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空飛ぶクジラ
「私、ビジネスを買おうと思ってるの。」
夕食を共にしている時、ナミちゃんがキラキラした目で話してきた。
最近は、ナミちゃんと夕食を取ることが多くなり、この日のメニューは茄子とベーコンのトマトソースのパスタ。そしてニュージーランドは、美味しいワインがとても安く、この時は赤ワインを飲んでいた。
前にナミちゃんがホームステイをしていたホストマザーから、
「今、私がやっているビジネスをやってみない?」
と相談されたらしい。
「イベントを主催する仕事。誕生会や歓迎会のパーティーを飾り付けをした部屋でやってもらうの。飲み物や食事を出したり、企画したゲームをやったもらう。」
彼女は、小さな体から元気いっぱいの覇気を出しながら真っ直ぐ私を見つめ話してくれる。
「ナオヤは、どお思う?」
と、聞いてくる。でも彼女の心はやると決めているのだろう。
翌日から彼女は、仕事のやり方を覚えるためにホストマザーと一緒に働き始めた。イベント用の部屋を飾るための風船や装飾品を買いに行ったり、コスプレ衣装を見に行ったり。
私は忙しい彼女のために夕食を作って待っていることもあり、イベントの誕生会をした話や宣伝用のチラシのデザインの話を楽しそうに話す彼女を見るのが好きだった。
でも本格的に1人でやり始めると、予想以上に大変だった。まず彼女は車を持っておらず、大量のジュースやスナック類を歩いて買いに行かなければならない。コンパクトな街だといっても時間がかかる。
いつものように夕食を共にしている時、彼女は私を誘ってきた。
「ナオヤ、運転手になってくれない?」
彼女は車を買うことを決意し、補佐役として私を選んだ。
私は面白そうだと思った。バイタリティ溢れる彼女と、これから始める商売に携わる。成功するしないは、どうでもいい。すごく魅力的な申し出だった。
しかし、私はこの申し出を断った。なぜだろう。彼女と仕事としての付き合いをしたくないと思ったのか。そろそろ単に違う地へ向かいたいと思っただけなのか。
まるで大きな波のようにゆったりと連なる丘に、真っ青な空に浮かぶ雲の影が鯨のように泳いでいる。羊の群れが私を見つけいっせいに走る。そして、静かな風はそよぐ草の香りを運んでいる。テカポ湖までの道のりは長く穏やかで気持ちがよかった。私はナミちゃんに別れを告げ旅の続きを開始したのだった。
テカポ湖は今まで見たことのない景色だった。岩石を氷河が削り溶け込んだ水は神秘的だった。ブルーでもグリーンでもなく淡いその中間色にニュージーランド最高峰のマウントクックが映りそびえる。テカポユースホステルからは、その全てが見える大きなガラス窓を備えたリビングがあり、そこには暖炉もあった。
私はこの絵画のような世界で、これから長い年月一緒に過ごす人達との出会いをすることになる。