第34号(2024年9月20日)FPVドローンによる戦闘ヘリ襲撃の衝撃、そして米特殊部隊のドローン狩りの試み(8月期)
みなさんこんにちは。夏の暑さも和らいできたとは言えまだ汗ばむ9月半ばいかがお過ごしでしょうか。今号は8月期の話題を中心にご紹介します。
FPVドローンによるヘリコプター攻撃が成功ー空飛ぶ地雷原ー
概要
The War zone に2024年8月7日掲載(記事本文 )
原題 "Russian Mi-28 Havoc Attack Helicopter Engaged In Mid-Air By Ukrainian Drone"
要旨
ウクライナ軍のFPVドローンによってロシア軍のヘリコプターが攻撃を受けた。これは史上初の出来事であると見られている。ウクライナ軍のFPVドローンが、ロシア軍のMi-28ハボック攻撃ヘリコプターを攻撃した映像が公開された。
映像には、ドローンが機体左後方から接近し、尾翼の周囲を旋回したのちテールブーム右側先端に取り付けられたテールローターに衝突したと見られる姿が捉えている。
テールローターはヘリコプターの弱点であり、ドローンが衝突もしくは携行する弾薬が爆発したとなればMi-28といえども任務継続は難しくなり、最悪の場合は墜落しうる。
ウクライナの報道によればこの攻撃は、ロシア南西部のクルスク上空で行われた模様である。ウクライナ保安庁(SBU)のM2部隊が攻撃を実施したと報道されている。
またロシア側のSNSでは攻撃されたMi-28は強制着陸を余儀なくされたとのことである。クルスク攻撃では少なくとも2件のFPVドローンによるヘリコプターへの攻撃の可能性が指摘されている。
記事では、こうしたドローンによるヘリコプターへの攻撃は、ヘリコプターが現代の戦場でさらなる脅威にさらされることになったと指摘している。前線では既存の防空システムにより、攻撃が制限され、地上ではHIMARS等の長距離火力の餌食になっている。
またヘリコプターは空中目標であるため、ドローンがヘリコプターを攻撃する際に、オペレーターとの通信距離を稼ぐことが可能になると指摘している。
コメント
ドローンがヘリコプターを叩き落とす、という話は以前に聞いたことがあるのでは?と思った読者の方々もおられると思う。この話は以前noteで紹介したデビット・ハンブリングの記事でも指摘されていた。
彼は対ドローン兵器としての安価なFPVドローンは、ドローンだけでなくヘリコプターといった他の兵器への有効な接近阻止を果たすとし、「空飛ぶ地雷源」を構成するだろうと指摘していた。
今回の記事はまさに「空飛ぶ地雷原」としてのドローンが登場した事例であると言えるだろう。デビット・ハンブリングの記事の鋭さには驚愕である。ウクライナ側から情報をもらってるのではないかと推測する。(以上、NK)
はじめまして、物作りや科学技術の視点で少しでも語れたらと思います。これまでドローンの優位性は空対地で語られ、空対海が話題に上がり、この元記事では空対空とのことです。ヘリの軍事での使い方はわかりませんが、一般的なヘリ速度は数百km/hになり市販ドローンでは同等以下でしょうか。
他の記事でも上がっていましたが、これまで空対地、つまりドローン(空中)から停まっているヘリ、戦車、火砲、人員への優位性については疑いようもないかと思います。
一方、今回の空対空のケースは「離陸直後」とあります。これまで、ヘリについては地対空火器が主流でした。所謂スティンガーとか個人で持てるようにり、これまでAnti Aircraftに頼みだった作戦は1980年以降は防空、対空という対処を歩兵部隊に含むのが考案されたようです。
スティンガーはヘリだけでなく、さらに高速な戦闘支援機も対象なので比較はできませんが、安価なドローンで空対地の偵察、攻撃そして空対空までマルチに成果を残している兵器はないのではと思います。限定的な使い方かもしれませんが効果ベースを見るならば、さながら複数かつ次々に投入可能な戦闘支援戦闘機の援護を前線部隊の一部隊が運用できるようになっているのは凄いの一言です。(以上、エンジニアI)
ロシアがズゴック型迎撃ドローンを試作する―迎撃ドローン同士による空戦時代が来るか?ー
要旨
