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老舗カフェ クッキ(Pasticceria Cucchi):1936年創業、ミラネーゼお気に入りのミラノの名店

今回のnoteでは、ミラノの人に「あなたのお気に入りのバールやカフェは?」と聞くと、ここを答えにあげる人も多いミラノ老舗カフェ クッキ(Cucchi)について書いていきたい。

1936年創業のクッキについては、以前にもミラノの老舗カフェ特集で取り上げたのだが、お店の歴史をここではじっくり語ることにしよう。

参考:

ちなみにこのクッキの最寄駅は、2025年1月時点でできたてほやほやのメトロの青線の駅デ・アミチス(De Amicis)である。

ちょっとミラノの地下鉄事情について話すと、2025年現在のミラノでは、5本の地下鉄が通っている。

(2025年1月現在のマップ)

参考:ミラノの交通公社ATM(Azienda Trasporti Milanesi)の公式サイト

簡単に説明するならば、


赤線 M1:セスト・プリモ・マッジョ(Sesto Primo Maggio)〜ロー・フィエーラ(Rho Fiera) / ビシェリエ (Bisceglie)間、1964年開通

緑線 M2:ミラノフィオリ・フォールム(Milanofiori Forum) / アッビアテグラッソ(Abbiategrasso)〜コローニョ・ノルド(Cologno Nord) / ジェッサーテ(Gessate)間、1969年開通

黄色線 M3:サン・ドナート(San Donato)〜コマジーナ(Comasina)間、1990年開通

青線 M4:ミラノ・リナーテ空港(Linate)〜サン・クリストフォロ(S. Cristoforo)間、2022-2024年開通

紫線 M5:ビニャーミ(Bignami)〜サン・シーロ(San Siro)間、2013年開通

地下鉄の青線は、2010年代から工事が行われていたのだが、2022年から段階的かつ部分的に開通していき、最終的に完成したのは2024年10月のことであった(当初は2015年のミラノ万博を目掛けて開通する予定だったらしい)。

(青線の工事中の2019年に撮影した写真)

そのために2010年代後半以降のミラノでは、サンバビラ駅(San Babila)やクッキからも近いサンタンブロージョ駅(Sant Ambrogio)付近では、長期間工事が行われており、道路も封鎖されていたためになかなか不便であった。

長期間の工事を経て、今ではクッキへのアクセスもかなりよくなったというわけである。

前置きが長くなったが、クッキの歴史の話に戻ろう。

1936年創業のこの老舗を支えたある人物がいる。

それは、チェーザレ・クッキ(Cesare Cucchi; 1932-2018)であり、惜しまれつつも、2018年に85歳で亡くなっている。

もともとバールを営業していた彼の両親は、1936年に今のこのジェノヴァ通り(Corso Genova)にカフェ・クッキをオープンした。

1932年生まれの彼にとって青春時代とは、まさにムッソリーニ政権の時代でもあった。

一時は祖父母の住む田舎に疎開し、常に不穏なニュースが流れるラジオを不安げに聞いていたという。

1936年の創業当時のクッキはリバティ様式※のカフェであったが、1943年8月15日、焼夷弾による被害を受け、その美しい店舗も焼失してしまった。

(※リバティ様式… 19世紀末から20世紀初頭に流行した装飾様式、アール・ヌヴォーのイタリアにおける呼称)

2015年にミラノのコムーネから"Bottega Storica"の認定を受けたクッキ


一度店は焼失したものの、チェーザレの両親は、店の再オープンに向けて準備を進め、1952年には、現在のクッキの店舗が建てられた。

この頃、洋菓子店としての事業も始めるようになったクッキ、その美味しいお菓子は、徐々に街でも評判となっていった。

(クリスマスのお菓子パネットーネも一切れから食べることができる)

