第40号(2024年12月20日)アサド政権を崩壊させ、ミャンマー軍事政権を追い詰めるドローン(2024年11月期)
みなさんこんにちは。今号は11月期の話題を中心にご紹介します。今年は今号が最終号になりますが、一年間、本当に有難うございました。来年1月の新年号でまたお会いしましょう。くれぐれもよいお年を!
ウクライナ発、空飛ぶドローン母艦とはー固定翼ドローン×FPVドローンの組み合わせで広がる可能性ー
概要
The War zone に2024年10月31日掲載(記事本文)
原題 "Watch A Ukrainian Uncrewed Aerial Mothership Launch Kamikaze
要旨
ウクライナで独自開発されたDovbush T10固定翼ドローンが、自爆FPVドローンの母機として新たな役割を果たしている。この新たな構成ではT10は母機としてのみならず、高機動な自爆FPVドローンと操縦者の間の重要な信号中継点としても機能する。
ウクライナを代表する電波戦の専門家であるセルヒィ・フラッシュが自身のテレグラムチャンネルで、翼下に2機のFPVドローンを搭載したT10のテスト映像を公開した。彼によれば、T10は一度に最大6機のFPVドローンを搭載できるとのことだ。興味深いことに、ドローンはペイロードを介して翼に逆さまに固定されている。なおテレグラムの投稿ではT10の性能やFPVの飛行可能距離については明かされなかった。
こうしたFPV空母には複数の利点がある。母機から発射されることで、短距離のFPVドローンの射程と滞空時間が延び、目標の特定や攻撃が容易になる。また、母機上で信号を中継することで、FPVドローンの操作性が向上し、接続性が維持しやすくなる。このような母機とFPVドローンの組み合わせは、ロシア軍も使用しており、米軍など他国でも研究が進められている。
AI技術の導入により、FPVドローンの能力はさらに向上する可能性がある。ウクライナのT10はこの種の設計としては最初ではないが、この組み合わせの有用性を示す新たな証拠となっている。
コメント
無人機に無人機を搭載するというアイデアは中々面白い。記事にあるように、FPVドローンを母機に搭載することで有効射程が延長されると同時に通信可能距離も増大することができる。
このことは既存のFPVドローンを近距離兵器から遠距離兵器へと変えることができる、ドローンパイロットをより前線から遠ざけることができるといった利点が生まれるだろう。
組み合わせ次第で今までできなかったことができるようになるのが、ドローンの面白いところだといえよう。ドローンの性能それ自体はさることながら、組み合わせが肝となるのだ。(以上、NK)
Flashが自らアピールするだけあって、単に固定翼にFPVを搭載した!というのとも一味も二味も違う。特にFPV用の電波中継機を搭載した固定翼の制御と逆さから発射するFPVの制御のあたりが隠し味だろう。これらを考慮すると固定翼、FPVそれぞれ単体における通常の運用(ソフトウェア、設定などを含め)とは異なるのは明らかだ。
テスト中との事で詳しくは触れないが、Xなどで見られる法規制に従順な国内ドローン村では思いつく事も出来ない手法である事は明確だ。まあ、このように現代戦においては新たな技術を試す事が出来る環境と許容される風潮が不可欠なワケだ。
が、Xで誰かがドローン映像を公開するのを見るやいなや反射的に「許可とりましたかぁ…」と問いかける風紀委員のような、ある意味「ダサい」対応が日常化しているようでは到底難しいだろう。この「ドローンを広める界隈間違えた」問題をどこで、軌道修正するか、という社会課題克服が急務かも知れないねぇ。(以上、量産型カスタム師)
ウクライナの長距離打撃ドローン部隊の内側
概要
CNN World に2024年10月16日掲載(記事本文)
原題 "Exclusive: Inside a secretive Ukrainian drone unit targeting Russian territory"
要旨
