ある受刑囚の手記1・改
過去作の推敲・改定版となります。
その国に死刑という制度はなかった。
代わりに人としてあらゆる権利を剥奪されるのだ。
すべての衣類をはがれ、特殊な薬品を徐々に注入する首輪をはめられる。
まず二本足で立って歩くことが困難になり、手でものをつかむことも出来なくなる。やがては人間らしい理性や感情もみな失われ、一匹のケダモノへと生まれ変わるのだ。
私もまたそうした受刑者のひとりだった。
卒業旅行で訪れたあの国で、トランクにまったく覚えのない禁止薬物が入っていたとして逮捕され、先進諸国では考えられないような駆け足の裁判の末、獣化刑を言い渡されたのだ。
自分に何がふりかかったのかもつかめないまま、私はケダモノになった。
受刑者としてすごした約3年。その記憶はひどく曖昧だったり、ところどころ鮮明だったりしている。
最初の数日はただただ泣き暮らしたように思う。
道行く人に自分の潔白を訴えることもしただろうか。もうとうに人の言葉などあやつれなくなっていただろうし、そうでなくてもあの国で受刑者の声に耳を貸すものがいたとも思えないけれど。
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