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第36号(2024年10月18日)黄昏の防衛産業VS人民の防衛産業の夜明け(9月期)

みなさんこんにちは。今号からは9月期の話題を中心にご紹介します。


FPVの「トップガン」来たる―英軍によるFPVパイロット育成の取り組み―

概要
UAS VISION が2024年9月1日に掲載(記事本文
原題 "British Army Launches Top Gun Drone Academy"

要旨
 
英陸軍がFPVドローンを自爆攻撃任務で運用すべく、ドローンパイロットを育成する取り組みを行っている。プロジェクト・ルイス(英陸軍内での新技術等を既存の部隊に統合す活動)の一環として、部隊はFPVドローンを飛ばす訓練を実施している。第16空中強襲旅団は既存のドローンパイロットの中から、FPVへの適性がある兵士を見つけるための選考会を実施した。この選考会を突破した兵士は、戦略司令部の一部であるjHubが企画したドローンアカデミーに参加することができる。

FPVシミュレーターをする英軍兵士

 英軍歩兵部隊には偵察用のパロットとブラックホーネットが配備されており、兵士は3週間のコースを修了してパイロットの資格を得る。そのような従来型のドローンと比較すると、FPVドローンはGPSや安定させるソフトウェアがないため操作が難しいが、それゆえジャミングに強い。
 英陸軍パラシュート連隊第2大隊の上級ドローンパイロットであるアダム・バーンズ軍曹は「操作は難しいが、FPVドローンはよりシンプルで、適応性が高く、安価なキットだ。 熟練したパイロットと適切なドローンがあれば、偵察だけでなく標的の攻撃にも使える。FPVドローンを装備した歩兵部隊は、通常であれば迫撃砲や大砲、空爆を要請しなければ攻撃できない目標を、ドローンを飛ばして攻撃することができる。 それはキルチェーンを短縮し、指揮官に多くの選択肢を与え、より効率的な資源の使用を可能にする」と述べた。

FPVを操る英軍兵士

 商業パートナーであるポイント・ゼニスが提供する訓練では、兵士に訓練用のFPVドローンとシミュレーターを搭載したゲーミングラップトップが支給される。英陸軍パラシュート連隊第2大隊ではドローンレースクラブを設立している。またバーンズ軍曹はFPVドローンは趣味を通じて学ぶことができる軍事スキルであると指摘している。
 また英陸軍パラシュート連隊第3大隊所属のモーガン・マッコネル伍長はドローンアカデミープロジェクトに選ばれた。彼は「ドローンを飛ばすことは楽しいことで、これまでとは違うスキルを身につけることができた。パロットには基本的にオートパイロットがついていて、数時間でそれなりに自信を持って操縦できるようになる。 FPVは完全にコントロールできるため、より多くの努力と技術が必要で、本能的に操縦できるようになるには時間がかかる」と述べた。
 陸軍で最も即応性の高い編隊として、第16空中強襲旅団はドローンと対ドローン作戦の最前線にいる。 SMASH照準器は標準装備のSA80 A3アサルトライフルに取り付けられ、画像処理ソフトウェアを使用して兵士の対ドローン戦を支援する。

コメント
 米軍や台湾軍に続き、英軍でもFPVの導入が進んでいることを示す記事だ。バーンズ軍曹の「FPVドローンを装備した歩兵部隊は、通常であれば迫撃砲や大砲、空爆を要請しなければ攻撃できない目標を、ドローンを飛ばして攻撃することができる。 それはキルチェーンを短縮し、指揮官に多くの選択肢を与え、より効率的な資源の使用を可能にする」とのコメントは興味深い。FPVドローンが配備されるようになれば、歩兵部隊の能力向上につながる。
 また台湾軍と同じように、ゲーミングラップトップを用いてシミュレーターを動かしている点も興味深い。しかし台湾軍では筐体を浮かせて廃熱に気を配っていたが今回はそうではない。やはり台湾軍のゲーミングラップトップへの慣れが伺える。(以上、NK)