長さ13フィート、翼幅23フィートのAN-196 Liutyi無人機は、真っ黒なウクライナの夜に一瞬で消えた。車のヘッドライトに照らされたその灰色の機首にはウクライナの情報機関であるGURのロゴが貼ってある。CNNはGURの一部隊である「長距離UAVユニット」に2日間にわたって密着取材を行った。
取材に応じることが許されたのは、GURの長距離無人機作戦司令官のセルジュと部隊司令官のベクターの2人だった。セルジュ司令官は2022年2月以来、500件以上のロシア領内への長距離ドローン攻撃を指揮してきた。CNNが密着した長距離ドローン部隊は、ロシア領内の弾薬庫、具体的には車両庫内にあるイランのミサイルを積んだ列車車両を攻撃する模様である。
この施設はロシア南西部のヴォルゴグラード地方のコトルバン郊外にあるという。また9月に、部隊はモスクワとサンクトペテルブルクの間にあるトヴェリ地方のロシア軍弾薬庫を攻撃した。
地下オフィスでセルジュとベクターが、ロシアの防空システムや電子戦システムを記述した地図を持ちながら目標設定を行う。この目標設定を元に、部隊でミーティングを行い、部隊のメンバー達は飛行ルートを検討する。各ドローンはロシアの防空システムを回避するために1000以上のウェイポイントでプログラムされている。ベクターはミッションの計画段階が重要であり、「計画段階が成功の60%を占めている。すべては計画次第だ」と語った。
またベクターは部下たちがドローンの飛行ルートをプログラムしている様子の一部が、ビデオゲームに似ていることを暗黙のうちに認め、「彼らと遊んでいるように見えるだろう。」と冗談めかして言う。しかし「これはゲームではない。戦争なのだ」と付け加えた。
ドローン部隊の倉庫には250kgのペイロードを装備するLiutyiだけでなく、ルバカ自爆ドローンも置かれている。ベクターはこのドローンはロシアの防空システムを圧倒し、Liutyiからロシアの砲火を引き離す囮としての役割があるという。囮用のドローンの翼には金属箔の帯が追加され、ロシアのレーダーを欺くように加工されている。
暗闇の中、ドローンの胴体と翼がトラック1台につき3個ずつ積み込まれ発射場に運ばれる準備が整う。今回の攻撃にはこの部隊に加え、80人のGUR工作員が他の90機のドローンを発射するために準備をしている。発射されるドローンのうち約30%は囮任務に従事することになる。
隊員達がドローン本体に弾頭を装填し、最終準備を行う。その様子を観察しながら戦闘服に身を包んだベクターは、「(ロシア国民は)ウクライナで何が起こっているのか理解していないかもしれないが、これらのドローンが到着すると我々が過去10年間何をしてきたのかをはっきり理解する」と述べた。
ドローンが離陸する際には、ドローンが離陸する後ろをパイロットを乗せた車が走っている。ドローンが離陸に成功すると、ベクターはブレーキを踏んで「完璧だ!」というと、ラジオから愛国的な歌を流しUターンした。基地に戻り、ドローンの攻撃が成功したかをベクター、セルジュや部隊の兵士達は確認する。攻撃の成功は現地からの人的インテリジェンス、ロシアのテレグラムグループでのメッセージ、衛星技術を使用した分析という3つの方法を用いて評価するとのことだ。
コメント
ウクライナ軍秘密の長距離ドローン攻撃部隊に密着したこの記事は興味深い情報であふれている。ちなみにこの部隊の関与したロシア軍弾薬庫への攻撃については第38号で紹介しているので是非ともご覧いただきたい。
まずロシア軍の防空網を避けるために、ウェイポイントを細かく設定していたが、これはロシア軍の防空網に対する情報がなければできるものではない。恐らく以前実施した攻撃でのデータや、他のインテリジェンスを統合してロシア軍の防空網をマッピングしているのではなかろうか。
本土防空において防護すべき対象はそう簡単に移動するものではないだろうから、防空施設も特定の場所に配置されることになる。故にマッピングが可能となるのではないか。