ロシア側が開発したと見られる迎撃ドローンの動画が公開された。この迎撃ドローンは時速300kmに達することができると主張しており、弾薬を4発搭載していると見られる。また自動で敵をターゲティングする能力を備えていると主張している。
コメント
このドローンを見てると機動戦士ガンダムに出てくるズゴックの頭部を思い出す。そんなことはともかく、以前のnoteや前述の記事のように、ウクライナ側がFPVドローンを迎撃任務に投入し始めている。
このズゴック型は、このことを念頭においた開発であろうと思われる。ロシア、ウクライナ双方が迎撃ドローンを投入し、双方の迎撃ドローン同士が交戦する光景は近づいているだろう。
加えて迎撃ドローンはただ飛ばせばいいというだけではなく、敵味方のドローン識別も含めた指揮統制システムがあってこそ役割を果たせる。ロシア側はこうしたシステムを構築できているのかが気になる点である。
(以上、NK)
この迎撃ドローンは弾丸カートリッジ4発分と、索敵と照準の機能を有している。弾丸カートリッジ4発分に散弾を詰めれば、理論上1機のドローンで4機のドローンを撃破出来ると考えられる。
さらに本当に自動で探索と照準が出来るとすると、自律的または半自律的にドローンが空地中間領域における制空権を確保していくだろう。また艦載兵器や航空兵器を転用しているロシア軍ということもあるため、例えば地上目標に対して火力投射などもあり得るだろう。(以上、大規模攻撃)
ジョーズ vs ドローン! AI×ドローンでサメの脅威を早期発見!ー大規模攻撃氏のコメントを添えてー
概要
Drone XL に2024年7月29日掲載(記事本文 )
原題 "AI-Powered Drones Keep Beachgoers Safe from Sharks in California"
要旨
カリフォルニア大学サンタバーバラ校のベニオフ海洋科学研究所(BOSL)が開発したSharkEyeは、ドローンと人工知能の組み合わせでサメの活動を監視し、遊泳者を保護している。SharkEyeはドローンを使ってカリフォルニア州・パダロ・ビーチを監視している。
パダロ・ビーチは若いサーファーに人気のスポットだが、最近ビーチ付近でのホホジロザメの幼魚の活動が活発になっている。そこでSharkEyeの出番である。 このシステムは、サメが発見されると、ライフガードや地元企業を含む加入者にアラートを送信する。
人間が監視するドローンを使ったサメの検知は各所で使用されているが、その効果は限定的である。記事によると、人間のオペレーターがサメを発見できるのは60%ほどであるという。 SharkEyeはAI技術を取り入れることで、精度を改善することを目指している。
現在このプロジェクトは、人間のドローンオペレーターとAIの実地試験を行っている。初期の結果は素晴らしいものであり、人間が見逃したサメをAIが検知することもあったという。BOSLのプロジェクト・サイエンティストであるニール・ネイサンは、実地試験においてAIが「信じられないほどうまく」機能していると述べた。
今後の展開としては、AIモデルを研究者が自由に改良できることを目指しているとのことだ。また現在はアラートを流す上では人間の分析が必要だが、ネイサンによると来年の初夏までにはAIによる報告が導入されるだろうとの見通しである。このシステムの問題としては、環境によってAIの有効性が異なる可能性があることだ。
コメント
記事内で異なる環境で用いるために再トレーニングをする必要がある可能性があると述べられているが、その通りで場所が変わると、海の色やサメの種類、さらには前日や当日の天候などによっても海の色が変わるため再トレーニングをする必要はあるだろう。理由としては記事内の写真はグリーンバッグのように海の色が緑で、サメの輪郭が明確になっている。
一方で、例えば沖縄の場合は、海底まで透き通っているため、サンゴ礁や他の魚が重なりため輪郭が捉えづらくなったりすることもあるだろう。また沿岸種の小さいサメもいるなど、サメの種類が異なる。また実際に海中の物体に対して輪郭がぼやける魚影で検知できるとは驚きであった。将来の戦争で自爆水中ドローンが港に侵入して工作する可能性が考えられていたりするが、物体検出AIが1つの発見方法になるかもしれない。(以上、大規模攻撃)