 これは前号の台湾軍に続いて良い取り組み!まずは知ろう!ってだけでも良い事。民生技術の実際を知らずに来て現在進行形の軍事技術が衰退してる現実があるわけだし。それと見習うべきはレクリエーション的な導入の仕方は強制的にやらせるのとは違うし、この方が適性が見極められると思う。
 そうそしてNKくんが指摘する通り、リアルなシミュレーターを動かすためにはGPUが載ったゲーミングPCが適しているし、対ドローンとして導入したとあるイスラエルのSMASHの練習にもFPSゲームであえてオートエイムで行う事が役に立つだろうし。
 それを考えると我が国は恵まれていて、その気になればアキバなり大きめの家電量販店でもゲーミングPCが購入出来るわけで…市ヶ谷の防衛省の門を出て左折して直進するとどこに着きますか?って事を考えると勿体ない限り。(量産型カスタム師)

防衛産業の黄昏―戦場の進化についていけない防衛産業―

概要
Roy が2024年9月6日に投稿(記事本文

要旨
 ウクライナの無線専門家であるフラッシュ氏はポーランドで開催された軍用装備品の展示会を訪れ、欧州のジャミング装置メーカーは依然としてMavicと戦っていると指摘した。既存メーカーの装置はMavicの周波数のみをカバーしており、FPVドローンの低周波数はカバーしていないとのことだ。

欧州諸国の防衛産業が戦っている市販のMavic・・・

コメント
 
ジャミング装置にしろその他のカウンタードローン機材にしろ、映像で相手にしているドローンは大体DJIファントムシリーズというパターンはよく見る。それがMavicに切り替わったという面では進化だが、しかしそれでは遅すぎると言わざるを得ない。
 なぜなら戦場ではもっと小さなFPVドローンが飛び回っているからだ。もし読者の皆さんがカウンタードローン製品を扱っている企業と会う機会があったら、「何のドローンで実験しましたか?」「FPVドローンは探知できましたか?」と聞いてみることをお勧めする。
 そういえば自衛隊は護衛艦「いずも」での事件を受けてカウンタードローン機材を導入するとのことだが、導入する機材はFPVドローンは探知できるのだろうか?

盗撮された護衛艦いずも

 また彼の感想は以下のツイートで他の部分にも触れられている。興味深いのは、展示されていたドローンのほとんどがFPVドローン以外の有翼機であるということだ。彼はFPVドローンの利益率の低さがこの状況を作り出していると指摘している。以前紹介した米海兵隊が採用するFPVドローンが高額だったのも利益率の問題があるのかもしれない。
 以上のことを考えるとFPVは、軍隊内部の工廠なりで生産するといった具合に内製化を進めたほうがいいのではないか。またそれらの機体は電子戦に脆弱であり、ウクライナからきたスペシャリストがいる会社のみが現実的なソリューションであると指摘している点も見逃せない。なおフラッシュ氏については次号で詳しく掘り下げたい。(以上、NK)

 もうねこれ書いてる時にはテロ対策特殊装備展SEECATに行った後だけあって、本当に黄昏を感じるね。それは主要な報道が参考展示をしに来たウクライナ「KVERTUS」が話題を独占した事からもわかる。そもそもウクライナの戦地で対FPVを経験している同社の妨害装置の対応周波数帯は他の軍事や警備専門メーカーのスペックとは全然違う。(この辺は自身のコメントコーナーで詳しく触れるよん)

KVERTUSのHP。UGVに電子戦装置が積載されている。

 記事では「欧州はMavicと戦うつもり?」と揶揄されているが、日本はもっと深刻で、実はホバリングするPhantomを検知してドヤってる段階で売り込み掛けたり、さらに凄いのが検知、妨害をすっ飛ばして破壊に頭が行ってる防衛省だったりドローンの利権団体に所属する元自衛官もレーザーとレールガンで対処する!とか、マジで逝ってるとしか言いようがない。
 そうそう、次号のMR.フラッシュ特集で軍事技術好きのロマンはズタズタにするのでお見逃しなく!(量産型カスタム師)

米軍の人材確保における苦悩とは?

