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コブラ会(シーズン1〜3)の感想(ネタバレあり)

ベストキッド1作目から続けて一気にシーズン3まで鑑賞。
その後ベストキッド2〜4も後追いで観た。

ベストキッドの感想でも書いたけどロッキーシリーズと共通する要素が多くて、今作を観てより兄弟作的な印象が増した。
キャラクター達のハッピーエンドのその先に次世代の若者達に何を残せるのか奮闘する感じはやっぱりクリードとも近い。

ただ今作が変わっているのはほぼ一作目しか出てない悪役のジョニーの目線で描いている所。

本人は教え子にかつての自分の様になって欲しくないと思っているのだけど、自分が教わった空手はクリーズ流しか知らないので結局同じ教え方になってしまう。
その事に悩みながらも自分の生い立ちをもう一度見つめ直し折り合いをつけていく所に感動する。
生徒と共に成長していく彼を心の底から応援してしまうし、人は何歳からでも変われると宣言しているみたいだ。

良い先生とは?

ずっとこのシリーズは「良い先生とはどういう存在なのか?」という事をテーマにしていると思うのだけど、「コブラ会」は、よりそこを深く突き詰めて描いていている。

前シリーズのミヤギさんはある意味指導者として完成された魅力があったというか、ミヤギさんという良い先生に対して絶対的に悪い先生が敵側にいて最後に「悪い教え」は決して勝てないという分かり易い対立構造がスカッとして楽しい映画シリーズになっていた。

だけど「コブラ会」はそこを決して単純化しないのがとても現代的で深いドラマになっていると思う。

主人公ジョニーもライバル関係にある前主人公ダニエルも先生としてずっとグラグラしている。
良かれと思って言ったことが裏目に出たり、自分の生活が上手くいかない事に引っ張られ当てつけの様につい極端な事を子供たちに教えて、そのせいで悲劇が起こったりしてしまう。
それでも「どうしたら彼らの人生をよく出来るのか?」と右往左往する様子がとても人間的で、当然だけど「先生だって迷うんだよ!」と教える側の難しさに感情移入してしまう。

特にジョニーと一番弟子であるミゲルの関係性の変化がとても見応えがある。
シーズン3で下半身がマヒしてしまったミゲルがジョニーに対して「あなたの言った通りにしたのに。敵を情けをかけたのに。どうして?」と嘆くシーンが本当に切なかった。
ただそれに対してジョニーが言う「分からない」という言葉がとても真摯で泣いてしまった。
やっぱり完璧な「教え」なんてないし、完全な悪人がいなくても悲劇は起こってしまう。
でも型にはめた言葉で慰めたりするわけじゃなく「どうすれば良かったのか分からない」とそれを認める事が出来るのが苦いけど彼が地獄の中で先生としての成長だったのではないかと感じる。
だからその後、ミゲルに対して「ずっとお前の先生だ」と再び彼の中にあるコブラ会流の教え方で救おうと必死に奮闘する流れに心打たれた。

そして今ここにいてくれたらジョニーやダニエルや子供たちにどんな言葉をかけるのだろうか?と、いないからこそミヤギさんの存在感を強く感じる。
ミヤギさんも実はダニエルと接する時に色んな事に迷いながら教えていたのかなぁ、、、と不在であるがゆえに切なく思い出してしまう。

悪い先生とは?

そして今回のドラマ版が映画版より深みを増しているのは、ずっと悪い先生として描かれていたクリーズの人物像の描き方だと思う。
映画版だと1~3でどうしようもないクズっぷりを爆発させていたし、シーズン2に関してもついに本性を現しコブラ会を乗っ取ってしまった流れで結局「やっぱどうしようもない悪い奴だなぁ」と油断していたのだけど、シーズン3で「彼に何があったのか?」というのを詳しく語り直し始めた所で、彼もまた「悪い教え」の被害者でもあるのが分かってくる。
母親の死、恋人の死、自分の優しさのせいで仲間を危険に晒してしまった後悔、など彼がなぜそうなったのかを丁寧に描いていく。

最終的に「敵に情けをかけるな」と教えた上官を殺し自分がその立場に代わることでコブラ会のクリーズという男になってしまうのだけど、決して時代だったからという描き方じゃなく彼の様な状況の子供達も現代にもやっぱりいて相変わらず世の中は厳しく、弱者が喰い物にされている現実もあり、彼の言う様に過激なやり方に一理あったりする。
特に母親が病気のトーリーは自分が家族を支えなければならず、現実的に追い込まれていて、クリーズ教える他者を蹴落としても自分が生き残る生き方が切実に必要とされている様にも感じた。

