ベスト・キッド(1984年)の感想(ネタバレあり)
現在NETFLIXで配信中のドラマ「コブラ会」のネタバレもしております。
初見。Netflixで配信中のドラマ「コブラ会」が気になっていたので今作を観てからそちらも観始めた。
ロッキーやランボーとも通じるアメリカ感
監督がジョン・G・アヴィルドセンで音楽もビル・コンティという事で「ロッキー」を連想してしまう。
ミヤギさんが言う「勝負に勝つ事が重要じゃなく闘いっぷりこそが重要」という考え方もロッキーに通じる要素だ。
それに対してコブラ会の師範のクリーズはベトナム帰還兵で戦争によっておかしくなり「世界を変える力があるのは暴力的な手段のみ」という考え方の人。
クリーズ程おかしく無いけどベトナム戦争で人生が狂った人で言うと、こちらもスタローン代表キャラ「ランボー」を連想してしまう。
結局最後は暴力でしか自分を発散出来ない所とかなり通じる所もある気がした。(まあ「コブラ会」を見る限りクリーズはかなり口が上手く、今のご時世にどういう風に自分の狂った考え方を広めるか日々頭を巡らせている感じで、ランボーとは全く違う「器用さ」を持っているのがやらしいキャラだな、、、)
要はロッキー的な考え方とランボー的な考え方のぶつかり合いみたいな構図がスタローン作品と連なるこの時代の「アメリカ」を象徴しているみたいで個人的にとても面白かった。
ジョン・G・アヴィルドセン監督力
負け犬映画の部類には入るとは思うのだけど、主人公ダニエルがいかにも80年代的なずっと軽口を言っている陽気なキャラなのでハードないじめシーンはあるけど、そこまで映画全体が重い印象にならず軽やかで良かった。
でもそれでいてミヤギさんのかなり重めの過去や、さっきも書いたけどクリーズの軍人設定など、過去の「戦争」の影がチラチラ見えてくるのが、アメリカの「闇」みたいな部分もよく観ているとしっかり感じる作り。
そして主人公ダニエルとミヤギさんの絆を深めていく描写が丁寧でいちいち感動的でさすがの演出力だと思う。
特に好きなのは中盤彼女にフラれた(と思っている)ダニエルがスパゲティのソースで汚れた服で愚痴の一つでも聞いてもらおうとミヤギさんの家に向かうが、それまで完璧だと思っていたミヤギさんが実は妻と子供を亡くした悲しみをずっと抱えいる事をダニエルが知るシーン。
この時、自分の事でいっぱいだったダニエルが酔いつぶれたミヤギさんに対して心の底から敬意を示す小さなお辞儀をして家を出ていき、その後ミヤギさんとじゃなく自主的に海で鶴のポーズの蹴りの練習シーンにカットが変わっていく流れで泣いた。
全くセリフはないのに彼が他者の痛みを理解し成長したのがここだけで伝わってくる。
ロッキーでもあったけどこういう引きの画で感動させてくる演出がジョン・G・アヴィルドセンはめちゃくちゃ上手い。
そしてこの流れがあるからこそラストシーンのそこだけ見るとちょっとバカッぽく感じそうな鶴のポーズからの蹴りの勝利が凄まじく胸を打つ。
登場人物
ダニエル
母親と共に新しい街に引っ越してきたけどジョニーに目を付けられ速攻でいじめられる羽目に。
自転車が壊れた所で母親に助けを求める訳にはいかない彼が悲痛な叫びをあげ、いよいよお話が重くなってきた絶妙なタイミングでミヤギさんが登場し、彼が救われていく描写が丁寧。
いよいよ空手大会が始まり、ただでさえ緊張しているのにミヤギさんが実は空手ルール知らないとか、試合前に不安要素がぶち込まれてパニック気味になる表情が素晴らしい。観ているこちらも思わずソワソワしてしまった。ほとんど実践練習してこなかったしダニエルが本当にちゃんと闘えるのか不安になっていたので、彼が順調に勝ち続けていく所でどんどん気持ちが上がってくる。
そして決勝前ケガをした時のミヤギさんとの会話シーンが凄く好き。彼がミヤギさんに言われた「心のバランス」という言葉を使って自分自身の為にも闘いたいと訴えるシーンがとても切実で、だからこそ最初は止めていたミヤギさんもそれに答える所が熱い。あのパチンと手を叩きゴシゴシやるやつ意味分からないけど真似したい。
ミヤギさん
この映画はこの人の存在感でもう勝利。
ダニエルに毎回「さん」付けで呼ぶのが優しい。誰にでも敬意を払う事が出来る人。
ダニエルの誕生日プレゼントシーンの暖かさ。生まれる事が出来なかった自分の子供とダニエルを重ねている様で涙腺を刺激される。
そして「人生はバランスだ、ダニエルさん」と、ここで言われた言葉をダニエルがその後の人生でもずっと大事にしているのが「コブラ会」を観た時に分かってまた泣いた。
ジョニー
ラストの対決シーンでどんどんクリースの教えに迷いが生まれてくる表情の変化が切ない。「足を狙え」という指示に逆らえず敗れた事をこの先ずっと後悔し続け、数十年後の「コブラ会」に繋がっていく。
ただこの映画内ではラストの彼がトロフィーを渡すシーンがとても重要だった。
ダニエルが「勝利」ではなく「闘いっぷり」でいじめっ子である彼の心を変えたと分かる所でめちゃくちゃ感動してしまった。後の「コブラ会」がなくてもここでしっかり後腐れなく完結しているバランス。
その後ほとんど余韻がないままミヤギさんの表情にカットが変わって映画が終わる切れ味、素晴らしい。
しかしその後続編の後、数十年を経て今やっているジョニー目線の「コブラ会」へとまさか繋がっていくとは、本当幸福なシリーズだと思う。
1作目しか観ないで「コブラ会」にいってしまったけど、映画版の2〜4も観なければ。