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藤沢奈緒
2020年8月14日 17:34
エリカは悲鳴をあげかけて、すんでのところで思いとどまった。たぶん、使用人たちが飛んできてまたごたごたすることを嫌ったのだろう。何事かぶつぶつこぼしながら、自分で私の尿の始末を始めた。不思議と、というのは今こうして思い出して感じることだが、手際は良かったと思う。私の前にその離れ屋をあてがわれていた何かの動物の世話も、彼女がしていたのかもしれない。
2020年8月11日 11:12
エリカは当時あの国でも普及の始まっていた、それでも子供が持つにはまだまだ贅沢品だったはずの携帯端末を取り出して、たぶん自宅へだろう、通話した。相手は大人だったはずだけど、その態度や簡潔な物言いから、彼女が他人に何かを命令することに慣れた人種であることは分かった。さほど待つまでもなく、外国製の大型車が校門の前に乗り付けた。制服姿の運転手と、力仕事専門という感じの作業着の使用人ふたり。彼らは
2020年8月6日 12:25
ある受刑囚の手記1ある受刑囚の手記9子供たちとの話を続ける。軽く触れるだけのつもりだったが、書いているうちに思い出してきたこともあって、思った以上に長くなりそうだ。そうなるとやはり名前のないのは話しづらい。以降便宜的に仮名をつけるがもちろん私が勝手にそう呼ぶだけで、彼ら彼女らの本当の名前は知りようがない。今では高等科学校に進んでいるだろうか。万万が一にも当人たちに迷惑の及ばないよ
2020年8月5日 18:24
ある受刑囚の手記1ある受刑囚の手記8受刑者にとって子供は天敵のようなものだ。大人なら見てみぬふりをする私たちのことを放っておいてはくれない。小さな子供が私を指差して、そばにいる大人に何かを尋ねる姿を、何度も見た。「あのお姉ちゃんはどうして裸なの?」とでも聞いているのだろう。「あのお姉ちゃんはワンワンなの?」かもしれない。聞かれた大人も答えに困るだろう。見るんじゃありません、
2020年8月5日 09:44
ある受刑囚の手記1 ある受刑囚の手記7前にも書いた通り、したいとなったら交渉も同意もあったものでなく、すぐ始まるのが受刑者たちの交尾だ。たまたま目に留まったとか、体臭が気に入ったとか、始めるきっかけなどどうでも良かった。場所など当然選ばない。思いがけないところで突然犯されたことも一度や二度ではない。人間たちからは忘れ去られたような廃屋をのぞいては、まず屋外であることが多い。道端
2020年8月4日 12:09
ある受刑囚の手記1 ある受刑囚の手記6ここ数日、私は発情の時期を迎えている。受刑者に投与される薬剤には、生殖能力を大きく阻害する働きもあって、ケダモノどもが勝手に数を増やすのを防ぐ目的でだろうが、おかしなものでそれでも身体は交尾を求めてしまう。私の中のケダモノは今もオスを望んでいる。人間の男性にはとても癒せまい渇きだ。一度、冗談まじりにだが、性欲処理用にせめて大型犬でも飼ってはもら
2020年8月3日 09:41
何が起こったのか分からなかった。目の前に見せつけられる食餌のことしか考えられなくなっていたせいもあるし、なんといっても死角から突然だったからだ。体当たり。かつてはさぞ鮮やかだったろう金髪をふりみだしたジーマとの、それが最初の出会いだった。初対面から友好的な受刑者もいるものではなかったが、ジーマの場合はとことん攻撃的だったと思う。状況を理解する間も与えず、さらに飛びかかってきて、喉笛に噛
2020年8月2日 10:21
身体を許した多くのオスたちとともに、今でもよく思い出すのはジーマのことだ。私がもっとも多くやりあったメスだと思う。ジーマというのは今適当につけた、もちろん仮名だ。受刑者になった時点で名前などなくしたも同じなのだが、やはり受刑者A、受刑者1などでは話しづらい。以後これと同じと思ってもらいたい。何の目的もなくホテルの立ち並ぶ区画へ迷いこんでしまうことが多かった。私自身も人間だった頃に宿泊