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窮鼠SをM【短編小説】
男は一本鞭を好んだ。使い込まれた自前の本革製。長さはせいぜい私の片腕ほどか。勢いよく振り下ろしても、ボスッ、と鈍い音がするだけであっけない……と思いきや。
四つん這いになった全裸男のいたいけな尻は、真っ赤に腫れ上がって私の邪悪な吐息を誘った。これほど美しい鞭痕は初めて見る。色白の男に無慈悲な道具。マスカレードマスクの下で、私の情欲がギラリとほくそ笑む。
「ああ、かわいい、きれいに色付いて。
今では一滴も飲まない私が昔入りびたっていたバーの話 【エッセイ】
行きつけのバーがあった。
すっかり手足になじんだカウンター席で日付をまたぐ頃になると、メニューにはないカレーライスなんかが「まかない」として私にも振る舞われる。それぐらいには行きつけていた。
地下鉄の終電が0時前後。私が店内でテッペンを越えるのはすなわち「今日はタクシーだからもうちょい飲ませろ」のサイン。店員は皆それを承知していて、いよいよ腰を落ち着けた私をもてなしてくれたものだ。閉店時刻
彗星が迎えに来る日まで #ナイトソングスミューズ
あのときなぞった
星座をおぼえているかい
肩よせあって
怖いような静けさ
ふるえていたのはきっと
きみだけじゃない
ずっと求めていた
魂のかたわれ
やっとこうして
めぐりあえたから
息たえるまでぼくは
この手を離しはしない
彗星の尾っぽに願いを
かけた夏の夜
不意に時間が止まって
まよい子のように
目がさめたよ
宇宙の片隅で
きみに一度でも
告げたことはないだろう
ナバホの谷の赤い砂【短編小説】
なぜ、この砂だったのか。
指の間をさらさらと通り抜ける感触自体は、さほど特別なものとは思えなかった。
その昔、似たような手触りを幾度も経験したはず。それなのに。
あの昼休みの校庭の砂場や、あの真夏の海水浴場と、何が違ったのだろう。
なぜ、この砂だったのか。未だにわからない。
これほど多くを見聞きし、多くに触れた一世一代の旅の中で、一体なぜ。
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ペアリング【短編小説】
(注:若干の残酷・不快描写があります。苦手な方はご注意ください。)
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僕としたことが、油断した。前後不覚の酔っ払いがまともな反撃に出るとは。
飛んできた拳は石のように固かった。長年愛用しているメタルフレームの眼鏡がひゅうんと弧を描き、
解像度、上げるべからず【短編小説】
私、実はこういうわけで欲求不満です。そう公言することがはばかられる類の欲求不満というものがある。
私にとっては、「素朴な、しかし提起すべきでない疑問」がそれにあたる。
決して表に出してはいけない、心の声。
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数日前に梅雨入りした割には、ぼんやりとした薄曇りの土曜日。母がちゃんとしたお茶っ葉で入れてくれた緑茶をすすりながら、私はひと呼吸ごとに畳の匂いを胸の奥まで吸い