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ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語の感想(ネタバレあり)

自粛期間も終わったのでようやく新作映画を映画館で観たけど、やっぱり家で旧作を観るのとは違うなぁと思った。

テレビだと一時停止出来るし、スマホ鳴ったら目がいっちゃうし、なんだかんだかなり緊張感が薄い状態で観ているのでなかなか没入出来なかったのだけど、スクリーンにだけ約二時間集中して、初めて観る映画から、作り手の意図や、役者さんの演技、撮影の美しさ、映画内で鳴る音や音楽の繊細さ、等々を自分なりに必死に拾い上げようと脳を動かしていく感覚がすごく気持ちよかった。

イオンシネマ京都桂川で鑑賞。

新作の大作映画が他にないので、かなり大きいスクリーンでこういう恋愛や家族愛を描いたドラマ映画が観られるのはレアな気がする。

イオンモール自体はめちゃくちゃ混んでいて、車が多く駐車場もなかなか進まないし、入店したら服屋とか家電量販店とかは普段より人が多かった。
夏のボーナス時期でもあるし自粛期間の鬱憤を発散しようと、とにかく人が集まっていた印象。僕も久しぶりに物欲を発散させたくて軽く夏物の服とか買ってしまった。

それに対してイオンシネマのロビーはめちゃくちゃ人が少なくてビックリ。まだファミリー向けの映画とかはやっていないのでしょうがないのかもしれないな、、、。

若草物語は原作も読んだことないし映画版も観たことない、そしてグレタ・ガーウィグ監督作品も初めてのかなりの丸腰状態で鑑賞したけど、お話も役者さんの演技も撮影も音楽も全部めちゃくちゃ素晴らしくて、久しぶりの映画館での鑑賞の高揚感も重なりずっとチビチビ泣きながら観てしまった。

原作が持つ普遍的な感動と、今も結局変わらない女性である事の息苦しさを誰にも共感できる今の「小さな物語」としてアップデートした監督の手腕が凄まじい。

今作を鑑賞後、家で「レディ・バード」を観てみたけどそちらも素晴らしかった。
「ストーリー・オブ・マイライフ」は古典的な名作の何度目かの映画化だし、製作費も全然違うので「名画」という感じがするのはするのだけど、基本的にやっている事は「レディ・バード」とあんまり変わらない気がした。
一人の女性の家族との関係と自立を巡る話、面倒くさいけど家族がいる事の愛おしさ。

あと前作もそうだったけど根っからの悪人みたいなキャラクターは全然登場しないのも世界の描き方として嘘っぽくなくて好き。どんな人も完全な善人でも悪人でもない普通の人として描いている。時代は違うけど、どのキャラクターも僕たちの生活と地続きに繋がっている感じがして観ていて安心する。

四姉妹それぞれのキャラクターも素晴らしかった。
ジョー。
シアーシャ・ローナン。
ムスッと不満を抱えている顔が印象的。
「レディ・バード」は監督自身の半自伝的な話だったので、ほとんどグレタ・ガーウィグの分身みたいな印象。実際女優としてのグレタ・ガーウィグの雰囲気にとても良く似ている。

今回の若草物語の劇中のジョーも原作者ルイーザ・メイ・オルコットとほぼイコールで彼女の半自伝的な「若草物語」という本を出版するに至る作者としての目線で物語を語っている。

だから今回のジョーに対し「レディ・バード」を作った自分と「若草物語」を書いたルイーザ・メイ・オルコットの心情を重ねて撮影しているのがとても素晴らしい構造だと思った。

どんなに時代が変わってもルイーザ・メイ・オルコットの様に「私の小さな物語」を誰かが共感してくれる瞬間を信じて表現し続けるという監督自身の決意を感じた。
だから映画のラストに製本されていく自分の物語を微笑みながら見つめるジョーの表情で涙が止まらなかった。

