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許された子どもたちの感想(ネタバレあり)

出町座で監督の舞台挨拶付きで鑑賞、そして自粛明け初の出町座。
1つ席を開けた状態だけど満席。

ミスミソウで舞台挨拶に来られていた時も観に来たけど、相変わらずこんな地獄の様な映画を撮っているとは思えない穏やかな雰囲気の監督さん。

内藤瑛亮監督最新作。
前作のミスミソウがとても好きだったので今回も楽しみにしていたけど、また雰囲気が全然違うヘヴィな作品に仕上がっていて、こちらもこちらで大傑作だと思う。

加害者側の家族の目線の映画になっているので観ていて終始居心地が悪いし、同時に被害者家族が傷つく様子も痛い程突き付けてくる。

映画を観ているこちらはあくまで彼が殺したことを知っているので、加害者側の大人達の見当違いな対応で、どんどんおかしな事態になっていくのがもどかしい。
結局子供達がやっていないという事を信じる事しか出来ていないので、彼らに罪を償うチャンスを与えられない。

少年犯罪で加害者を罪に問えない、という話はニュースとかでよく聞く話ではあるのだけど、この映画では今の国のシステムでは、こういう問題が起こっていますよ、と物語を通して批評的に説明してくれる。

例えば最初の刑事と二人きりで絆星を問い詰めていくシーン。
観ているこちらも、どちらかというと罪から逃げようとしている絆星に対して憎い気持ちがあるだけに刑事側に感情移入してしまうのだけど、二人きりで脅しのように彼を追い詰めた結果、後の少年審判で自白の効力を失ってしまう。

唯一正直に善意を見せていた緑夢に対して「あなただけが輪を乱すとみんな困るんだよね」と大人が脅してくるくだり、これがそのまま「いじめ」の構図と同じなのが絶望感が深かった。

少年審判のシーンでは明らかに加害者側が優位な形で進んでいき、殺害行為はもちろん、彼らがいじめていた事実自体がなかった事になってしまう。

被害者家族側からすれば、あまりにも残酷過ぎて、観ていてかなり気分が悪くなった。
LINEのやりとりや防犯カメラの映像なども全く役に立たないのが口あんぐりだし、このシステムが「本当はなにがあって息子は亡くなったのか知りたい」という想いに全く答える様に出来ていないのが吐きそうになる。

こういうエピソードが全部現実の少年犯罪を参考にしているというのがキツイ。
物語の中だけという逃げ場がないので観た人は全員重いモノを持って帰らないといけない。
本編が終わってエンドロールをサラーっと見ていたら参考文献項目があまりに多くて、現実の地続きな重みがのしかかってくる感じがした。

少年審判で罪を償うチャンスを失った事で絆星にとっても地獄が始まる事になる。
世間からのバッシングがどんどん酷くなっていくのが怖い。
ネットの書き込みとかは演出として結構単純化してる印象もするけど、「悪い事をしたのに罰を受けないなんておかしいから、酷い目にあって欲しい」とか、僕自身思う事はあるし、やっぱりバッシングしている側とも共感してしまう部分もあるので観ていて居心地が悪い。

あと撮影が素晴らしかった。常に画面がどんより暗くてまとわりつく様な雰囲気が作品にピッタリハマっていた。
ドローンによる俯瞰で人を見下ろす様なカットも不穏。

いかにも地方都市って感じのロケーションの数々も良い。汚い川辺とか海の近くの廃れた町の水辺近くの湿度高めな嫌な感じとかたまらないものがある。
ああいう雰囲気のカラオケ店最近見ないな、、、

絆星
演じている上村侑さんの存在感に圧倒される。
冒頭のふてぶてしい面構えからして、もう何の前知識がなくても「彼が主人公でしょ」と一瞬で分かるくらい華がある。少し前の柳楽優弥を彷彿とさせる雰囲気。
特に印象に残ったのは予告にも使われているけど殺人を犯した後、刑事が家に来てからの取り調べシーン。
高圧的な態度の刑事に対して下から睨み上げる様な表情が凄まじくて、ここから彼の魅力に完全に引き込まれた。

冒頭かつて彼が激しいいじめの被害者であったシーンから始まるのだけど、パンフレットの解説を読んだらいじめられる側にいたからこそ、その後いじめる側にまわる事はよくある事らしい。
いじめる側に立って弱い自分を強い自分で塗り替える事が彼にとってのセラピー的な行為になっている。

だから彼が樹に矢を放つシーンのやりとりがより後から苦しく切なく響いてきた。
緑夢をかばう様に彼の前に樹が間に入るのだけど、かつていじめられていた絆星からすれば、一番弱いと思っていた樹がそれを出来るのはショックだったのではないかという気がする。
樹をかつての弱い自分に見立てていじめる事で精神の安定の図っていたのに、樹が他人を庇える強さを持っていた事に対しての精神の揺らぎみたいなものが繊細に演出されていた。

ラストは冒頭と対になる様に、今度は彼がケガをした母親を抱きしめる構図になっているのが面白い。母親との依存関係がひどくなっている気もするけど、彼なりの成長もしっかりあったんだと思う。なんとも割り切れないけど良いシーン。

母。
少年審判のシーンでの被害者家族の手紙を憮然とした顔で聞くシーンが怖くなる。本当に息子の無実を信じて疑わない感じがにじみ出ていた。

時々入る息子との絆を深める為に入るカラオケのシーンが味わい深い。
「家族」である事を確かめる儀式的な印象がした。だからここであんまり集中してない父親はこの「家族」の「信者」として脱落していった感じがした。

途中の金銭的な余裕がなくなり、本の出版をする事でバッシングの火に油を注ぐ様な形になり、最終的によく分からないユーチューバーみたいな奴に大怪我を負わされ命の危険が迫る所まで追い込まれていくのもキツい。

桃子。
絆星が初めて母親以外で心を開く女性。
しかし彼にとっての簡単な女神的な存在に落とし込まないのが良いと思った。

中盤のいじめについて考える道徳かなんかの授業で彼女の存在を置いといて、いじめについての考えを生徒達がそれぞれ話し合っているシーンは本当にゾッとした。

ここの撮り方がドキュメント的なのが観ているこちらに対して「フィクションだから」と逃がしてくれない効果があって本当に苦しい。
程度の差はあるけど、学校や会社でこういう場面は遭遇した事が誰にでもあると思うし、僕は色んな事を思い出してしまった。というかこのシーンを「僕には関係ないな」って流して観れる人なんていないんじゃないだろか。

被害者家族

まず被害者である樹君の面構えがすごく良い。心の奥が見えにくい無表情が印象的。絆星の前に亡霊の様に現れる度、この無表情がすごく良い味を出していた。

ラスト付近、絆星家族に対してのバッシングも酷かったけど被害者家族へのバッシングもかなりキツイのに愕然としてしまう。被害者なのに加害者だけじゃなく、世間からも敵視される状況があまりに悲惨。

絆星が謝りに来た時に決して土下座させない所で、謝る事で楽にさせたりはしてくれない。どちら側にとっても救いにならないのがとても厳しい。

今回の感想はいつもに増して「感じがした」「気がした」みたいな表現が多いなぁと、自分で読んでみて思ったけど、完全には登場人物には共感させてくれないというのがこの作品の魅力でもあると思うのでしょうがない。
全然分かった気にさせてくれないし、重いモノを持って帰らされ、考え続けるしかない、というのが内藤監督の真摯さだと思うので僕は全く嫌いになれない傑作だと思った。

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