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【日韓競馬比較①】競馬関連法令
何かと物事を対比して眺めるのが好きなタチにつき、2022年より始めた韓国競馬ウォッチングも基本的には日本競馬と比較しながら、その同異に関する発見やここnoteでの発信を行っていきたいと考えてきました。よって、「いつかやってみよう!」と前々から思ってきた日韓競馬比較のシリーズ記事をここに開始します。(ただしどこまで続くかは分かりませんが…)
まずは第一弾として、両国において競馬を合法ギャンブルにならしめている関連法令について比較してみました。
今後のシリーズ記事も含め、特段の断りの無い限り「日本競馬」は中央競馬のことを指します。
競馬に関する法体系は?
歴史的経緯により似たような現代法体系をもつ両国間では競馬に関する法律-政令-省令の構造も似ており、
日本: 競馬法ー競馬法施行令ー競馬法施行規則
韓国: 한국마사회법ー한국마사회법시행령ー한국마사회법시행규칙
(韓国馬事会法ー韓国馬事会法施行令ー韓国馬事会法施行規則)
となっています(以下、「法/令/規則」と略します)。
なお、日本には日本中央競馬会法もありますが、これは競馬法に基づきJRAという特殊法人の組織・運営について定めたものです。一方で韓国馬事会法にはKRAの組織・運営に関する規定も含まれていますので、日本で言うと競馬法とJRA法を併せ持った性格のものかと思われます。
よって本稿では以下、競馬法と韓国馬事会法を直接の比較対象としながら、その中身についてみていきます。
競馬場の最大設置数は?
<日本>
12か所以内(法第2条)
<韓国>
規定無し
日本では現状10か所ですが、1991年の競馬法改正までは横浜(根岸)競馬場と宮崎競馬場(現・宮崎育成牧場)の2つを含めて12か所でしたね。
韓国には上限数の定めがありませんが現状は3か所(ソウル・釜山慶南・済州)で、2026年9月に4か所目となる永川(ヨンチョン)競馬場が開場します。
本馬場の最低スペックは?
<日本>
一周1,000m以上、且つ幅員20m以上(令第1条)
<韓国>
円形又は楕円形で一周1,000m以上、且つ幅員16m以上(令第5条)
韓国の最低スペックは日本の地方競馬のそれ(令第13条1)と同じというのが面白いところです。ちなみに実際のスペックは以下の通りです。
ソウル:一周1,800m(外)/1,600m(内)、幅員25m
釜山慶南:一周2,000m(外)/1,470m(内)、幅員25m
済州:一周1,600m、幅員25m
競馬場への入場料は?
<日本>
JRAに100円以上の徴収義務(法第5条及び規則第4条)
ただし農林水産大臣の承認を受けた場合は、この限りでない。
<韓国>
KRAは2,000ウォン以下で徴収可能(法第5条及び規則第3条)
韓国は「可能」につき、KRAの判断で無料入場日を自由に設定することが可能で、実際コリアカップ・コリアスプリントを含めたKG1競走開催日などは無料になることが多いです。日本でもときどきフリーパスの日がありますが、あれっていちいち農水相の承認を受けているのでしょうか?(受けているのでしょうね)
競走の種類は?
<中央競馬>
平地競走・速歩競走・障害競走の三種類(令第5条)
最低距離は平地競走600m、速歩競走1,000m、障害競走1,600m(令第6条)
<地方競馬>
平地競走・速歩競走・障害競走・ばんえい競走の四種類(令第17条)
最低距離は中央と同じ。ばんえいは100m(令第17条の2)
<韓国>
平地競走・馬車競走・障害競走の三種類(令第3条)
最低距離は平地競走600m(済州は400m)、馬車競走1,000m、障害競走1,600m(令第3条)
韓国の「馬車競走」は日本同様に繋駕速歩競走のことかと思いますが、もしかすると駈歩・襲歩が許容されているかも知れませんので、韓国語の마차をそのままで「馬車」としました。実際のところは障害競走と共に未実施です。
なお、韓国で実際に施行されている最短距離は、ソウル・釜山慶南が1,000m、済州が800mです。
開催日数・競走数の上限は?
<日本>
延日数:年間288日(規則第2条)
競走数:1日12回(同上)
<韓国>
暦日数:年間105日(令第2条)
競走数:1日15回(同上)
韓国では複数場同日開催でも「1日」とカウントしますので、日本的に言えば315日に相当します(2025年は98日×2+97日=293日を予定)。また、1日15Rも行うのは3場が輪番で休催する夏場の酷暑期のみであり、普段は多くても11~12Rです。
出走馬の制限は?
<日本>
出生の日から起算して二年(障害競走は三年)を経過しない馬は出走させてはならない(令第7条)
<韓国>
平地競走は生後24か月、障害・馬車競走においては生後36か月を経過した馬が出走できる(令第4条)
この先実施されることはないでしょうが、もし速歩競走が実施される場合、韓国は3歳以上でないと出走できないのに対し、日本は2歳以上で出走できるということになりますね。
馬券の種類は?
