No.22 再会と新たな旅立ち
アユタヤの古い街並みが、文化の違うマレーシアから戻ってきた私を、静かに迎え入れてくれた。そして、PSゲストハウスの門をくぐると、そこには予期せぬ人影があった。龍太郎だ。だが、彼の顔は傷だらけで、腕や足にも青いアザが散らばっていた。
「ナオヤ、久しぶりだね。」
龍太郎は、微笑んだが、その目は疲れを隠しきれていない。
彼は、私たちとノンカイで別れた後、ラオスへと旅だったはずだ。あれから1ヶ月経った今頃は中国を走っていてもおかしくはない。しかし、運命は彼に別の道を用意していたようだ。
「車に引かれたんだ。」
龍太郎は、事故のことを淡々と語り始めた。
「交差点をもうスピードで右折してきた車を避け切れなかった。」
幸い車を運転していたタイ人夫婦が、すぐに病院へ運んでくれた。しかし、ノンカイの病院では整った設備がないためアユタヤまできたらしい。
彼の言葉を聞きながら、もしラオスで事故が起きていたらと思うと背筋が凍る。そこでは、彼はただの放置された外国人に過ぎなかったかもしれない。
「乾杯しよう!」
龍太郎は、再会を祝してビールを差し出した。
私たちは、今までの旅をナイトマーケットの淡いライトの下で長い時間、語り合った。もちろん、ゆかのことも。彼は、やっぱりなと自慢げな顔で喜んでくれた。そして、彼は自転車の旅に終止符を打つ決心も打ち明けてくれた。
「でも、ナオヤ。自転車の旅は最高だったよ。ナオヤもやってみたら?」
龍太郎の言葉で頬を叩かれたような気がした。思いもしなかった。自転車で海外を旅するなんて。
私も、今回の旅をするまでメッセンジャーとして毎日100キロ走っていた。それならば・・・
「ニュージーランドなら大丈夫かもしれないね。」
龍太郎は、私の不安を察して提案してくれた。
確かにオーストラリアのように何日も人のいない砂漠を走るのは、経験が必要だろう。それに比べて、ニュージーランドは、日本の国土と変わらない。傷だらけの顔で龍太郎は、言った。
「明日、バンコクの中華街へ自転車を見にいこうよ。」
翌日、私たちはバンコクの中華街へと向かいことになった。
焼けつくアスファルトに湯気が立っている。細い歩道は人で溢れ、広いはずの車道は動けない車でひしめきあう。そして、縦横無尽に走る脇道には、様々なレストランや屋台、商店が隙間なく立ち並ぶ。その巨大なバンコク中華街の中に、龍太郎が馴染みにしている自転車があった。彼は店主と、一台のマウンテンバイクに額に汗を滲ませ手を加えている。
「長距離用に後輪に荷台をつけて、タイヤの太さを変えて・・・」
龍太郎が店主にまだ色々注文をつけてくれている。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?