概要
War on the Rocks に2024年8月14日掲載(記事本文
原題 "Without Talent Agility, America May Lose"

要旨
 この記事は、米軍の人材管理の現状と改革の必要性を強調する。2014年のロシアによるウクライナ侵攻を受けて、ウクライナは迅速に非公式な枠組みで民間技術者と協力し、新しい民兵ドローン部隊を展開した。この例は、米軍にも重要な教訓を提供した。

ウクライナの有名なドローン民兵部隊エアロロズドヴィカ

 2022年の米国防戦略では「人が戦略を実行する」と述べられており、人材管理の重要性が強調されている。しかし現在のシステムは旧式であり、革新が求められる。軍は依然として1970年代の政策に基づいて運営されており、特に専門的なスキルを持つ人材を十分に活用できていない。
 2024年、米軍には、ドローンを飛ばしたり、ソフトウェアを書いたり、無数の民間スキルをこなしたりできる人が何人内部にいるのか、ほとんど見当がつかない。
 こうした状況では、戦争に勝つことが難しくなるだろう。現代の戦争が進化するスピードは、米軍が適切な人材を適切な場所で適切な時期に雇用できるように、軍種間や総兵力の構成要素間の摩擦を取り除くことを必要としている。
 現在、米軍は個人即応予備役(IRR)などの有力な人材を活用できていないため、戦略的リスクが高まりつつある。IRRは重要なスキルを持つ人材の宝庫であるにも関わらず、システムの制約により、その能力が生かされていない。
 加えて異なる軍種間での人材の流動性を高める必要があると指摘されている。こうした問題の解決策として、GigEagleというプラットフォーム(よくある人材マッチングシステム)の活用が提案されている。
 最終的に、米国の軍事力の優位性は人材にあるとし、従来の人材管理の枠組みを見直すことで、より効果的な戦力を整えるべきだと結論づける。

コメント
 人材管理について米軍が苦悩している状況だとわかる記事である。新技術への対応然り、既存の軍隊システムが今の戦争に対応できていないのではないかとの危機感を覚える。記事では人材の各軍種間の流動性について述べていたが、民間にある必要な能力を持った企業を活用するという方策もあるのではないだろうか。
 加えて人材の各軍種間での流動性を高めるのはいいが、そもそも必要な人材が軍隊に存在するのか、そのような人材が入ろうと思える環境が軍隊にあるのかどうかがまず問題になるのではないか。(以上、NK)

 人材確保についての米軍の課題や取り組みについて挙げている記事ですが、そもそも軍隊は人の数が戦力であると考えられています。ただ、現代戦においては、人間の数=戦力と言うよりも、人間の質=戦力という考え方にマインドセットを変えていかなければならないと思ってます。少子高齢化の中で、人間の数にこだわるのではなく、質の確保に傾注すべきであり、兵士の数、隊員の数にこだわるよりも、質の高い人材をしっかりと確保することを考えなければなりません(そんなことは当たり前だと皆さんも思っていらっしゃると思いますが、敢えて)。
 例えば、陸上自衛隊の15万人体制について政治家やOB、現役の中にもその数を減らすことに難色を示す人が多いと聞いていますが、むしろ少子高齢化の中でこの数を保つことは不可能であると認識を変えなければならない時代に来ていると思います。 これは単なる自衛官の処遇改善で片付く問題ではありません。
 また、この記事の中には米軍の取り組みの中にも、予備役の活用が有益であるとしていますが、自衛隊の中にも予備自衛官の特殊性をしっかりと踏まえた上で、自衛隊に必要なスキルを見直して、人材を確保していくことが必要だと思います。
 ただし、それ以上に重要なのが、特殊技能を保有した現役の質を高めることが大事です。そのためには、現役自衛官の雇用の流動性を高めることが必要になるのではないかと思います。例えばドローンパイロットであったり、サイバー技術者であったり、AIを使いこなせたりやプログラムを書ける人間、こういう人材が自衛隊にいる、もしくは民間にいる人たちが自衛隊に入りやすい環境を作る。
 そして、彼らがまた民間の企業に戻っていける、年齢や体力等に関わらず、自衛隊に入っていける、このような制度を作っていくことが必要なのではないでしょうか。このような制度を作ることにより、自衛隊と一般企業の雇用の流動性が高まり、自衛隊の隊員も民間企業の最先端の技術に触れることができるともに、民間の人たちの自衛隊に対する理解も深まります。
 そのため、隊員の数ではなく、自衛隊の中にスペシャリティーを持つ人材、質の高い人材が集まる、もしくはこれらの能力が組織内に蓄積されていく状況を作っていくことが、これからの少子高齢化時代の人材確保において重要になってくるのではないかと思います(以上、CiCi)

