第1回呆然戯曲賞自由の短評
第1回呆然戯曲賞の自由課題の方も読んでみましたので、短評を書いてみました。短評にネタバレはありますよ。
戯曲の完成度で一つ選ぶのであれば『信仰、未知と差違のデマゴーグ』になるかなぁと。上演で観てみたいで一つ選ぶと『荒野にて:文明が滅んでも滅ばなくても、退屈はあるし、やることはない』になります。なにを基準にするかで選ぶ作品が変わってくるのも面白いなぁ。
留守番
なかなか面白いですね。成美と友介の別の時間軸の人々が複層的に出会っているという設定で成美とママのように重ならないようにシーンを作ってしまうのは実際の舞台にするととても面白いだろうなぁと思うのです。それなら友介も管理人と出会うシーンとかも入れて欲しいかなと思います。
ペインフル・スマイル
とても読みやすい戯曲でした。青山のまっすぐさというか猪突猛進な所と茜のそういう人がいると思える人と距離を取った方が心地よいという理由もしっかりと伝わってきます。夏までのすれ違いと心のすれ違いとか色んなすれ違いがあるのも良いです。でもこれはリーディングだからこそ想像が膨らむ文章だなぁと思わされました。なので、青山を突き放す部分の行動が細かく指定されていますが、そこは演出家および読者の想像を膨らませてあげた方が良いのではないかと思います。あと彼女が転校する理由のイジメがエスカレートしていた部分は彼女がいなくなる理由ぐらいにしか使われていないので、二人だけの世界に閉じてしまって匂わせるような感じでも良いのかなぁとも思います。
荒野にて:文明が滅んでも滅ばなくても、退屈はあるし、やることはない
これはとても面白いですね。実際の荒野を舞台とし、乾ききった意味のない脈絡のない話、脈絡のない展開、そしてなにも残らない上演という「荒野」がスライドしていく様がとても楽しいです。それでいて脈絡のない文章なのにそれぞれの人物がどのような存在なのかも分かるのがとても良いです。
濃厚民族史B最終”遠隔”講義 Ver4.0
私にはよく分からなかったのであります。AとBは会話をしている様で結局外に出ようというきっかけを相手がしているからということぐらいしか読み取れませんでした。それでも感覚を刺激するような感じはあるんですよね。
ミッションインエントランス
なんか出だしで終わってしまったなぁという印象です。そこまでしてAが取ってきた郵便物はなんなのかを想像する訳ですが、さわりもないのでとてもモヤモヤして終わります。そのモヤモヤが意図的であれば何の問題もありません。
サカナの居る風景
とても情感が伝わる作品です。個人的にはなにも起こらずたわいもない会話だけでここまで読ませるのは中々すごいなぁと思います。面白かったです。ゴドーを待ちながら的にやってこない渡し守はなんなのか、とても考えさせられますね。またこの川が三途の川と見立てても良いので、色々読み甲斐もあったりするなぁと。
信仰、未知と差違のデマゴーグ
言葉の選び方のセンスがすごく高い戯曲でした。子供の頃と大人の頃で印象が全然違う言葉を用いることで見えてくる世界が時間の経過をも表しています。再読するとまた違う印象にもなる。これは読むのが1番伝わると思うのですが、この戯曲が身体を通して言葉として吐き出されるとどうなるのだろうという印象も抱きます。タイトルから登場人物紹介までもデザイン的に美しく配置してあるのもまた良いですね。
ある日
とても情景が伝わるなぁと思います。冒頭の枕を叩きつける音に合わせてリズムを付けるとかものすごい発想です。その後に握手をするまでのやりとりも中々面白い。登場人物の描き方もイキイキして良いです。気になる点は、ラストの二人で散歩すると指定されていますが、舞台から出て行く表現になるかなと。これだと散歩に行くのか学校に行くのかが判断できないのです。そこを観客や演出家に委ねてしまうのもアリなのですが、分かりやすい台詞が一つあっても良いかなぁと思います。
ころやろう
このコロナ禍の中で問われているライブ表現や正しさから排除される正しくないものへの言及を行っている戯曲だなぁと思いました。戯曲からは受け取り切れないものがあるので、実際に役者の身体があることで成立するのではないかと。複数のシーンの人物が恐らく時代に分けて繋がっているのだけれど、それがちょっと分かりづらいように思います。
踊れない
友達との関係で身動きが取れなくなってしまった男が色んなことを思い出すという感じの戯曲です。最初の台詞で外に出れなくなった感じを描いているのですが、この作品にはそれが必要な設定なのかなと思います。また踊るということからダンサーという設定を作っていると思うのですが、ダンサーというものはあれこれ悩む前にまず踊ってしまうものなのでちょっと違和感を感じます。
おとなりさん
戯曲と言うよりは小説かなぁと思います。それをとても楽しんで書いているなと。なので、小説としての評価をします。面白かったです。菊咲のモノローグでほぼ話が進んでいきますが、菊咲の主観として進めるには良いのですが、栢と由綺のシーンは菊咲の主観で進んでいく訳ではないので、シーン毎に誰々のモノローグみたいにしてしまう方が読みやすいものになると思います。あとモノローグで語られている情報が過多なので、もっと絞ることもできるのではないかなぁと思います。でも、ここまでの長文を書いて第1話なので、長文を書き続けるのはとてもすごいことです。今後も書くことを楽しんで続けていっていただければと。
距離
マッチングアプリの話かなぁと。男がそれぞれに寸評を加えていくというのがちょっと面白いです。なぜ男はそのアプリを使い続けるのかながあると良いかなぁと思います。私が演出するとしたら、男だけの一人芝居として他の人は音声にしちゃいます。その方が電話感がでるかなぁと思うので。
不要不急
これは最初のシーンでオチまで分かっちゃいます。なので、そうだなぁという感想になってしまいます。
『なにもない劇場』で演劇する。
締め切りを過ぎちゃいましたが、参加するだけはしようかなと思って投稿しました。今考えている演劇論と劇場論を戯曲という形にすることでどんな感じになるのかなぁというお遊びです。辿り着いた結論は当たり前なのだけれど、無自覚だった点は多いので時間はかかったけど書いて良かったです。