というかこういう若者は現代のアメリカというか世界中に実際いる訳だし、彼の考え方が本当に悪なのか?と現実をこちらに突き付けてくる。
戦争帰りの狂った記号的な悪役だったはずが、その考え方が現在に通じてしまうのがなんとも皮肉。
今後、彼とダニエルとジョニーの教育法がどういう決着を迎えるのか、とても楽しみだ。

「ベスト・キッド」シリーズへの愛情

あとこの「コブラ会」何より感動するのが作り手が「ベスト・キッド」というシリーズを本当に愛しているのが伝わってくるオマージュシーンの数々。
特にシーズン1での一作目のなぞり方はめちゃくちゃ熱い。

ミゲルが若き日のダニエル的な存在になるのかと思いきや中盤から、ロビーの方が主役の様に存在感を増していき、ミゲルの方がジョニー、ロビーがかつてのダニエルと同じ立場で決勝戦に突入していく。

ただ「ベスト・キッド」の様に勧善懲悪な話ではないのでロビーにも負けて欲しくないしミゲルも正々堂々と戦って欲しいという、どちらも悪い子じゃないのでどちらにも感情移入してしまう。

この「前と同じだけど前と違うバランス」の取り方がとても絶妙だった。

あとシーズン3でいよいよ「ベスト・キッド」一作目のヒロインエリザベス・シューが登場するのだけど二作目でのファンからするとガッカリなダニエルと別れた理由のフォローをしっかりしていたり、同じく二作目でジョニーよりもフォローされずただただ悪役としてシリーズから退場していったチョウゼンにも、そこから数十年の人生がちゃんとあった事を描き直していたり、遡りで映画シリーズをもう一度好きなれる様な仕掛けが沢山あって、1作目じゃなくシリーズ全作品に対して愛情を持って作っている。

今後は4作目のヒラリー・スワンクが登場の噂があるみたいだしジョニーやダニエルとどう絡むのか楽しみだなぁ。

登場人物

ジョニー

汚い手を使ってダニエルに敗北した事で30年以上地を這うような人生を送ってきた。
しかし彼の過去が明らかになっていくと人生の歯車は小学生時代の母親の再婚あたりから狂いだしていた。そんな義父から逃げる為に空手を習い始めるのだけど、そこで父親代わりとして現れるのがよりにもよってクリーズなのがなんとも辛い。

だからある意味ミヤギさんとダニエルに敗北したことでより破滅的な道へ行くのをかろうじて防げた様にも思える。

80年代で時間が止まった様な人で、高校時代の敗北から抜け出せないトラウマで人とまともに関わらなかったせいなのか、実生活でもスマホもパソコンも持っていないし子供の相手の仕方も昔ながらのスパルタ感、現代的な価値感に全くついていけていない。
そこからミゲルとのやりとりを通して現代に適応し始める様子が可笑くもちょっと感動的。ずっと時間が止まっていた人の人生が再び動き始めていく喜び。車いすのミゲルを「俺!フェイスブック始めるから写真撮ってくれ!」連れまわす所が大好き、本当バカだけど可愛いらしい。でも巻き寿司はちゃんと最後まで食えよ。

ミゲル
かつてのダニエルを思わせるいじめられっ子として登場する訳だけど、出会ったのがミヤギさんではなく落ちぶれたジョニーという所がなんとも面白い。
しかしサムとの関係の悪化により一作目のジョニーと同じ境遇になっていく流れが見事だと思う。そのまま悪い方向に行くのかと思いきや、シーズン2でもう一度優しさを取り戻しそこからド級の悲劇に見舞われる。
これもう取り返し付かないでしょ、、、と思っていたけどシーズン3で復活していく様子が丁寧で説得力があった。
やっていること自体はリハビリとして効果ある訳なくてめちゃくちゃフィクションっぽいのだけど、ジョニーが彼の人生の先生としてこの先ずっと付き合っていく覚悟が切実に胸に迫るので、観ていて感動しっぱなしだった。

