次女の誕生
2019年11月、私は姉の家で、体調が悪い、気持ち悪いと口走っていた。この体調の悪さ、知ってるやつだ。もしかしたら…とほんのり考えていたら、何かを察した姉が突然妊娠検査薬を買ってきた。なぜか姉に試されるような形で妊娠検査薬を使用し、陽性反応が出た。そして強引な姉は、その勢いで私を婦人科へ連れて行き、その日のうちに私の腹の中に胎嚢が確認された。出産予定日は2020年7月中旬。あれよあれよと1年10ヶ月ぶりに妊婦に認定された。
謎のウイルスの出現もあり、紆余曲折あった妊娠期間を経て、月日は2020年7月に突入した。産院は実家近くの総合病院。長女を産んだ病院だ。今回も里帰り出産を選択した私だったが、予定日近くになり、出産の兆候が現れだすと、夫が私の実家に滞在してくれることになった。謎のウイルスがもたらしたリモートワークも捨てたもんじゃない。目指すははじめての夫立ち合い出産だ。(長女の時は実母、姉、姪が立ち会ってくれた)
夫もいるし、こちらの準備は万端だった。しかし、次女はなかなか私の腹から出てくる気がなかった。健診のたびに医者に「うーん、まだ産まれないだろうねー。」と言われる。いつ産まれるつもりなんだ、と、あせる私をもっとあせらせたのは、次女の産まれる産まれる詐欺。次女は予定日を過ぎて3日間連続で、陣痛を起こすも、やっぱ今日はやめとくねっ☆と、言わんばかりに陣痛を取りやめるのだ。信じられない。そんなことあるのか。さっさと産まれてくれよ。なんでそんな思わせぶりなのか。恋の駆け引きをしようっていうんじゃない、産まれてくるのかどうなのかという話をしてるんだ。と、毎日腹に語りかけた。そしてついにその日はやってくる。
2020/7/21
明け方3時、ああこれは陣痛だわ。という痛みで目が覚める。半分寝ていたが、経産婦なので陣痛の痛みはわかる。そしてなんとなく5分間隔なのもわかる。しかし3日続いた産まれる産まれる詐欺のせいで、今回も信じてなかった。これまた陣痛遠のくだろうな、と寝ぼけながら思っていた。
3時半になり、あ、これ本気のやつだ。と思う。夫を起こす。これ陣痛だわ。と起こす。
病院に行くまでの間、最終的な入院準備を整え、痛みの感覚をはかる。5分だ。もう5分間隔だ。経産婦の5分間隔は結構やばいんじゃないか?と思い産院に電話。とりあえず来いと言われ、夫と二人産院へ向かう。
6時に入院。入院をし、分娩台の上にはいるものの、全然痛くない。陣痛はきてるけど、さほど痛くない。あれー?あれー??やっぱり産まれる気がないのかなー???そんなことを考えてたら、助産師よりやはり陣痛が弱いから妊娠促進剤をつかおうか?と提案される。よし、それでさっさと産めるならさくっと産んじまおう。変に男らしいところがある私は、即、陣痛促進剤の投与を始める。9時半、促進剤が投与される。地獄が始まるとも知らずに…
とは言っても投与されてしばらくは、まだまだいけるぜ、と軽口を叩きまくっていた。夫と一緒にテレビを見て、ニュースを見て、あーでもないこーでもないと言い合い、来る途中で買ってきたおやつを一緒に食べ、時折お腹は痛いけど、夫と2人でこんなのんびりニュースを見るなんて久しぶりで、お家デートくらいの感覚で楽しんでいた。
しかし徐々に強まる痛み。そりゃそうだ、私の体には陣痛を促進する薬が投与されている。あれー?なんかだんだん痛くなってきたなー。先程までお家デートをしていた夫は、痛がる私をよそにまだデート気分らしく、陣痛の真っ最中にフリスク食べるか?と聞いてきた。信じられないアホさ。脳内で死刑を執行。
