平嶋彰英さんの記事について

 新総裁が菅氏に決定した。派閥による出来レース、という感じだが、それは決まったことなので仕方がない。

 菅氏が主導したふるさと納税に反対したために、総務省の外に移動になった元官僚がいる。現在立教大学で特任教授を務める平嶋彰英さんである。つい先日、この平嶋さんのインタビューが立て続けに二つ紹介された。ここではその内容を要約しておきたい。

 一つめは、『AERA dot』に掲載されたものだ。こちらはふるさと納税制度の「おかしさ」について述べられている。(https://dot.asahi.com/wa/2020091000004.html?page=3)

 ふるさと納税とは、地方に寄付することで、その分が、基礎控除分を覗いて税額控除され、かつ返礼品が届く、という仕組みだ。自分の住む自治体に払うはずだった税金をよその自治体に支払い、見返りとして返礼品を受け取るものとも言える。これに対し、平嶋さんの所属していた総務省は反対した。理由は、返礼品競争が起こる、高額納税者ほど節税効果が高まる、という二つの点からである。

 確かに、ふるさと納税の仕組みはおかしい。税の原則は、公共サービスを受ける人が税負担をするというものだ。それなのに自分の税金がよその自治体に払われ、かつその人は返礼品を受け取り、公共サービスは住んでいるところ(そして税を収めていないところ)から受ける、という仕組みはいびつである。また、返礼品競にアマゾンのギフト券を配る自治体も出てきた。これは現金還元になってしまう。この点を、官房長官(当時)に進言しても、「地元に貢献したくて寄付する人もいる」と答えるのみで、制度上の欠陥は受け入れなかったとのことだ。

 さらに、返礼品を紹介するウェブサイトは、ふるさと納税の金額から15%の手数料を得ているそうだ。このお金は本来、地方自治体の税収になるはずだった税金ということになる。

 そして税制度に反対した平嶋さんは、この後自治大学に出された。これは左遷人事であり、霞が関の官僚は震撼したという。このことについて、平嶋さんは次のように言う。

日本が戦争で負けたのは、米国と戦っても負けることはわかっていたのに、軍人を含む官僚たちが政治家に客観的な事実を報告しなかったからです。政治家にとって耳の痛い話でも、役人は事実をちゃんと報告することが仕事です。それをしなかったから、たくさんの悲劇が起きた。私としては、事実を伝えることは役人としての当然の仕事で、このことについては今でも後悔はありません。

  二つめのインタビューは朝日新聞に掲載された。(https://digital.asahi.com/articles/DA3S14619552.html)

 ここで平嶋さんは、意外な発言をしている。安倍政権が長期政権になった理由の一つに、民主党が枠組みを作っていたことがあると言う。これは、民主党政権を「悪夢」と呼ぶ人たちには受け入れがたいことだろう。けれど平嶋さんは、消費増税の方向性、復興財源の枠組みを作ったこと、特別措置法、マイナンバー制度は全て民主党が作ったものと述べる。

 さらに、政策に異議を唱えたことに関して、官僚は、選挙で国民に選ばれた政治家に従うべきだが、制度を作り上げる過程で問題があるなら進言しなくてはならないと言う。そして、官僚は、主権者の国民にとってマイナスとなる場合には行動しなくてはならないと主張する。しかし、どうやら菅さんは、平嶋さんのこの理念とは相容れない人のようだ。自分に従った人には恩義を感じるが、逆らった人は干す。意に反する進言は「逆らった」と見なされるのだろう。苦労人の成功者だから、弱者への眼差しが感じられないのだそうだ(そう言えば、内閣人事局のあり方は変えない、政策に異論を唱える人は異動してもらう、と明言していた)。総裁となったことでこの傾向に拍車がかかるとすれば、官僚は政府に忖度し、国民の利益より政府の利益を優先するようになることは目に見えている。

 平嶋さんのインタビューは次の言葉で締められる。

「ある政治学者が先日、安倍首相の今回の辞任劇は近衛文麿首相に似ている、と語っていた記事を読み、なるほどと思いました。安倍さんも、近衛さんも、名門で良家のお坊ちゃまイメージです。近衛の後の首相は東条英機です。東条は近衛とはタイプが異なり、陸軍出身でこわもて。強引な人事で軍や行政機構にはにらみを利かせました。良家出身者からの反動で、剛腕で強権的な指導者が求められているなどという勘違いが広まらないか、私はそんな危惧を持っています」

 「近衛文麿の次は東条英機」、これは何とも不吉な予言ではあるまいか。





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