離婚のはなし
今どき離婚なんて、さほど珍しい話でもないし。「親の離婚がイコール子どもにとって不幸になる」と決めつけるのは強引すぎると思うし、かといって親である限り、自分の欲望だけを考えて突っ走るのもどうなのかなぁと思ったりはする。
実際に口にする、しないは別として、結婚生活を送るうえで、「離婚すべきなのか」という壁にぶち当たる人だって、決して少なくないだろうと思う。中には実際に行動に移す人もいるし、そのままの人だっている。子どもがいれば、やっぱり難しい問題なのだ。
いろんな離婚がある。それに正解も失敗もない……と言いたいところだけれど、実際のところ、わたしの身近には両極端な離婚例があるので、ぶっちゃけ「すべきではない離婚」もあるんじゃないか、と思っている。個人的に良いと思っているのは義両親。ダメだったと思うのは実両親の離婚だ。
詳細は割愛するが、義両親が離婚したあとも子ども(夫)と双方の親は定期的に会っていたし、今ではやけに仲がいい。遠方の義父の家に行くときも、義母が一緒に行ったりするほどだ。そのうち再婚するかもしれない、と密かに予想しているくらい。
一方、わたしの両親の離婚はダメなパターンだ。両親が離婚するらしい、という話は祖父から聞かされていたものの、ある日突然父が、荷物とともに家から消えた。(わたしは父が出ていく日を聞かされていなかったので、本当に消えた、という感覚だった)
あれは子ども心に、かなりショッキングな光景だった。ついこの間まで、いや朝まで?そこにあったはずの父の痕跡が、跡形もなく消え去っていた。まるでそんな人間など、はじめから存在しなかったかのように。
父は決して子煩悩なタイプではなかったが、穏やかな人で、わたしはほとんど怒られたことがない。好きか嫌いかで言えば、まぁ好きだったと思う。嫌う理由なんかなかったから。その父が、ある日忽然と消えたのだ。ショックを受けるなと言っても、無理な話ではないか。
その晩母は泣いたが、次の日にはすっきりした顔をしていた。そりゃそうだろう。離婚したくてしたのだから。でも子どもは、そんなふうに割り切れない。だって、離れたくて離れたわけではないのだから。
その後、母が亡くなるまで父とは会うことはおろか連絡すらも取っていない。母がわりとすぐに再婚したこともあり、話題に出すことすらタブーとされた。母は子どもであるわたしにも「父のことなどもう忘れた。会いたいとも思わない」と思って欲しいようだったし、そう言うことをなかば強要されていた。
今思えば、母も「本当にこれで良かったのか」と葛藤していたのかもしれない。そんな自分を納得させるために、娘の同意が欲しかったのではないか。当時の母と同年代になってみて、ようやくわかる気がする。あの頃、親は全知全能だと信じていたが、実のところそんなことは、全然なかったのだ。
母が死んだのは、離婚のせいであり再婚のせいだった。離婚がなければ再婚することもない。だからあの離婚は、少なくともあのタイミングでしたのは間違いだったのではないか。親を亡くした子どもとして、そう思えてならない。
わたしは母に似ている。顔も、性格も、生き様も。でも、あの人生をなぞることだけはしたくない。そう思って、今日も必死に生きるのだ。