またルバカ自爆ドローンがデコイとして運用されているという話もあった。ルバカ自爆ドローンがそのように運用されているのも興味深いが、何よりもデコイとして運用するために吹き流しの金属箔を取り付けるなどの改造がなされている点に注目した。
簡単な改造でも目的を達成できるようになるということは抑えておくべきだ。余談ではあるが、ウクライナが様々開発・運用しているドローンの種類が多すぎて、たまに機体の判別に困るようになってきた。例えばウクライナ軍が運用しているヴァンパイアはロシア側からバーバー・ヤーガーと呼ばれているのだが、バーバー・ヤーガーをヴァンパイアの別名と知らず、恥ずかしながらついこの間まで別個のドローンだと認識していた。
また損害確認についても現地からのインテリジェンス、ロシアのSNS、衛星技術の3つから総合して判定しているという点が興味深い。損害確認を軽視してしまえば、その後の運用にも影響が出てしまうのは戦史に無数にある事例が証明してくれている。なおここの記述については衛星技術という記述があるが、書きぶりからして衛星写真だけではないのだろうと推測する。SAR等も使用しているのではないだろうか。(以上、NK)
忘れられているドローン戦争ーミャンマー内戦ー
概要
Observer Research Foundation に2024年6月19日掲載(記事本文)
原題 "Drone warfare in Myanmar: Strategic implications"
要旨
ミャンマーでの紛争が激化する中、反乱軍側による商用の武装ドローンの使用が増加している。最近、反乱軍側は軍事政権に対して勝利を重ねているが、これらの戦闘においてドローンを使った戦術が戦況を変える重要な要素となっている。
2020年にミャンマー空軍は反乱軍の一部であるアラカン軍に対してドローン攻撃を行った。このころは政府軍のみがドローン攻撃を行うことができていた。しかし2021年のクーデターにより、状況は大きく変化した。テクノロジーに精通した反乱軍側の勢力がドローン技術を入手し始め、政府軍を爆撃できるようになった。
反乱軍側はドローン技術の拡散により、安価なDJI製の市販用ドローンから、今では3Dプリンターで制作したものを含む多様なドローンを運用しているという。2021年10月から2023年6月にかけて、ミャンマー軍に対する抵抗勢力は1400件のドローン飛行に関する動画をオンライン上に投稿しているとのことだ。ドローンやドローンのパーツはオンライン上で調達され、動画投稿を通じた資金調達も行われている。
反乱軍側の中でも三兄弟同盟と呼ばれるグループはドローンの使用を戦術の中に組み込んでいる。この組織は、ドローンを用いて領土の地図作成や軍隊の規模把握、そして軍の拠点への攻撃を行った。2024年4月には首都ネピドーで、空港等を標的とした大規模な無人機攻撃が実施されるなど、戦術の変化が観測されてつつある。
一方、政府軍もこうした反乱軍側の動きを学びつつある。政府軍も中国製商用ドローンを数千機調達し、武装化しているという。2013年に購入した中国製CH-3は重要な局面まで温存されていると指摘されている。
コメント
ミャンマーでの紛争がエスカレートするにつれて、非国家主体による商業用武器化されたドローンの使用が増えており、これは重大な戦略的意味を持っているという点に言及した記事です。ウクライナ紛争の陰でなかなか終わらないミャンマー紛争ですが、やはりここでも、政府軍及び武装勢力の双方が戦争の各階層においてドローンが運用してることに言及しています。
従前ミャンマーの制空権は国軍が保持していましたが、ドローンの運用領域である空地中間領域においては一進一退の状況が続いています、これは大きな資金も運用コストもあまり必要ないドローンだからこそ、このような状況が発生しているのではないかと思います。
特に一般的に国軍と比較すると武装勢力の方が組織規模も小さく、官僚機構より戦うための組織編成をとっている場合が多いため、紛争の状況に適応しやすい、紛争で得られた教訓を直ちに実戦に取り込んでトライアルエラーを行いやすい環境にある。
