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ビール・ストリートの恋人たちの感想(ネタバレあり)

MOVIX京都で鑑賞。

土曜にしては珍しくガラガラだった。
同じ日に観たスパイダーバースもグリーンブックも超満員だったしアカデミー賞効果で、もうちょっと盛り上がるかと思ってたけどそうでもないみたい。

バリー・ジェンキンスはムーンライトのみ鑑賞。

今製作がどうなってるかは知らないけど「地下鉄道」の映像化に挑んでると聞いたのでそちらも楽しみ。おそらくとんでもないトラウマ作品になるとは思うけど。

主観的な目線の集合体で進むストーリー

今回も登場人物の心情に寄り添った主観的な描写で映画は進んでいく。主人公であるティッシュやファニーの目線だけじゃなく彼らを助ける色んな人々の主観視点が入るのが面白い。
僕はこれが一人一人物語を持ってる登場人物が二人の人間の未来を必死に祝福している様に感じて、ずっとチビチビ泣きながら観てた。タイトルが「ビール・ストリートの恋人」ではなく「たち」が付いてる意味が分かった気がした。

それと「この時代のアメリカの黒人コミュニティはこんな感じ」みたいな客観的な広い目線がないので、漂う世間の空気感が世知辛く彼らの生活の窮屈さを追体験させられる様な苦みとしても機能してるのも素晴らしいと思う。

ファニーが逮捕されるシーンとか普通の映画なら全面に押し出してきそうなものをそうしないのが、絶対ただの悲劇として語らないという作り手の強い意志を感じた。

日常の中にある小さな奇跡を映しだす手腕

日常的な一見何ともないシーンの切り取り方が鬼の様に上手い。個人的にこれは是枝監督の「奇跡」の最後のシーンで描かれた「あれ」にすごく近いと思う。

二人が見つめ合っているシーンはもちろん、彼と彼女が手を握っている仕草や、傘を差して歩いてるだけのシーンなど何気ないシーンに凄まじい感動が詰まっていた。

この後悲劇的な事があるのが分かっているからという、ストーリー的な流れの感動ではなくて今彼らがお互いを思いあってるというのが、これでもかとセリフじゃなく映像や音で伝わってくるから。本当に映画的な素晴らしいシーンばかり。
「人が人を思っている」という事が小さな「奇跡」であることを示している様な気がして、僕らの生活にも地続きな感動だと思った。

血肉が通った登場人物たちの魅力

主人公のティッシュの周りがほっとけない愛らしさ、ファニーの荒っぽさと優しさを同居させた佇まい、見てるだけでこの二人がベストカップルなのが分かる。僕は映画に出てくるカップルなんて別れようが結婚しようがどうでもいいと思う事が9割なんだけど、「この二人には幸せになって欲しい、、、」と心の底から願ってしまう位素晴らしかった。

ティッシュの家族も全員良い、特にティッシュが妊娠してることを告白するシーン。あの時点では観てるこちらには彼らがどれ程絶望的な状況なのか、まだ詳しく説明されてないんだけどピリッとした空気の後、家族が暖かく祝福するシーンで超泣いた。あそこで「おれは男の子がいいぜ」と笑顔で言える父親の優しさとか思い出すだけでウゥ、、、ってなる(その後ファニー側の家族が来て地獄になってはいくんだけど、、、)

あと事件の被害女性も改めて会うと、犯罪被害者として傷付いていて他者に対して何かしてあげられる余裕が全くない状態なのも見ていて辛い。

それに加え自分と同じく守ろうとする家族がいるのがシャロンからすれば「これ以上踏み込めない」という絶望でもあって本当に苦しい。ここのレジーナ・キングの「駄目だった、、、」って顔に胸が締め付けられる。アカデミー賞取ったのも納得だった。

ディエゴ・ルナやデイヴ・フランコやペドロ・パスカルなど有名俳優の使い方も上手いし、ティッシュとファニーの為に警官との間に割って入るお店のおばちゃんや、一瞬出る具合が悪くなったティッシュを気遣ってくれる女性の同僚とか、役名のない人含め愛おしい登場人物ばかり。

うすら寒い暴力性

もちろん世界の闇も、これでもかと突きつけてくる。
逮捕の発端になるティッシュに絡んでくる男や、そこに現れる警官のあからさまに嫌な感じなど分かりやすい悪もあれば、化粧品売り場で手に鼻くっつけてくるおっさんの悪びれない感じ、ああいう事が当たり前に行われているのがとても息苦しい。

途中で全く登場しなくなるダニエルのフェイドアウトも怖い。
本来陽気な性格の彼がトラウマを語りだすシーンの緊張感が半端なかっただけに、逮捕されたその後どんな目にあったか明確に提示しないことがめちゃくちゃ不安な気持ちになる。

他にも留置所にいるファニーにティッシュが会いに行った時、右目が赤くなった顔で苦しそうに「ここがどんなに酷い所か分かるか?」というセリフのみで、彼が刑務所内でどんな目にあったか全く見せないのもめちゃくちゃ怖かった。

こういうジワジワと登場人物の行き場をなくしてく手腕、「地下鉄道」にも活かされそうで今から憂鬱だ(絶対観るけど)。

圧倒的な映画としての力

ストーリーだけ人に話しても「よくある悲恋の話」という風にしか思われないだろうけど(僕も観る前ちょっとそう思ってたし)映像、音楽、セリフの間、などなど色んな要素が集まって映画として観た時の感動が言葉にならない類の作品だった。
「こういう体験が出来るなんて本当映画って素晴らしいなぁ」と、バカみたいな感想がまず初めに浮かんじゃうくらい凄い(笑)

あんまり点数とか具体的な評価しない様にしてるけど個人的には今年ベスト級の大傑作だと思った。

また観たいけど回数減ってるし出町座でやってくれないかなぁ。


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