No.9 熱いどんぶり
朝の光が窓から差し込み、笛のような鳥のさえずりに耳を傾けながらゆっくり目覚めた。窓の外に目を向けると、朝霧に包まれたマンゴーの木がぼんやり見える。アユタヤの日中は、じっとしていても汗ばむほどだが、この朝の涼しさはタオルケットを引き寄せる。
ピンクのタイトスカートを身にまとい、学校への出発を控えた先生は、住み込み従業員「Tee」と共に庭と廊下の掃除に勤しんでいる。
「good moning ナオヤー!」
と、朝から彼女は元気いっぱいだ。コーヒーは自分で淹れるようにと言い残し、先生はいそいそとトゥクトゥクに乗って学校へ向かった。
「おはよう」と、Teeは眠そうに笑顔を見せる。昨夜は皆と一緒にナイトマーケットで酒を飲み、宿に戻ってからも遅くまで話し込んでいた。私たちはテラスに座り、広い庭に目を向ける。黄色く熟したマンゴーやカラフルな花たち。最高のインスタントコーヒーだなとマグカップを眺める。
Teeは眠そうに頭を抱えながら隣に座り、
「ナオヤは、今日何する?」
と尋ねてきた。
「何しようか。」
と、問い返す。2人して虚ろな目で天井を仰ぎ見る。Teeが、赤い目で言う。
「美味しいお粥食べに行かないか?」
アスファルトのない土の大通りを歩いていくと、木陰に置いてある大きな寸胴から、湯気が立ち上っていた。欠けた歩道には赤いパイプ椅子とテーブルが3席作られ、店主の太ったおばさんが顎をしゃくって席に着くように促す。
「ジョーク2つ、ポークで卵もつけて」
とTeeが注文する。椅子に置かれた、氷の入ったお茶のタンクは、セルフサービス用。
ジョークは、タイのお粥。大きなどんぶりにたっぷりと盛られ、ポークやチキンのミンチ、生卵を追加して小皿に盛られた刻み生姜やナンプラーで味を好みにして食べる。
私たちは、熱々のジョークをレンゲですくい、口に運ぶ。屋台料理とビールで疲れ切った胃に染みわたる。Teeと目が合う。彼も同じように感じているようだ。そして、夢中でどんぶりを啜り、汗を流しながら食べ尽くす。
キンキンに冷えたお茶で、一息つき、「うまいな」と頷き合った。
食べ終わるとTシャツが汗でびっしょり。しかし、何かを成し遂げたような爽快感に満たされる。20B(60円)で心も体も充実感で溢れる朝食だ。