<日本>
●単勝式・複勝式・連勝単式・連勝複式・重勝式の5種類とし、勝馬投票法の種類の組合せ及び限定その他その実施の方法については、省令で定める(法第7条)
●法第7条の省令で定める種別は、次の各号に掲げる勝馬投票法の区分に応じそれぞれ当該各号に掲げるものとする(規則第6条)
一 連勝単式勝馬投票法
イ 枠番号二連勝単式勝馬投票法(枠単:地方)
ロ 馬番号二連勝単式勝馬投票法(馬単)
ハ 馬番号三連勝単式勝馬投票法(三連単)
二 連勝複式勝馬投票法
イ 枠番号二連勝複式勝馬投票法(枠連:中央/枠複:地方)
ロ 普通馬番号二連勝複式勝馬投票法(馬連:中央/馬複:地方)
ハ 拡大馬番号二連勝複式勝馬投票法(ワイド)
ニ 馬番号三連勝複式勝馬投票法(三連複)
三 重勝式勝馬投票法
イ 二重勝単勝式勝馬投票法
ロ 三重勝単勝式勝馬投票法
ハ 四重勝単勝式勝馬投票法
ニ 五重勝単勝式勝馬投票法(WIN5:中央/5重勝:地方)
ホ 六重勝単勝式勝馬投票法
ヘ 七重勝単勝式勝馬投票法(7重勝:地方)
ト 二重勝馬番号二連勝単式勝馬投票法
チ 三重勝馬番号二連勝単式勝馬投票法(トリプル馬単:地方)
リ 二重勝普通馬番号二連勝複式勝馬投票法
ヌ 三重勝普通馬番号二連勝複式勝馬投票法
<韓国>
●単勝式(単勝)・連勝式(複勝)・複勝式(馬連)・双勝式(馬単)・複連勝式(ワイド)・三複勝式(三連複)・三双勝式(三連単)・特別勝馬式の8種類とする(法第7条)
●特別勝馬式の勝馬決定はKRAが農林畜産食品部長官の承認を受けて定める(規則第4条)
両国とも馬券の種類は法第7条で規定していますが(単なる偶然の一致でしょうが)、日本では規則で非常に多くの種類を細かく規定する一方、韓国は「特別勝馬式」で拡張性をもたせているのが対照的です。
韓国では現行の7種類以外を特別勝馬式として実施している例はありませんが、競輪・競艇にある双複勝式(三単複)という1着→2着=3着の投票法や、WIN5のような重勝式の採用余地があるのかも知れませんね。
但し特別勝馬式の本来の目的は、過去の条文によると、まずは馬券購入者の中から抽選で当選者を決め、その中から着順に応じて払戻する?という方式だったようです???(こう書きながらまだ筆者は正確な理解に至っておりませんが…)
馬券の払戻率は?
<日本>
百分の七十以上農林水産大臣が定める率以下の範囲内で日本中央競馬会が定める率を乗じて得た額に相当する金額(法第8条)
<韓国>
KRAの収得金は発売金額の100分の20を超えてはならない(法第9条)
即ち、韓国では80%の払戻率と読めますが、実際80%なのは単勝式と複勝式だけで、残りの賭式は73%です。
テラ銭27%のうち16%は税金であり(地方税14%+国税2%)、残り11%のうち7%がKRAの運営費用、最終的な残り4%がKRAの純利益として各種積立金や利益準備金/剰余金に回されています。
払戻金の最高限度額は?
<日本>
払戻金の最高限度額は、六千万円とする(規則第11条)
日本の馬券発売は10円単位ですので、実際の最高払戻額は6,000万円×10倍=6億円です。
<韓国>
規程無し(と思われます)
韓国馬事会法・令・規則のみならず競輪・競艇法や射幸行為規制法までチェックしましたが、日本の規則第11条に相当する条文は見当たりませんでした。一人1回10万ウォンの購入上限を設けるぐらいですので払戻上限もありそうなものですが・・・。
なお、KRAはこのサイトで「払戻3億ウォン超の場合は云々」と書いていますので、最低でも3億ウォンの払戻は可能です(的中させられるかどうかはともかくとして…)。
海外競馬の馬券発売は?
<日本>
農林水産大臣の指定により発売可能(法第3条の2)
<韓国>
不可
韓国では「KRAが競馬を開催するときに馬券発売可能」としていますので、他団体が開催する海外競馬に対する馬券発売は不可能です。
一方で韓国競馬番組はイギリスやオーストラリア、シンガポールなど23か国に輸出されており(2022年実績)、日本への輸出も個人的に期待するところですが、農水相が指定可能なものはパートI国のグレード競走、及びパートII国のG2以上につき、コリアカップG3とコリアスプリントG3は格上げされない限り日本では発売不可です…
以上、両国の競馬関連法令をざっと眺めながら目についたところを纏めてみました。今後、JRAとKRAの組織運営に焦点を当てながら続編を投稿していく予定ですので、引き続きよろしくお願いいたします。