美人が婚活してみたらの感想(ネタバレあり)
イオンシネマ京都桂川で二回鑑賞。
パンフレット売ってなくて残念。
正直自分でも何がこんなにズシンと来てるのか整理できてないんだけど、登場人物たちの事をずっと考えてしまう。
前半は美人が婚活する事で、確かに起こりそうなエピソードを軽いトーンで描いていく。ただ芸人さんの使い方がTV的なウケる笑いに振り切り過ぎな気がするし、音楽の演出も過剰で乗れない部分も多くて、最初の方はかなり不安な気持ちで観ていた。でもまあ当然というべきか大九明子がこんな感じのほのぼのコメデイで終わっていくはずもなかった、、、。
登場人物がメインの4人絞られた後半から主人公であるタカコの心の傷がどれほど深いのか、こちらも追体験していく様な地獄展開の連続でかなり具合が悪くなった。
映画としてクオリティが高いとかそういう類の映画ではないとは思う、ストーリー的には特に園木の切り方とか乱暴だと思うし、、、。ただそれすら好きになった相手との関係のブツ切り感を上手く表現してる様な気がして、この映画が足りてない訳ではない気がする。
タカコ
個人的には今年のベストガールは決まったかなと思う位最高。単純にこの役にぴったりくる美しさを違和感なく愛らしく演じきった黒川芽以さんが素晴らしい。
自分が何を求めているのか自分でもよく分からないまま動き出してしまう事でおかしくなっていく人。そもそも婚活すると言い出して、結婚相談所にでも行くのかと思いきや、マッチングアプリの婚活版(ほぼ出会い系)で相手を探し始め、しかもケイコ以外の第三者に相談する気がない時点で、もう「危ないな、、、」って予感がビンビンしてくる。
そういえば職場にもプライベートな話題を話す相手がいないみたいだ。家族にもあんまり連絡とっていない様だし、ケイコと飲みながらか、恋愛候補の男しか話し相手がいない、、、。
あと趣味とかに逃げる事が出来なそうなのも息苦しい。そういや監督前作の「勝手にふるえてろ」のヨシカは音楽も好きそうだったし、化石集めて楽しそうだったし、なんだかんだ幸せそうな一面も沢山あったなぁとタカコを見てると思えてくる。
だってこの人タバコの銘柄とか、ご飯の食べ方まで過去に付き合った男の影響で出来てんだもん。息抜きしようとやる事でいちいち昔の男思い出すとか地獄過ぎる。
だから後半「自分はただセックスの相手を求めていただけじゃないのか」と自分のやってる事に疑問を持つタイミングで、ケイコとも大喧嘩し、矢田部とは繋がれず、純粋に結婚相手として受け止めようとする園木に対しても全く踏み込む気が湧いてこない自分の空っぽさに美人な顔をぐしゃぐしゃにしながら泣きながら歩いて帰るシーンのハードさにクラクラした。なんて不自由な生き方しか出来ない人なんだ、、、。映画観終わって家帰ってからもタカコの事ばかり考えてしまう。
冒頭のポップコーンボリボリ食べながら公園にいる所、後から考えると今回の話を色々示唆していて上手いなぁと思った。
隣のおじさんの飼い犬にエサをやろうとして失敗する。「おい!人ん家の犬に何勝手に食べ物与えてんだよ!」と思わず突っ込みを入れたくなるんだけど「人のものに好かれ様とする」行為が後から考えるとかなり重く響く。そして拒絶されたのでその辺にいる有象無象な鳩に餌をやって少しご満悦な顔になったかと思うと子供に全部吹き飛ばされる。そこから「死にたい」という言葉が出てくる、、、という初っ端から意地悪な仕掛けを入れすぎでこっちが死にそうになる。
SEXでの関係性でなく、彼女の理想の恋愛関係の象徴が「ただ手を繋げる関係」で、途中矢田部に対して一瞬手を触れようとするんだけどやめて太ももに手を置いてしまうシーンとか超上手いし、ラスト歌にのせて自分の気持ちに素直に向き合っていく感じが僕はとても好きだ。自分の気持ちに気づけただけで救いだと思うし、彼女の人生は続いていくんだろうなという甘くない余韻も含めて。
ケイコ
