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No.11 タイ人と日本人の夫婦

​​ パスタを作った夜、なぜかTeeは機嫌が悪かった。渡り蟹のパスタを囲みながら、アユタヤの夜が賑やかに過ぎていく中、彼の怒りは突如として私に向けられた。
「洗い物は、ナオヤがやるんだ!」
彼の声はヒステリックに響き渡った。私も突然のことで戸惑った。ゆかが静かに、
「ナオヤは料理してくれたんだから洗い物は、私たちがやるよ。」
と、言ってくれた。

 翌朝、Teeはまるで何事もなかったかのように私にじゃれついてきた。昨夜のことで少し気まずいのだろう。彼は悪いやつじゃない。たまたま、昨夜は虫のいどころが悪かっただけだ。彼はいつも私たち日本人と食事を共にし、自分の分はきちんと支払う。タイの物価は日本の3分の1程度で、ビールに至っては日給の半分にもなるのだが、それでも彼は時々奢ってくれたりするいい奴だ。 

 龍太郎も誘い無愛想ながらも味の良いお粥屋へ足を運んだ。そして、お粥の爽快感に浸りながら帰宅すると、先生やゆかちゃんや清美と小柄なタイ人女性がテラスで談笑していた。彼らの隣には色白の日本人男性も座っている。私たちが帰宅すると、先生が彼らを紹介してくれた。
「彼女はンゴ、彼はアユム。二人はノンカイに住んでいる夫婦よ。」
 ノンカイはタイ北部ラオス国境の町でンゴの故郷なのだという。彼女は、可愛らしい癖っ毛を持ち、流暢な英語を話す。アユムさんは大阪出身で、人の良さそうな色白の男性だ。
 タイ人は普段ニックネームで呼び合うことが多い。長い付き合いでも本名は知らないほどだ。ンゴという名前は、ランブータンという赤いウニのような髭が生えている愛らしいフルーツから取られている。彼女にはぴったりのニックネームだと思った。二人はバンコクに用事があり、帰りにアユタヤ観光してノンカイに帰るという。そして彼は私たちに、ノンカイに来ることがあれば、うちに泊まってくださいと言ってくれた。豊かではないが、のんびりした生活を楽しんでいるそうだ。
 私たちは、すぐに打ち解け共に過ごした。


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