ネックレスの解き方
私は先日ネックレスを絡ませてしまった。
いや、正しくは買って帰ってきたら勝手に絡まっていた。たかが300円のやっすいネックレスの癖にふざけるのも大概にして欲しい。私には時間が無いのだ。300円ごときのネックレスの絡まりを解くのに割いてやる時間など無いのだ。
そんなことをブツブツと心の中で反芻しながら、私は拙い指先を使ってチャームを捏ねくり回していた。安くてもせっかく買ったのだからさすがに着用したい。たかが300円、されど300円。
しかし奴はしぶとかった。絡まりが強いのは先端のチャームの部分だが、絡まりすぎて毛玉のようになっている。まるであたかもこれが、そのようなデザインであるかのように。
…待てよ、ということはもしかして、これはこういうデザインなのだろうか。
言われてみれば、ハートのチャームの上にまぁるくチェーンが絡まっているのは遠目に見たら可愛らしく見える…ような気もする。
全く解けないことにイライラしていたこともあり、私は開き直ってこのままネックレスを着用することにした。
付けてみると、明らかに長さが変ではあったが見た目はそこまでおかしくも見えなかった。
これでいいのかもしれない。
そんなことは無かった。やっぱり変だった。
出先のトイレの鏡でふと胸元をみると、チャームが絡まっているせいで不自然に曲がったハートが変なところにいた。そして皮膚に残る少しの違和感、謎のかゆみ。
やっぱりこれは間違っていた!
帰宅してすぐ、ブラウザの検索窓に「ネックレス 絡まった」
と入力。
ヒットした記事には、こんなことが書いてあった。
「爪楊枝で解決!」
嘘だろ。ネックレスを解くのに我ら人間様の指先よりあのほっそい木の棒の方が役に立つのか。
もうどうにでもなれ!と思っていた私は、人間としてのプライドを捨てて、台所に置いてあった爪楊枝を取り出しネックレスにあてがった。
結果、爪楊枝は人間の指よりはるかに優秀であった。
私はこんな細棒を前に、己の非力さに打ちひしがれた。ああ、人間はなんて弱い生き物なのだ…。
ネックレスを解くという点において、人間のヒエラルキーが爪楊枝より劣っているという悲しい事実は私に一生付きまとうだろう。
天下の爪楊枝様……。
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