ケイコはタカコの事を本当に心配してる様にも見えるし、どうせタカコに結婚なんて出来るわけがないとも思ってる、それと自分が選べなかった自分を託してる様にも僕は見えた、というか多分そんな色んな感情が少しずつ入った目線で彼女に付き合っている気がした。
臼田あさ美さんは本来この映画のタカコの様な美人な役のイメージの人だったので豪快さの中にズルさを抱えた役をやるのは意外だったけど、ばっちり合ってた。
あと旦那と義母が全く出てこない事で彼女の生活の辛さが彼女の目線でしか語られないのもいいと思った。実際に関係を見せるとこちらもいろいろ考えてしまうし映画における情報量の絞り方が上手い。
最後二人が白菜を漬ける所でお互いの人生を静かに称えあう所でジーンと感動する。その後タカコの事を漫画にすると話すシーンでこの不器用な人達のエピソードが物語として意味を持つことが出来るというのが最終的に彼女たちにとって救いになる感じがした。もちろん円環構造になっている感動も含めてここもすごく好き。
園木
彼女の事を気遣って(るつもりで)発する言葉がほとんどが彼女を傷つける結果になっているのが切ない。本人的にはなけなしの勇気を振り絞った告白なのにタカコは眉をひそめてしまうシーンの負け戦感、おなか痛い。やっぱり卑屈になっても何も良い事ないわなぁ。ただあそこで肉体関係持ったら彼はより不幸になっていたと思うし彼女からすればギリギリの良心でもある気がする。
あと僕は彼の目線で考えると、昨年別れた彼女の事とかを思い出してしまったな、、、未練はないけど園木の行動を見ていると「あぁあ、あれ全然分かってなかったけどアウトだったんじゃねえのか」「確かにそっちの目線から見れば気遣いになってなかったよな、、、」など、どうすれば良かったか正確には分からないことを映画を観た後ずっと思い出す地獄巡りを勝手に繰り返していた、、、
というか大体の男は矢田部みたいに器用な訳はないと思うし、園木に感情移入しやすいのを計算の上で地獄に突き落としてくるのが本当意地悪だなぁと思う。パンツ履くとか履かないとかあんなシーンで出してきて笑える訳ないじゃん!ひど過ぎる!(褒めてる)
二回目鑑賞時に彼がどんな顔で最後を迎えるか注意深く見ていたら、ショック過ぎて力なく「あ、やっぱりな、、、」って笑ってた、、、ふざけんなよ、、、(褒めてる)
園木の立場に関してはちょっとキツいので、この写真とか見て「これは映画なんだ、中身は中村倫也だから全然大丈夫だ」と言い聞かせている。
矢田部
1番腹の底を見せない男。彼目線で語られればこの映画のタカコの様なしょうもない生活感のあるシーンはあるのだろうけど、女性の前でのいい格好な顔しか見られない。
しかし誘っておいて部屋着みたいな格好で呑んでる所とか、凄まじい余裕感があって惚れ惚れする。あとLINEの返信で「オッケー」でなんでも軽く返せる感じが、こなれた雰囲気がビンビン伝わってきて「タカコ!こいつは駄目だぞ!」って思わず言いたくなる。
ただ田中圭さんは俺の中で永遠に「おひさま」のハルキ兄さんのイメージなのでどんな役やっててもピュアな感じで、こんな役でも出ている間嫌な雰囲気が全然しないんだよな。
大九明子はヤバい
その他、細かい演出だけど大九監督は動物の使い方が上手いなと思った。映画の出だしで「これなんの音?」と思ったら犬が高い声で鳩を威嚇してるシーンでなんともいえない間抜けな雰囲気を出してて良いし、あとタカコが婚活始めるって言いだす直前にほろ酔いで「死にたい!死にたい!」って叫ぶシーンで絶妙なタイミングでミャー!って猫が鳴いて横切っていく所とかここもなんとなくロクなことにならない感じがして笑っちゃう。
それと色と音の演出も相変わらず見事。出てくる水色や青色の色彩と水中に潜っていく様な水音。タカコが抱えている息苦しさを象徴してる様で後半の地獄の展開を際立たせていた。
そんな感じで「勝手にふるえてろ」に続き、というかそれ以上に胸をかきむしられる映画になっていて、やっぱ大九明子はヤバいと改めて思った。次回作はもうちょっとソフトでもいいです。
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