伝統的な防衛産業 vs人民の防衛産業ー生き残るのはどっちだ?ー

概要
Samuel Bendett に2024年8月23日に投稿(記事本文
このスレッドは、ロシア防衛産業の実務者であるアレクセイ・ロゴジンがテレグラムに投稿したものを英訳したものである。

要旨
 このスレッドはロシアにおける「人民の防衛産業(People's VPK)」と「伝統的な防衛産業(VPK)」の対立と、それらの協力の可能性について論じる。それらの防衛産業と繋がりのあるアレクセイ・ロゴージンは、両者に大きな違いがある一方で、それぞれに改善の余地があると主張した。
 まず、民間の防衛産業側は、長すぎる研究開発プロセスや大規模で遅々として進まない生産体制を持つ伝統的な防衛産業を軽視しているという。同時に伝統的な防衛産業側は、民間の取り組みを新しい流行に流されて遊び呆けているティーンエージャーのように捉えているとのことだ。

ロシアのボランティアグループが開発量産するFPVドローン”グール”。ロシアのドローン戦も実はボランティアが支えている。

 しかし、ロゴージンは、両者には変化の余地があると指摘する。具体的には伝統的な防衛産業はモスクワの暖かいオフィスから離れ、製品の最終消費者である兵士達とコミュニケーションをとり、実際の戦場のニーズを理解する必要がある。民間の防衛産業側は品質管理や契約の履行に真剣に取り組むべきだとしている。そして民間の防衛産業と伝統的な防衛産業は手を取り合い協力する時が来たと喝破した。
 次に、伝統的な防衛産業は、ソ連時代の競争と計画経済が混ざり合った独特の体制から発展し、非効率な製品開発や長期的な研究開発遅延などの問題が続いている。このような体制は、1991年以降、多くの企業が生き残れなかった原因だ。
 著者は、民間の技術革新と大規模な防衛産業との協力が今後の発展の鍵であり、特に伝統的な防衛産業にとっては健全な市場メカニズムと最終成果に基づく評価が不可欠であるという。この協力が、戦場で実際に役立つ新しい技術や戦術の開発に繋がると期待される。

コメント
 民間の防衛産業と伝統的な防衛産業を協力すればいいよねと簡単に言うが、この2者が本当に協力できるのか非常に不透明である。なぜなら組織文化が違うからだ。組織文化とは、一般的に組織内で共有されそれによって他の組織との違いを際立たせる価値や考え方の集合体のことを指す。民間の防衛産業と伝統的な防衛産業は、それぞれの成り立ち故にそれぞれの組織文化を持っていると考えるのが妥当だ。その違う組織文化を持つもの同士が協力していくのは、筆者が言うよりも困難ではなかろうか。(以上、NK)

 あの軍事大国と謳われていたロシア軍が、今ではFPVドローンを主戦力とし、その調達なり開発量産なりをボランティアグループに依存し、ついには栄光ある防衛産業と対立構造を指摘されるまでに至った。これこそ革命的な変化だろう。
 伝統的な軍事力とそれを生み出す防衛産業の象徴であるロシアのそれが完全に、スターリンクやらDJI製ドローンやらを買い付け、そしてFPVドローンや爆弾投下装置やアプリを開発量産し、最近では中国製ドローン用光ファイバーを見つけてきて組み込んで投入するボランティアにお株を奪われているのだ。
 実際、このボランティアグループは「ショイグ国防大臣(当時)は演説でFPVドローンの戦果に触れながらも、それを調達や製造、はたまた訓練センターで貢献したボランティアを無視している」と慎重ではあるが怒りを公言し、それが許され、実際にショイグがそれだけが理由ではないにしろ解任されている事実は注目に値する。
 ロシア軍とその防衛産業は完全に変質しつつあり、民生技術と民間の専門家に依存を深めているのである。戦争に勝つためにここまでの構造変革を許容するロシアの柔軟性は正直、自衛隊よりは高いのではないかと思えてしまう。
 他方で、ここまでの変化をウクライナほどではないにしても、方向性で追従していることを見ると、これまで指摘してきた防衛技術及びそれに”のみ”依存する防衛産業の退潮するトレンドは明白だ。
 さて、ここでの論説が指摘する今後の在り方については文末で紹介しよう。(以上、部谷直亮)

AIを戦争に使うことは危険なのかー民間人への被害を防止するためにAIを用いる米軍ー

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