米特殊部隊が行うドローン狩りー工場から離陸までを攻撃対象とする新任務ー
概要
The War zone に2024年7月25日掲載(記事本文)
原題 "Destroying Drones Before Launch Is Becoming A Major Mission For U.S. Special Operators"
要旨
米軍にとって、大量に迫りくるドローン攻撃をどう乗り越えるかという問題は将来戦において重要な問いである。そのような中、米特殊作戦司令部(USSOCOM)は敵のドローンが空に飛び立つ前に破壊する、もしくはその任務を妨害する「レフト・オブ・ローンチ」任務を担う模様だ。この任務には直接的な破壊だけではなく、平時からのドローンの製造や納入の阻止もしくは妨害といったものも含まれる。
米陸軍の宇宙・ミサイル防衛司令部(SDMC)のトップであるショーン・ゲイニー中将はハドソン研究所が主催した講演の中でSOCOMのレフト・オブ・ローンチ任務を強調した。米軍は将来戦において圧倒的な大規模の無人機群が防衛を圧倒するとの懸念を持っている。ゲイニー中将には「SOCOMは発射までの全過程に焦点を当て、発射後は各軍と積極的防衛を行う」と述べた。
SOCOMがドローンに対するレフト・オブ・ローンチ任務を行うという話は、以前から出てきていた。例えば2023年に戦略国際問題研究所(CSIS)が開催したパネルディスカッションにおいて、ゲイニー中将が同様の発言を行っている。
敵のドローンが離陸する前に無力化するために、米国の特殊作戦部隊がどのような任務を遂行するのか、将来的に遂行することを目指しているのかについては詳細が限られている。
ゲイニー中将は任務について「私達は(米軍は)、UASをどのように防御するかという防御的な姿勢から、UASをどのように総合的に攻撃するか、ネットワークをどのように攻撃するかという戦略へと書き換えている。つまり、本質的には、UASの脅威を総合的に追撃するために必要なすべてを検討しているのだ」と述べている。
記事によると、攻撃作戦とは無人機本体や地上の制御システムなどの破壊を指しており、近年の特殊作戦演習においてもドローンの発射地点の攻撃が行われていると指摘している。
ネットワークを攻撃するということは、即席爆発装置(IED)による脅威に対処する取り組みの文脈で対テロ戦争の時代に登場した言葉であり、特定の悪意ある活動を支援する行為者や組織のネットワークを破壊することである。
ドローンの脅威に対して、前線部隊へのドローン補給を妨害することから、ドローンの製造拠点を攻撃することまで含まれると見られている。こうした作戦は紛争が勃発する前に、情報収集やその他の任務として実施されるかもしれないと記事では指摘されている。
コメント
以前にも記事にしたことがあるが、ドローンだけでなく航空機全般に対する一番の防衛は離陸前に無力化することである。ドローンに対するレフト・オブ・ローンチ作戦については前から話が出ていて、思いつく範囲で言えばこの記事があった。
ドローン攻撃に対する効果的な防御が困難である以上、離陸する前に無力化してしまえという発想は理にかなっている。既にドローンに対するレフト・オブ・ローンチ作戦は演習内でも実施されており、例えば2023年のリッジ・ランナー演習では、参加部隊がシャヘドを模したドローンの発射拠点を襲撃している様子が公開されている。
このドローンに対するレフト・オブ・ローンチ作戦を特殊作戦部隊に付与するというのは理にかなった話であろう。理由としては、湾岸戦争時のスカッドミサイル狩りのように特殊作戦部隊はこうした戦線後方での作戦を行う部隊であることが一つある。
また対テロ戦争後の大国間競争時代における特殊作戦部隊の意義が揺れていたのでこうした新しい脅威への対処を担わせるには適当であること二つ目の理由である。
記事で指摘されていたことであるが、ネットワークを攻撃するという任務の文脈でサプライチェーンへの攻撃が示唆されていたがどこまでうまくいくのが疑問だ。
なぜならドローンのサプライチェーン攻撃はIEDのそれよりも複雑怪奇であり、民生品が多様に使用されているからだ。(以上、NK)
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