このことから考えると、武装勢力は間違いなくウクライナ紛争のドローン運用を観察・研究しており、その成果を実戦で試していると考えることができます。これは、ウクライナ紛争の成果がリアタイで他の紛争に影響していることを意味しており、現代戦の特色の一つでもあると言えると思います。
また、興味深いこととして、この記事はミャンマー紛争におけるドローンの運用における戦略上の影響にも言及しています。特に私が重要だと思ったのは戦術ミサイルや戦車等と比較して、見かけの能力上小規模と言えるドローンがエスカレーションラダーを上げるという事実に言及している点です。
武装勢力はミャンマーの国境地帯付近で戦う場合もあり、政府軍からの攻撃を回避するために越境するということに言及しています。その場合、政府軍は合法的に国境を超えて攻撃することは難しいため、ドローンを使って攻撃する可能性があり、それがエスカレーションを招く可能性があるということを指摘しています。
例えばミャンマー政府軍側とタイの国境は密林地帯で武装勢力がタイ側に逃げ込んだ場合、その発見・探知は簡単にはできない。しかし、ドローンを運用すればその発見と状況により攻撃は可能になります。
ただ、このようなことをミャンマー政府軍が行った場合、タイ政府が黙っているわけはなく、ミャンマー紛争が国際紛争にエスカレーションする可能性すら考えられる、というわけです。
一方でミャンマー政府軍側がこのようなことを行なっても、タイやバングラディシュ側にドローンを探知する能力がないことにも触れています。
少し本記事から論点は外れますが、ミャンマーに国境を接している各国の共通の解題は国境警備です。このような点からも考えると国境地域におけるドローン対策をどうするかという部分も、地域紛争のエスカレーション防止という観点からも重要であると思います。
対ドローン能力の保持は、各国共通の課題といえますが、一般的に言われるのは軍事施設や重要インフラをドローン攻撃から守るという戦術的観点からです。しかし、対ドローン能力の保持は、エスカレーション抑止という戦略レベルにおいても重要であると、我々は認識を改める必要がありそうです。(以上、CiCi)
シリア内戦で反政府勢力がFPVドローンを使用し、アサド政権打倒に貢献
概要
Qalaat Al Mudiq に2024年11月28日掲載(記事本文)
要旨
シリア内戦では反政府勢力がドローンを有効活用して戦況を有利に進めているようだ。反政府勢力が初めて公開した映像には、クアッドコプター型のドローンに爆弾を装着したり固定翼タイプのドローンを運用している姿が記録されていた。
固定翼タイプのドローンは政府軍司令部等への自爆攻撃に使用されているほか、
爆撃型の固定翼ドローンはアサド軍部隊への爆弾投下にも用いられていた。
注目すべき点はFPV自爆ドローンを使用している点だ。映像では歩兵や戦車に対して自爆攻撃を実施している。
コメント
このコメントを書いている間に、反政府勢力の快進撃は続きアサド政権は倒れた。ドローンの活用は、この快進撃の戦術レベルにおいて貢献したのではなかろうか。ウクライナで使用されているようなFPVドローンの活用が見られているが、この光景を見て中東で生まれた軍事における小型ドローンの活用がウクライナの戦場を経て生まれた故郷に帰ってきたとの感想を持った。
そもそも小型ドローンが戦争で用いられた最初の事例は中東で発生している。今では中東から広がった小型ドローンの活用は全世界へと拡散し、この手法や技術も精緻化が益々進んでいる。我々はそうした時代に生きているのだ。
加えてなぜ反政府勢力がこうしたウクライナで用いられているような手法を使用できているかという点が気になるところだ。ウクライナではSNS上で様々な動画が公開されているためそこで学べることはある。しかし細かいテクニックや公開されていない情報があるはずだ。その点に関して興味深い記事が見つかったので次に紹介したい。(以上、NK)
ウクライナがシリア内戦で反政府勢力にドローン戦術を伝授して支援ーデータを使用した軍事支援ー
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