シーズン1の空手大会の時のロビーと全く逆の立場になっている状況でどういう対決になるのかシーズン4が楽しみ。

ダニエル

シーズン1の第一話は完全にジョニー目線なので前シリーズの主人公とは思えない感じの悪さで笑った。

でもミヤギさんの教えを守り地道に頑張って今の良い暮らしが出来る様になったのかと考えると、「ベスト・キッド」の一作目で母親と二人で引っ越してきたばかりの時を思い出してジーンとするし、彼は彼でジョニーに触発され、日々の生活に埋もれていた空手を再び始め、かつてミヤギさんが父から受け継いだ空手をダニエルに教えたように、次の世代にまた伝えていく描写に感動してしまう。

一作目では少し貧しい事でジョニーやアリと格差を感じさせる描写が多かったけど、現在は地元でも圧倒的な勝ち組になっていて娘が一作目のアリと同じ高嶺の花になっていたりする。
だからシーズン3でようやくかつての自分の境遇に近いミゲルとちゃんと話をする所が味わい深くて今後の彼との関係性の変化がどうなるのか期待。

ロビー

ミヤギさんは亡くなった自分の息子の分もダニエルを大事に思っているのが構図が感動的だったけど、ジョニーの場合は実の息子であるロビーと向き合う事から逃げ続けた後、ミゲルをもう一人の息子代わり空手を教えているのでミゲルとの絆を深める度に観ているこちらからすると「ロビーもいるんやで!」とチラチラと脳裏をかすめる。

ジョニーからすれば尊敬できる父親像が知らないことで自分も父親としてロビーと向き合えず結局同じ様な想いをさせてしまう構図が切ない。シーズン1ではそんなジョニーの父親代わりにダニエルが師匠として登場し、かつてのライバルの息子を鍛えてチャンピオンに導く展開が「クリード」みたいでかなり熱い。
あとダニエルがミヤギさんに教えてもらったけど出来なかった片手逆立ちキックを決めてミゲルを追い込む展開は泣いた。こういう師匠の想像をも超えてその先を見せる!みたいなシーンに僕はめちゃくちゃ弱い。

そんな感じでジョニーは駄目でもダニエルに心を開いて彼の人生が良い方向に向かうのかと思ったらシーズン2の悲劇の後によりによってクリーズの方に行ってしまう展開は本当辛い。なんとか幸せになってくれと願わずにいられない。

演じてるタナー・ブキャナン、めちゃくちゃ華があって素晴らしい。純粋さとそれ故の危うさを体現していて、今後デイン・デハーンみたいな幸薄い系イケメン俳優として活躍してほしいな。

サム

ダニエルに空手を習っている期間が一番長いし、ミヤギさんとも面識あるっぽい、実は次世代「カラテキッド」の素質が一番高いのは彼女なんじゃないかと思う。

女性が普通に男性と対等に殴り合うシーンが結構あるのだけど、それがさほど違和感なく出来るのは「ベスト・キッド4」のヒラリー・スワンクの存在があるのかなぁと思った。今後登場するならサムとの絡みが見たい所。

正直彼女の恋愛描写に関して若いとはいえ少し気持ちの切り替え早すぎるのは気になった。いくらなんでも今どきの青春モノのヒロイン像としてあまりに「恋多き美少女」という記号性を感じる。まあその辺はダニエルも突っ込んでいたけど。個人的にはミゲルとロビーの対立関係を盛り上げる為の役割という印象が強すぎる印象。
次のシーズンはもうちょっと次世代「カラテ・キッド」の素質に相応しい見せ場をもっと作って欲しい。

しかしめっちゃエミリア・クラークに似ているなぁと思っていたら普通に「デナーリス」って呼ばれた所で笑った。やっぱみんな思っていたのか。

ホーク

ジョニーの若い時の雰囲気に一番近いのは彼だと思う。
小さい頃からずっといじめられていたからこそ、力を持っていじめる側にまわった時に同じようになってしまう感じは「許された子どもたち」とかを思い出す。

こちらも少し気になったのが、クリーズのやり方に少しずつ迷いが生じだしてきているのは分かるのだけど、正直シーズン3のラストでの心変わりは性急に感じた。まあでもシーズン4で落ち着いていられるのか分からないしまだなんとも言えないのかな。


そんな感じで人物描写に関して雑に感じる所もあったけど、こういう目線で再び命を注ぎ込む正当な続編シリーズってあんまり思い浮かばないし、それでいて製作陣が「ベストキッド」シリーズが好きだ!という愛情がビンビン伝わってくる。
個人的には「クリード」が生涯ベスト級に好きなので同時代的な兄弟作である今作を推さない訳にはいかない!面白かった!次のシーズンも楽しみ!

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