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進化しすぎたウイルスの悲劇
俺の名前は「MaliciousBug-X」。
かっこいい名前だろ?
最新のウイルスとして誕生し、
世界中のコンピュータを混乱に陥れる使命を背負っている
…はずだった。
俺は開発者の手によって
最新のセキュリティを突破するスキルを持たされ、
どんなシステムでも侵入できる
最強のウイルスになるはずだったんだ。
問題が発覚したのは、
俺が初めて侵入したコンピュータでのことだった。
「侵入成功!
システムを乗っ取ってやる!」
俺は興奮していた。
ターゲットは
普通のオフィスに置かれているデスクトップパソコン。
侵入は簡単だったし、
あとはシステムに大打撃を与えてやるだけ!
…そう思っていたんだけど、
何かがおかしかった。
俺がアクセスしたのは、
かなり古いバージョンのオペレーティングシステムだった。
新しいウイルスである俺にとって、
そのシステムはあまりにも古すぎて、
互換性がなかったのだ。
「えっ?
なんだこれ…
操作できないじゃん!」
最新のウイルスとして開発された俺は、
古いプログラムを扱うスキルなんて持っていなかった。
俺が実行しようとする命令は、
次々とエラーを返してくる。
「古すぎて俺のプログラムが通用しないなんて…」
冗談みたいな話だった。
普通は最新のウイルスが
古いシステムに対して無双するはずなのに、
ここでは俺がまるで異物のように感じる。
それでも、俺は諦めなかった。
「MaliciousBug-X」の名にかけて、
どんなシステムだって混乱に陥れてやるんだ、
と誓ったんだ。
でも、実際にできたのは、
ひたすら画面にランダムな文字列を表示することだけ。
「どうだ!
これで混乱するだろ!」
画面に「&%$#@!!!」と表示された文字列を見て、
俺は自信満々だった。
だけど、誰も気にしていない。
コンピュータを使っているオフィスの人たちは、
しばらくその文字列を見つめてから、
パソコンを再起動して、
何事もなかったかのように作業を再開してしまった。
「そんなはずないだろ!
俺は最強のウイルスなんだぞ!」
俺は苛立ちと焦りでいっぱいになった。
自分が思い描いていた恐怖のウイルスのイメージとは程遠い、
まるでおもちゃみたいな存在になってしまっている。
最新のウイルスとしてのプライドがズタズタだった。
数日が過ぎても、
俺はシステムに影響を与えるどころか、
古いオペレーティングシステムにすら適応できないまま。
俺の自己修復機能も役に立たず、
ただひたすら古いシステムと格闘する日々だった。
そのうち、オフィスの人が言い出した。
「このパソコン、
古すぎるし動作も遅いな。
新しいのに買い替えようか」
俺は焦った。
もし新しいコンピュータに買い替えられたら、
俺は古いこのパソコンの中で完全に孤立してしまう。
ウイルスである俺の使命が
何の意味もなくなってしまうのだ。
「ちょっと待て!
俺はまだやれることがある!」
最後の手段を試すしかなかった。
俺はなんとかして、この古いシステムを使って
新しいウイルスコードを書き換え、
昔のプログラムでも動作するように適応させようとした。
古いプログラムと格闘すること数日。
俺はついに小さな成功を収めた。
画面に
「こんにちは!」
と表示することができたのだ。
…あれ?
これは恐怖じゃなくて挨拶?
「えっ、違う、違う、
そうじゃない…
俺はもっと恐ろしい存在なんだ!」
でも、その時にはもう手遅れだった。
オフィスの人が新しいパソコンに買い替えたことで、
古いコンピュータは倉庫行きになり、
俺はただ一人、古びた機械の中で
「こんにちは!」
と挨拶するだけの無力なウイルスになってしまった。
結局、俺は「MaliciousBug-X」としての使命を果たせなかった。
最強のウイルスになるはずだったのに、
古いシステムに囚われ、
挨拶するだけの存在に成り果てたのだ。
「やっぱり俺は、
最強のウイルスにはなれなかったのか…」
倉庫の暗闇の中で、
俺はひっそりとつぶやいた。
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