time after time
何度も。何度でも。
西陽が差す君が住んでいる街を、旋回する飛行機の中から眺めて来た道を帰る。
会いたい人に比較的自由に会える時代に生まれてよかったけど、いつでも会えるわけじゃない。
同じ家とか向かいの部屋に住んでたら良かったけど、でももしそうだったら、こんなにたくさんの感情をぜんぶ大切に抱きしめていられたかなとも思う。もっと簡単に優しさや甘さを消費していたかもしれない。良いとか悪いとかじゃなくて。
やっと会えたねの数日後に必ずやってくるまたねを何度も越えるなんて無理。想いに比例する寂しさが苦手だから高くなるハードルは目を閉じて跳ぶ。でももう一人じゃないから、会いたかったら何度でも一緒に越えていけるような気もしてる。会う前の長い高揚も、日常に戻るまでのさみしさも全て分け合いましょうよ。
切った爪みたいな月が遠くに浮かぶ東京まで深く眠ってしまう。睡眠時間が異常に短かった所為か、機体が浮いてしばらくすると瞼の重みに耐えられなくなった。ぎゅうぎゅう詰めの灯りの街並みが続く見慣れた景色に目が覚めた時、帰ってきた、と思ってしまうのはやっぱり自分が帰ってくる場所だからなのか。私のほんとうの居場所は一体どこにあるんだろう。
全ての物事がなるべくしてなるのなら、この気持ちに抗えないのも納得してしまうくらいお互いがお互いに素直だったと思える三日間だった。
特別なことはなにも。だけど全てが特別だった。
手を伸ばせば届く距離にいること。体温。視線の先に存在することの全て。泣きたくなるくらい全部がほんとうだった。
三日間。これ以上の時間を知らない。でももう何度目かだから、なんとなくこんな感じと分かっていて過ごすはずなのにやっぱりあっという間に過ぎてしまう。何度目だとしても純粋に楽しくて愛おしくて幸せだから、それだけなんだろうと思う。
別れ際の個人的なさみしさより、もっと大切な気持ちで身体中を満たそうと思うのに、文字を見た瞬間に泣きたくなるのは毎度のことです。強さと弱さは同じ。
あとどれくらいの時間をお互いが同じ気持ちで過ごせるのか、誰にも分からないことを考える癖。幸せを幸せのまま閉じ込めておけたらいいのに。
揺れる。
感情が揺さぶられているのが分かる。仕事の日はまだ良いけど、休みの日は思考の中から抜け出せないのでテレビを見るのも煩くて、読書も文字が浮いてしまって、辛うじて小さな音量で音楽だけ流している。
いつもなら自分の中の答えを迷わずすぐに取り出せるのに、こうなるとよく分からなくなるから困る。身体中が感情的になっているのが分かる。いっそのこと全てを終わらせたくなったり、考えることをやめたくなったりする衝動。衝動だから抑え込んでなだめて落ち着くのを待つ、その間の気持ちの変化にこそ目を凝らす。注意深く。ほんとうのことが全て映し出される瞬間を待っている。だけどほんとうのことなんて一番どうでもいいのかもしれない。どうか本当のことより大切なことだけがいつまでも残りますように。
日記。
初めから手を繋いで歩く。これはずっとしたかったこと。
目的地の前に本屋に寄ってもらう。意識してるわけじゃないけど二人でいる時に本屋に行かない時の方が少ないかもしれない。ってそんなこともないか。自動販売機でこれがいいと指差して買ってもらう。おしゃれなクロワッサンはサクサクしてましたか。公園を散歩する。遠くに見えるボートにもいつか乗ってみたい。美術館に寄ってみる。二人ともひとりで鑑賞する派なのでふざけ倒す。バスに乗る。電車に乗る。エスカレーターに乗る。エレベーターにも乗る。甘いのと酸っぱい飲み物二つ頼んで交互に飲む。紙ストロー。いなり寿司とおうどん。酢橘を重ねて掬うの上手だね。ごちそうさま。お気に入りのお店に連れて行ってもらう。お菓子屋さんの店員のお姉さんがかわいいんだって。灰皿のイラストがかわいい。レモンスカッシュの底に潰れたレモン。だっこしながら一緒に絵本を読む。深夜のコンビニでアイスを買って半分こする(しかも二人ともパジャマ姿のまま。ここ重要。)私たちはヒントで3枚選べないからスパイじゃなくてよかった。あくびって移るよね。
最終日に恋人の家に立ち寄る。前に半分こしたアイスを食べる。ちゃんと黒ペンで名前が書いてあってそれがとてもよかった。ホワイトボードの電話番号。日当たりの良すぎるベランダ、椅子ではない椅子とギターのカバー。それ以外はもう、ここには到底書けない事ばかり何度も何度も繰り返していました。
今の幸せも日常も大切にしてほしいというようなことを、ゆっくりと丁寧にことばを選びながら話してくれた。そのことを思う君ごと思う。
誰かを好きになると、夢中になればなるほど、見えなかったものがはっきり見えるようになるし、見えていたはずのものが全く見えなくなったりするのは何でだろうね。
責任や覚悟のようなものなんて本来ほんとうに必要なくて、わがままだと思う必要もなくて、だからこそ恋の始まりは軽やかで甘いのに、こんなに必要ないことばかり考えさせてごめんねと繰り返し何度でも思う。君だけは、もっともっと、ずっと私の前でわがままでいてくれたら良いです。
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