エイミー。
フローレンス・ピュー
こちらもムスッと不満を抱えている顔が得意な俳優さん。というかジョーと一番資質が近いのも彼女だからこその絶妙なキャスティング。
ジョーの小説燃やした所とか完全にアウトだと思ったけど、翌日速攻バチ当たってテンポ良いのでさほど引きずらないし、演じてるフローレンス・ピューの愛嬌もありどのシーンでも全然嫌いになれなかった。

ジョーと同じく彼女にも画家になる夢があるが、自分を押し殺しながらも結婚をして家族を支える道を探す、奔放に見えて一番家族を支える為に犠牲になろうとしているのが切ない。
今作では家族の元へ再び戻ってくる事で彼女らしさを取り戻せて良かったけど、家族を呪いとして描いてもう完全にあっち側に行っちゃう「ミッドサマー」は今回の役と裏表な気もする。(、、、やっぱ考えすぎだな。)
中盤ローリーに自分の才能を、メリル・ストリープから言われていた言葉を発することで納得させ様と静かに藻掻いている様な表情のアップに胸が詰まって、確かにアカデミー賞助演女優賞ノミネートも分かる名演だった。

メグ。
エマ・ワトソン
僕は何といっても自粛期間中ずっとハリーポッターシリーズを観ていた男なので、本人は真面目なのに家柄でコンプレックス持っている感じとかは、ハーマイオニーと重なって切ない気持ちで観てしまった。

エマ・ストーンの代役で決まった訳だけど最早このバランスのメグしか考えられないので結果的に良かったんじゃないかなぁという気がする。
この四姉妹の中では圧倒的に華があるのがいい意味で浮いてる感じがした。
だからこそ質素だけど自分が正しいと思う人生の選択をする所に感動する。

ベス
エリザ・スカンレン
今回一番泣いたのは彼女のエピソードで、ローレンス氏との関係性が本当に切ない。彼女が彼の家に行ってピアノを弾くとき部屋の外で座り込んでいるシーンが本当に好き。
彼女の死が近くなってきて、看病しているジョーが悲しさから昔の良い思い出のシーンが挟み込まれてくる構成が切なくて凄く上手い。
浜辺での多幸感があるシーンから、現在の二人っきりで浜辺に座っているシーンへの切り替わり方も素晴らしかったし、彼女の死が分かる所が、その少し前にあった彼女が病気から回復したシーンと重なる様な見せ方になっているのにも胸が締め付けられる。

ローリー
ティモシー・シャラメ
素材のままのイケメン役ももちろんいいけど、感じの悪いイケメンを演じさせたら今世界で一番最高な俳優さんじゃないだろうか。
「レディ・バード」の心無い雰囲気イケメン役も良かった。(まあ、あちらはあくまで彼女側から見た彼しか描かれないので本当はもっと人間的な感情があったとは思う。がん治療中の父親との関係性とかなんとなく心に引っかかりになる要素の入れ方がグレタ・ガーウィグは上手い。)

今回も似たような役ではあるのだけどより人間的な弱さが印象に残る役。
とても陽気で飄々といたからこそ、ジョーに振られるシーンの全力で空振りして打ちのめされた姿に心配になるのだけど、最後は誰かの為に自分の場所に戻っていく所で感動してしまう。誰の人生にも光を描く優しい話だ。

ローラ・ダーン
「レディ・バード」では主人公と母親との関係がメインの話だったけど、今回も主人公ジョーが追い込まれた時に背中を押されるのは彼女とのやりとり。
ローラ・ダーンのこういう優しい母親役で悪いわけがないので、さすがの安心感。アカデミー賞の助演女優賞はこの役も含んで選ばれた感じがするな。

全体の構成は個人的にこないだ観た「リンドグレーン」とかなり親和性がある話だと思った。
ルイーザ・メイ・オルコットを偉大な女性作家としての人生を描くのではなく、一人の普通の女性だからこそ誰にも共感出来る物語を書けるというアプローチで描いた作品。
だからこそ現代の僕の様な男が観ても普遍的に胸に響く映画になっているのは凄い事だと思う。

そんな感じでコロナ自粛開けに相応しい作品だった。
恥ずかしながら今更グレタ・ガーウィグ監督作品の魅力に気づいたので今後も追いかけていくぞ。

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