よこがおの感想(ネタバレあり)
シネマクティフ神戸に参加したので、その前にシネリーブル神戸にて鑑賞。お客さんそこそこいた。
他者性についての映画
深田晃司監督最新作。他者性について今回も考えさせられる。
他の人が考えている事は分からないし、こちらが土足で「お前はこういう人間なのだろ」と型にはめる事の愚かさを突き付けてくる。
劇中のマスコミの描写とかデストピア的に過剰な感じの気もするけど、元々の問題(と思っているもの)は何なのか?がどんどんスライドしていき、結局みんなで叩く悪役を探す方向に向かっていく世間の動き方とか、完全にタイムリーな話題過ぎて全く笑えない。
そんな大きな世界に対しての他者性だけじゃなく、仲の良い友人、同僚、家族ですら、自分以外の人間の考えていることは全く分からない「他者」で誰しも孤独を抱えて生きていくしかない。
僕は深田晃司監督の作品は「淵に立つ」しか観れていないけど、こちらも共通して他者性の地獄を見せつけてくる素晴らしい傑作だった。
深田監督作品は観終わって振り返ると重いものを持って帰らされるのだけど、観ている間はずっと面白いのだから凄い。
役者さんの掛け合いも常に見応えがあるシーンしかないし、シーン単位の演出が抜群に上手い、何気ない所がめちゃくちゃ伏線になってたりしていて、観てる間ずっと油断出来ない。要はエンターテイメント映画としての完成度もめちゃくちゃ高いんだよな、、、。
一番重要だと思ったのは市子と基子の動物園での会話シーン。
彼女達のお互いの心の奥が垣間見える瞬間が何気なさの中に描かれている。
サラッと観ていても途中「うん?」となるやりとりがあるのだけど、ここは心を許した者同士の特別な対話だと思っていただけに、それが後でもっと距離の空いた他者が事実だけを知ると途端に「理解できない存在」に代わる瞬間が本当にスリリングだった。
TVを一緒に見ていた同僚の表情の変化とか一級のホラー映画くらい怖い。
また、この動物園での基子の話す内容が彼女の好意を伝える小さなサインにもなっていて後で考えると切ない。
キャスト陣
何といっても市子を演じた筒井真理子の凄まじい怪演。
段々と観ているこちらも共感できない様な存在になっていくのが苦しいのと、同時にすべてを失って最早何も恐れない強さに少し憧れも抱いてしまう。池松壮亮に対してのガンガンっぷりとか絶妙にコミカルで面白い。
一番ゾクっときたのは基子に対して和道のスマホで写真を撮って送る時の自撮りのこれ以上ない程の作り笑顔、めちゃくちゃ怖い。しかもこれを送られた基子側の反応が全くない宙ぶらりん感も気持ち悪い、、、最高。
基子を演じた市川実日子は安定の素晴らしい存在感。市子への好意を全くコントロール出来てないせいで、逆にドン底の地獄に突き落としてしまう。
常に不機嫌そうにも見えるので急にキツいこと言ってくるタイミングが毎回不意打ちで怖い。今やってる「凪のお暇」でも主人公大好きな似たような役で、よこがおの後だと必要以上に不気味に感じるよね。
和道役の池松壮亮。
こういう何考えてるか分からない美容師の役、見覚えあると思ったら、「だれかの木琴」の美容師役に近いうすら寒い雰囲気。よくわからない年上の女に付きまとわれるシチュエーションも似てる。
彼は何も分からないまま翻弄されているだけとも言えるのだけど、本当の所どれくらい相手に対して入れ込んでいるのかはっきり見えないので、どことなく不気味にも感じる。
その他、吹越満のだんだん変わっていく態度、市子と息子が最後抱き合う所で思わず立ち上がるシーンの嫌な感じや、被害者役と加害者役の若手俳優さん二人ともバッチリだったし、役者さんは全員本当素晴らしかった。
「怖い」とか「嫌な感じ」とか「不気味」とか何度も書いてしまいそうになるのだけど、言葉では説明出来ない映画的な重いものを常に撮ろうとしている深田監督の作品はただただ凄い。改めて映画館でやっていたらリアルタイムで追いかけるべき監督だと思う。