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選ばれない悲しみ

俺はポテチ。
棚の中で、他のポテチたちと並んでいる。
中身はぎっしり詰まった黄金色のチップス。
パリッとした食感と塩の味わいが自慢の俺。

だけど、ここに並んでからどれくらい経っただろうか。

「誰か…僕を選んでくれないかな…」

毎日、多くの人がこの棚を通り過ぎる。

ある人は手に取っては別の袋に目を向け、
ある人は全く目もくれずに他のものをカゴに入れていく。

そして、いつも俺は残されてしまう。

「僕の中身だって、他のポテチと変わらないはずなのに…」

隣に並んでいる他のフレーバーのポテチが
次々に選ばれていくのを見ながら、
心が少しずつ沈んでいく。

バーベキュー味、チーズ味…
彼らが羨ましかった。

どうして自分はいつも置いていかれるんだろう?
何が違うのだろう?
その疑問は頭の中で渦巻くが、答えは出ない。

ある日、ついにその時が来た。

棚の前に一人の客が立ち止まり、
俺に視線を向けた。

「こ、これは…?」

ドキドキした。
いつもと違う。

彼の手が伸び、
俺は彼の手の中に収まった。

初めての感覚だ。
少しだけ光が見えた。

袋越しに手の温もりを感じながら、
心の中で大きな喜びが広がった。

「ついに選ばれたんだ!」

心の中で歓喜の声が上がる。
長い間待ち続けた時間が報われた瞬間。
これこそがポテチとして生まれた自分の運命だった。

だが、その喜びはすぐに打ち砕かれた。

カゴに入れられる寸前、
手が滑り、俺は床へ落とされた。

鈍い音が響くと同時に、
俺の体に衝撃が走った。

袋の端が少しだけ破れて、
空気が逃げていくのを感じた。

「……僕は、捨てられるのか?」

恐怖が俺を襲った。
選ばれた喜びが一瞬で消え去り、
代わりに不安と絶望が押し寄せる。

床に転がったまま、
彼が俺を見下ろしている。

そして、その瞬間、
彼は顔をしかめて俺をカゴからそっと戻し、
棚に置き直した。

「また戻されるのか…」

俺は打ちひしがれた。

選ばれたはずなのに、
今度は壊れてしまったからといって、
また戻されてしまう。

それでも、今の俺には何もできない。

ただそこに置かれて、
誰にも手を伸ばされることのないまま、
袋が少しずつしぼんでいくのを感じていた。

数日後、俺の袋はさらにくたびれていた。

棚の奥に押しやられ、
もう誰も俺を見てくれない。

俺はここで終わるのだろうか、
と考え始めていた。

しかし、最後のチャンスが訪れた。

店員が棚を整理していた時、
俺を手に取ったのだ。

希望が一瞬だけ胸に湧き上がる。

でも、その手は俺をレジへと運ぶわけではなかった。

店員は俺を不良品のバスケットに入れたのだ。

不良品コーナーに置かれた俺は、
もはや希望も何もなかった。

今度は破れた袋からチップスが少しずつこぼれ出て、
乾燥してカリカリとした感触が失われていくのを感じた。

俺はもはや商品としての価値もなく、
ただのゴミになる運命を受け入れるしかなかった。

やがて、誰かの手によってゴミ箱へと投げ込まれた。

袋が破れ、
中のチップスが音もなく散らばった。

最後に俺が見たのは、
広がるゴミの山。

そして、その中で俺も無数の廃棄物の一部となった。

「僕は、結局こうなる運命だったんだね…」

どんなに待っても、
どんなに望んでも、
俺にはハッピーエンドなんて存在しなかった。

#小説 #物語 #変な話 #奇妙な物語 #ポテチ #絶望


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