呼吸が声になってきた。声を出さないと呼吸ができない。私は「クールな出産」がしたい。ようは、ぎゃああああ!!!!!!とか叫ばない出産のことだ。でも声を出さないと呼吸ができなくなってきた。叫びたくないのに声が勝手に出て来る。出産の時はとにかく呼吸を絶やさないことが大事だと思っている。そうすれば赤ちゃんに酸素が届けられる、それでいい、それだけでいい、とにかく呼吸だけは止めないようにしなければ。
夫が心配している。でももう会話はおろか、夫の顔を見ることすらできない。ただ息を絶やさないことしかできない。そんな状態になってから助産師が様子を見にきた。
こんなこと言うのは非常に非常に申し訳ないのだが、おそらく経験のあまりない助産師が担当になった。別に経験がなくてもいいんだ、みんなはじめはそうだから。でも一緒に私のお産を見てくれているベテランの助産師にたまに怒られている。それは見たくない。間違いなんてなにひとつしてほしくない。
そんなことを考えながら、ただ呼吸をすることだけを続ける。助産師が内診をする。どうやらもう子宮口全開らしい。クールな出産をしたいという心がけが仇となった。おそらく、若い助産師さん、あまりの私のクールさに子宮口全開だと思わなかったのかもしれない。ベテラン助産師があせってお産の準備開始を指示する。なんかバタバタ色んなことが起こってるけどなにが起こってるか確認することすらできない。痛い。なんでこんな痛いんだ。陣痛の痛みには波があって、休みがあって、痛くなって、休みがあって、これの繰り返しのはずなのに、なんで休みがないんだ。なんでずっっとこんなに痛いんだ。
気がついたらもう、いきんでよし!と言われていた。よし、一発で産んでやろう。そう思って力を込める。そしてなんと、本当に一発で産まれた。さすが経産婦とでもいうべきか。自画自賛だが、助産師さんたちにもとても褒められた。
産まれた!!おぎゃあ!!!って産まれた!!周りを見たら医者やら看護師やら、3人くらい人が増えてた。気がつかなかった。夫の顔を見る。夫は目を真っ赤にさせて、肩をブルブル震わせて泣いていた。よかった。この感動を味あわせてあげたかった。自分の子供が産まれる瞬間を、かわいい娘の第一声を、聞いて欲しかった。これがあなたの可愛い2人目の娘です。
私の胸の上にやってきた次女。促進剤の効果的面で、急に産まれることになり、彼女もとても疲れただろう。よく頑張ったね、と自然に口から出てくる。夫からもよく頑張ったねと褒めてもらえる。産まれてすぐに褒められまくる次女、絶対に幸せにする。そして教えてあげた、あなたには超可愛いおねえちゃんがいるんだよ、知ってると思うけど。と。
振り返ってみると陣痛が強くなってから産まれてくるまで、ものの20分程度の出来事だった。というのも、なんと夫が最後の内診からビデオカメラ定点位置でまわしており、次女誕生のすべてが録画されていたのだ。ビデオ映像を見ると、夫は私の手を握ったり、汗を拭いたり、色んなことをしてくれていた。全く記憶にないが。
そんなこんなで産まれてきた次女。長女もよく寝るビギナー向けの赤ちゃんだったが、そんな長女を上回る、超ビギナー向けの赤ちゃんだ。よく寝るし、睡眠はすべて全自動で行ってくれる。産後もうすぐ2ヶ月が経つが、今は次女より、イヤイヤ期MAX(だと思いたい)の長女に手を焼く日々。ちなみにヤキモチは全くない。感謝。
まもなく実家から自宅にもどる。夫と長女と次女と私、4人家族になった。10年前夫と付き合い始めた頃に、10年後には4人家族になってるなんて、誰が想像しただろうか。どんな生活になるだろう。楽しんでいこう。ママは笑ってるのが1番だ。