2分の1の魔法の感想(ネタバレあり)
MOVIX京都で鑑賞。あまりお客さんは入っておらず「字幕だからかなぁ」とか思っていたけど、吹き替えでイオンシネマ京都桂川で鑑賞した時もガラガラだった。コロナの影響も考えたけど横のスクリーンのドラえもんはすごい人だったので、どうも作品の人気がない気がする。
観る前はコロナ騒動で延期のせいでこれでもかと劇場予告を見せられた事もあり正直ちょっとウンザリした印象だった。
それと日本版の主題歌が「全力少年」というどう考えても合ってなさすぎるチョイス(スキマスイッチも気の毒)相変わらず日本のピクサー作品のプロモーション力の低さにもかなりガッカリ。
しかしいざ観始めると、さすがのピクサークオリティで、上質なアニメ表現、練りに練られた脚本、予告では掴めなかった普遍的なテーマ性など、ぐいぐい引き込まれていく。
そして終盤の誰も傷つけない優しい着地で終わっていく頃には目玉がもげるんじゃないかと思う位号泣してしまっていた。完全に僕の負け。舐めててすみませんでした
現実と地続きな世界観
冒頭のロード・オブ・ザ・リングやハリー・ポッターなどでお馴染みな魔法描写から科学の力で魔法が不要になっていく経緯をスマートに説明していく手際の素晴らしさ。
コロナで自粛期間中に初めてハリー・ポッターマラソンをした時にも感じたけど、「それ手でも出来るよね」とか「子供が使う割に魔法の安全性が低すぎる」とか「銃の方が強いのでは?」とか、思っても言わずにいたツッコミを具体化した様にどんどん魔法が淘汰されていき、魔族的なキャラクターのライフスタイルの変化の描き方が面白い。
魔法時代の名残はありつつも現代のアメリカと変わらない街並みになっている。
ここらへんで巧みなのが絶妙に街の雰囲気が暗いし、場所によっては貧困を匂わせるようなシーンも多い所。
特にマンティコア関連の描写の、酒場じゃ儲からないのでファミレスに改装してたり、「税金を払えないので剣を売った」とか今の暮らしに適応する為に自分を押し殺して商売している割に全然幸せそうに見えない感じで、現実的なギャップ描写として笑いながらも切実に共感してしまう。
演じているのがオクタヴィア・スペンサーなのも絶妙なチョイス。居心地の悪さに怒りをぶつける描写はオクタヴィア・スペンサーまんまな迫力。
要は科学の力だけではもう世界の限界が来ているけど人々はどんどん退化していて、前へ進む為には元々持っていた自分たちのアイデンティティを取り戻す事が重要という「ウォーリー」とかとも通じる世界観な気がする。
つまり彼らは今の僕らと同じ課題を抱えた人たちですよと、こちらにも突き付けくる。
過去の偉業をもう一度リスペクトし今の時代と合った調和のやり方を探していく、過去も現在も否定しない事で世界はより良くなっていくんじゃないかという希望を描いて終わる。ラストの余韻で言うと魔法は出てこないけど矢口史靖監督の「サバイバルファミリー」とかとも通じるテーマ性を感じた。
普遍的に感動するファミリードラマ
しかしどちらかというとこの魔法の世界のありかたという要素がメインではなく、あくまである家族が絆を取り戻すまでを描いた小さな物語になっているのが僕はとても好き。
ある意味で父親の形見を探す旅に出かける兄弟の話とも言えるので、魔法描写が無くてもメインストーリー自体は成立していて、実写にしてファミリーロードムービーとかに置き換え可能なプロットだと思う。
でもその小さい物語からこそ世界を変える力があると宣言している様でもある。
鬼アニメーション演出
後、アニメーションとしても相変わらず実験的な試みをやっているのがピクサーは偉い。
今回は何といっても下半身だけの父親のつかず離れずなコミュニケーション描写が凄まじい。「ジョニーは戦場へ行った」とかを連想した。
初めての対面シーンがまず素晴らしい。
父親との元同級生との会話に出てきた紫の靴下や、バーリーがサラッと話していた足を叩いたコミュニケーション方法(確かに小さい子供は目線が低いし親の足に絡まったりして遊びがちだよなぁ、と納得してしまうディティール)など、序盤の伏線がしっかり貼られていたので、あっちも二人がそこにいるのを理解出来ているのが無理がなく、下半身だけで「お前バーリーか?だったらもう一人はイワンだな」と言っている様に見える仕草のつけ方とか、本当恐ろしく的確でピクサークオリティ怖い。ここらへんで僕は結構チビチビ泣いてしまっていた(序盤)
最高な兄弟二人
イアン
父親の不在でずっと心に穴が開いているの分かる父の肉声のカセットテープと会話をするシーンがとても切ない。何回も聞いていて思いついた方法なんだろうなぁ、、、。
「クリードチャンプを継ぐ男」でアポロの昔の映像相手にシャドーボクシングをするアドニスを連想した。
父親の同級生に出会い彼の息子に送る目線とかもそうだし、彼が父親と一時でも話がしたいという目的が序盤からとても切実に伝わってくるだけに、ラスト兄の為にその願いを捨てるという選択が恐ろしく感動的で号泣する。
そこに至るメモ帳に書いた願いが兄となら出来ていたと気づくシーンも本当スマートで凄いし、なかったものを欲するのではなくずっと自分の傍にあったものを改めて抱きしめるという、とても普遍的で正しい結論に至る所も素晴らしい。
こういう自分の事で一杯一杯な高校生役演じたらトムホはやっぱり絶品。
バーリー
加藤るみさんがツイッターで「シングストリート」のアニキみが強いと言っていたけどその通りだと思う。
本人の陽気なキャラクターでそこまで気にならないけど、ある意味時間が止まってしまった人。
父親との別れがちゃんと出来なかった事がその要因の一つでもあるのだけど、彼は彼なりに弟にとって父親代わりになろうとしていたのが分かる回想シーンがとても感動的。
僕も長男なのでこういう駄目な兄が一生懸命頑張る映画は無条件で泣いてしまう。
警官二人にバカにされる所で吹き替えだと「厄介者」になってたけど、字幕だとたしか「失敗」みたいな言われ方していて「そんなはっきり言わなくてもいいじゃん!」と心底同情した。
イアンも無意識的にそう思っていたのが魔法で分かった後、すぐに親父の空気読まないダンスシーンになっていく緩急のつけ方とか本当上手い。
笑いながら泣いてしまう素晴らしいシーン。
ラストに大学に通いだすとか就職するとか、分かり易く前進する訳じゃなく、彼が彼らしいまま映画が終わっていく切れ味にまた泣いてしまった。
演じていたクリプラはこういう陽気な役をやらせて悪いわけがなく、お得意のすっとぼけ演技も冴えまくり終始楽しそう。
ダン・スキャンロン監督は前作の「モンスターズ・ユニバーシティ」も僕は最高に好きだったけど今回も素晴らしかった。
また予想とは違う形で深く感動させられてしまったなぁ、、、。
実際に幼い頃に父親を亡くし、支えてくれた兄との監督自身の体験がお話のベースになっているらしい。
それを踏まえて観るとラストの瓦礫の中から父親を覗くシーンの距離感の演出や、兄へのフィクションだから出来る恩返しの様に感じる抱擁シーンの感動が半端ではなかった。
ピクサー次回作のソウルフルワールドも予告観るだに素晴らしそう、監督ピート・ドクターだし次回も傑作の予感。