ファーストマンの感想(ネタバレあり)
MOVIX京都で鑑賞。
誕生日クーポン使用で安く観れた。クーポン使って観ても、次観る時のクーポンが出るし値段的には現状京都のシネコンだとMOVIX京都が一番かな。
デイミアン・チャゼル作品はセッションとラ・ラ・ランドを鑑賞してる。
全編に流れる緊張感や、周りから見ると一見理解し辛い人でなしの厳しさで語られるアポロ計画への視点、主人公が何かに取り憑かれ人間性を失っていく感じとか、結構セッションの手触りに近い気がした。
ワガママに向けられる作り手の優しい視線
冒頭の娘とのシーンでライアン・ゴズリングの話しかけ方や背中を摩る動作とかだけで娘に対しての愛情を表現してるのが見事で思い返すと涙ぐんじゃう位良かった。
そこが素晴らしかったので、ラストまで彼が娘を失った悲しみを全然乗り越えられてない気がして観てる間ずっと切なく、本人も意識的なのか無意識的なのか分からないけど、月の世界へ行く事こそがその止まった時間を動かす為の通過儀礼の様にも思えた。
ある意味映画を観てるこちらは彼の個人的なワガママに付き合わされる様な感じもするんだけど、それが家族や友人には正確に分かってもらえないまま彼の中でだけケリがついてく終わり方がとても好き。
間違ってても他人と共有出来なくても、個人の中の輝きみたいなものを見つめる監督の視線に泣けた。
あと宇宙に魅了されて主人公が死生観を見つめ直す展開とか、僕の好きな宇宙漫画のプラネテスとかとも通じるテーマかなと思った。
貧しい黒人の視線から皮肉を込めて歌われる曲とか、今の感覚で考えても明らかにアポロ計画が異常である事をちゃんと折り込み済みで、一国の大きなワガママと彼個人のワガママが映画の推進力になっていくのが改めて凄いデミアン・チャゼルっぽい話だと思った。
月面着陸に成功してあの有名な名言の所でそんなに盛り上げ過ぎないのも、あえて歴史的偉業の映画化になるのを避けている。
なので、その後引き出しにしまってたあれを手放すシーンにこそカタルシスを持ってきていたのは、油断していただけにめちゃくちゃ泣かされた。
デイミアン・チャゼル映画は相変わらずラスト付近の油断は禁物。
登場人物の生身感
あと今回実録映画だからなのか、主人公以外の登場人物も生身の人間として誠実に語ろうとしてるのも良かった。デミアン・チャゼル作品の少し苦手な要素として、主人公以外の登場人物の描かれ方が軽薄に感じる事が多かったので。
常に目がワナワナしてる奥さん役のクレア・フォイの佇まい。フワフワと宇宙の事ばかり考えている主人公に対して彼女の方は今いる家族と幸せになる事や、たとえ夫が死ぬ事になっても子供達に何か言葉を残して欲しいと願ってて、時間が止まった主人公と対称的にちゃんと今を生きてる人。
だからラストの再会シーンは主人公の心も彼女の元に戻ってきたという意味も含んでる気がして、ここも泣けた。このシーンのクレア・フォイのいろんな感情が混ざり合ったなんとも言えない顔がすごく良かった。
あとジェイソン・クラークが演じていたエド・ホワイトも素晴らしかった。最初の面接シーンからだんだんとニールと心を通わせる描写が丁寧で、やっとニールがエドにトラウマである娘の話をボソッとして心を開いたと思った後に起こる悲劇のタイミングがかなりキツい。(ここの事故で亡くなる描写の素っ気なさ、あのオーブンを外から撮ってるだけの様なカメラワークの暴力性が怖すぎる、、、)
近作の宇宙開発モノの傑作「ドリーム」みたいな誰もがストレートに楽しめるアプローチの作品ではないし、ほとんどのシーンであまり感情移入出来ない人が主役の変な視点の映画だとは思うけど、「やっぱこの人の映画面白いわ、、、」と見直した一作。前作ラ・ラ・ランドが個人的にあまり好きじゃなかったので全然期待してなかったけど本当観て良かった。