大学卒業後、チェーザレは、両親とともにクッキの運営に携わるようになった。

1960年代に入るとミラノでは、戦後、新しい建築物が建てられ、新しい住人が街にやってくるようになる。

そんな街の変化も見つめてきたこの店は、新しい住人にも古くからの住人にも、馴染みの店となっていく。

ちなみにクッキのブリオッシュなどのパン類はとても美味しいと評判であり、特に昼過ぎに行くとブリオッシュが並ぶショーケースは、ほとんど売れてしまいスカスカなのを目にすることが多い。

(スカスカのショーケース)

お店の人に聞くと、ブリオッシュ類は午前中のピーク時に朝ごはんとして売れてしまうことが多いらしい。


日常的に食べるブリオッシュやパニーニのほかにもショーケースには、パスティチーノから、クリスマスやパスクアの季節には、パネットーネやコロンボといった季節のお菓子が並ぶ。

(こちらはお菓子に見えるがよく見るとチーズや野菜などがのっている、甘くないお酒のおつまみである)

こちらはホールケーキなどちょっと大きめなサイズのケーキたち。

一粒チョコレートもかなり種類豊富である。


贈答用のチョコレートやクリスマスギフトなど、箱も装丁も美しい。

(よく見たらパネットーネやパンドーロのクリームも)

その後、チェーザレ・クッキは、二人の娘ヴィットリアとラウラと共に、店の運営を精力的に続けていった。

ちなみに、チェーザレ自身は、クッキが作るババ(Babà: ラム酒に浸した干し葡萄入りのカップ型ケーキ)を毎日食べるほどお気に入りであったらしい。

パスティチーノの種類がかなり豊富なので毎回迷ってしまう。

長い間、街の人の舌を満足させる美味しいパスティチェリア(Passticeria;菓子店)には、それだけの歴史がある。

決して華々しいパフォーマンスがあるわけではないが、ここに行けば間違いなく美味しいという安心感があるお店である。

(たまにイタリアのカフェで見る巨大クロワッサン(ブリオッシュ)、何のためのものか気になる)


それではお待ちかね、クッキで実際に食べたお菓子を紹介しよう。

まずカウンター(バンコーネ)で食べた時の様子はこちら。

エスプレッソ1.2ユーロ、パスティチーノ1.5ユーロというリーズナブルな値段。

こちらは小さなレモンタルト、メレンゲのせ。

筆者の持論だが、人気のパスティチェリアでは、お菓子に使われているクッキー生地はバターの風味が強くリッチな味わい、かつクリームはフレッシュで爽やかな口当たりの印象がある。



そしてこちらはテーブル席を利用した時の様子。

実はこの時、コーヒーとお菓子をご馳走になったので、筆者自身は支払いをしていないのだが、参考までにテーブル席のメニュー表をいくつか掲載する。

イタリアでは、テーブル席だとカウンター席よりも高くなるお店が多い。

(コーヒーもテーブルではカウンターよりも二倍くらいの値段になる)

このほか、しっかりめの料理メニューやワインなどのアルコールメニューもあった。

この時は筆者はマキアート、同行者はアメリカンコーヒーとお茶、そしてパスティチーノをいくつか頼んだ。

パスティチーノは、フルーツがのったカスタードタルト、ブラックフォレスト、モンブラン、そして先ほど紹介したレモンタルトである。

(カウンターを利用した時に撮影した写真は1-2年ほど前のものなので、レモンタルトの形状が変わっている気がする。テーブル席を利用したのは2024年12月のこと)

カップにもクッキの店が描かれていてお洒落である。

ミラノの人がこぞって通いたがるのも分かる、種類豊富なお菓子やパン、そして美味しいコーヒー。

売るために派手なパフォーマンスは必要ない。

長く続く地元の名店は、ただ美味しいものを提供し続けるだけで十分、そんなことを気づかせてくれるお店である。



参考:

Milano Zero(2018年3月26日付記事)

    
Corriere Milano(2018年3月24日付記事)

パスティチェリア・クッキ(Pasticceria Cucchi)

住所:Corso Genova 1, 20123 Milano, Italy

営業時間:7:00-22:00(月曜定休)

公式ホームページ:pasticceriacucchi.it

公式Face book:Pasticceria Cucchi




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