛び込み、瞬く間に今野の動きを封じてしまうのである。
この先、本作のクライマックスは、ほぼオリジナルで進んでいく。
しかし、そこに至る過程で散りばめられた原作への愛があればこそ、観る我々は抵抗なく安心してオリジナルストーリーに没入できるのだ。
今野に銃口を向けるも引き金を引けない香、その銃を優しく取り上げ「いいんだ」と言わんばかりに向き合う獠、その胸で嗚咽する香…
それを最後の勝機と必死に銃を拾う今野は組織によって遠隔で始末されてしまうが、始末されてなくても獠の手に収まっていたコルトローマンの銃口は今野を捉えていたのだった(という細かいシーンを私は見逃さなかったし感心したんだぞ、という多分無駄なアピール)。
ラストシーンからGet Wild
一夜明け、朝を迎えた平和な新宿。
獠の部屋を掃除する香
部屋から消されそうなお宝を守ろうと必死な獠
そこで出る名セリフ
「あんたには新しい相棒が必要でしょ?」
原作にもあるセリフだが、原作はもう少し重い。
兄を失ったという悲しみを誤魔化すように勢いで啖呵を切ったという印象だ。
本作では、兄の仇を討つという使命を獠とともに一定果たす中で、獠と一緒に歩むんだという前向きな決意であるという印象を受ける。
それだけに、表情を含めてとても軽やかだ。
でもそれもいいなと感じた。
そのシーンに原作と同じ構図の槇村と香のツーショット写真が飾られているのは最高にわかっている演出である。
これを境に「あんた」などと呼び合っていた二人が「獠」「香」と呼び合う…ことに…なるのかなぁ〜…と、続編を期待させるニクい終わり方だなぁとも思うのである。
というわけで、だいぶ脱線したりネタバレしたりしたが、原作愛をふんだんに盛り込んだ場面設定は、原作の世界を壊すことなくオリジナルのストーリーを展開することの成功へと導いたと言えるだろう。
続編への期待
各種インタビューで鈴木をはじめとするキャストや対談相手が言及するように、本作はこれで終わりではなく、続編への期待を抱かせるに十分な内容になっている。
だとすれば、一ファンとして続編に何を求め、期待するのか。
勝手に続編の構想を語りたい。
冴子の物語
キャストの感想でも触れたように、木村文乃の冴子は登場機会が少なくて残念だった。
それゆえ、続編では冴子が中心になったストーリーを期待したい。
原作の何かというのは難しい。
ハーレムが出てきたり、女装趣味のボスが出てきたりと、令和のコンプラ的に難しい作品が多い。
オリジナルストーリーで、槇村との関係が描かれるもよし、獠との関係が描かれるもよし、妹・麗香を登場させてのバタバタ劇もよし…
今回の脚本と同じ愛情とこだわりがあれば、安心してオリジナルストーリーを期待できると思うのだ。
海坊主の物語
やはりこれも外せないだろう。
海坊主の登場と活躍を考えると、モチーフにしてほしい原作が思い浮かぶ。
海坊主が密かに支援していた傭兵時代の上官の娘を、逆恨みで狙う元傭兵仲間から守るために獠と共闘する話
傭兵の頃に世話をした少女から求婚され、獠を使ってそれをかわそうとする話
あたりを下敷きにうまいことやってくれないだろうか。
伝言板一面に描かれたXYZも再現してほしい。
それと、後者は個人的推しキャラである美樹の登場にも繋がるので、併せて期待したい。
さらばハードボイルド・シティー
原作を基に制作される話が多いテレビアニメ版だが、アニメ版オリジナルストーリーも存在する。
特に多くのファンの印象に残るアニメオリジナルストーリーが、「CITY HUNTER 2」の49・50話「さらばハードボイルド・シティー(前後編)」である。
飲み潰れて女性を家に連れ込んだ獠にシビレを切らして香が家出してしまう。
時を同じくして、国際テロリスト集団・ブラックアーミーが、新宿に原爆を仕掛けたと警察に通告してきた。
獠が連れ込んだ女性を執拗に狙うブラックアーミー、その首謀者・セイラはさらなる要求を警察へ突きつける。
しかし、セイラの正体は…
獠が香を思う気持ちが前面に現れる貴重にして胸が熱くなるストーリーが多くのファンを魅了する名作である。
しかし、前後編とは言え、正味40分強の尺ではやや雑さや駆け足感も否めない。
この話を下敷きに、本作並みの80〜90分で再構成すればますます名作に仕上がるのではないかと期待が膨らむ。
海原神との対決
これは続編として期待する以上に、ここまで行けるのか?という懸念もあるが、本作がユニオン・テオーペとエンジェル・ダストを扱った以上、最終目標にはなるだろう。
原作のいわゆる「海原編」と、アニメ劇場版「CITY HUNTER〜天使の涙〜」とでストーリーがだいぶ異なるが、個人的には劇場版の脚本の方が好みである。
(ミックというキャラクターは好きなのだが…)
続編としてこの話が観たいというより、この話に辿り着くまで続編を出し続けてほしい、が正しいのかもしれない。
キャスティングについて
今回の作品のキャスティングがほぼ完璧だったので、続編のキャスティングにも口を出さずにただ期待したい。
どんな脚本になっても必出なのは、野上麗香(冴子の妹)と美樹(海坊主に求婚)(←推し)だ。
香に森田望智、冴子に木村文乃を当てた製作陣が誰をそれぞれに見出すのか楽しみだ。
もしかして出るかも、あるいは出してほしいと思うキャラクターは…
冴子と麗香の父・野上警視総監
銀狐
教授
ただ、今回の脚本への信頼感もあるので、むしろ実写版オリジナルキャラクターの方が楽しみかもしれない。
そしてシティーハンターは永遠になる
〜まとめに代えて〜
生意気にいろいろ呟いたが、NETFLIX実写版「CITY HUNTER」は、原作への愛が詰まった最高の作品だった。
オリジナルストーリーでありながら、原作の軸となる部分、原作を愛する人が愛している部分を大切に形にした本作は、マンガやアニメの実写化におけるお手本ともなり得よう(というどこかの受け売りも言いたくなる)。
連載開始から40年、CITY HUNTERは本作をもってますます輝きが増し、永遠不朽の名作になる。
そんな予感を、ファンに抱かせる大成功の実写版だった。
シティーハンター冴羽獠を愛して作品にしてくれた主演・鈴木亮平、脚本・三嶋龍朗、監督・佐藤祐市をはじめとするキャスト、スタッフ、そしてGet Wildに、最大限の感謝と賛辞を、
心からの拍手と、笑いと感動で溢れる涙で伝えたい。
(注)
当然だが、全文基本個人の、見解、感想である。
文中の敬称は省略した(2回目)
この文における「コミックス」とは、
集英社刊ジャンプコミックスを指す。文庫版(集英社)、完全版(徳間コミックス)、XYZ Edition(ゼノンコミックス)とは、巻やページが異なる場合がある。あえて偉そうな文面にしているが、私は偉くもなんともない無名の人である叩かないでほしい。
私は、いや私も、CITY HUNTERを愛しています。