「AIR/エア」の感想(ネタバレあり)
ベン・アフレック監督最新作。
NBAとかにさほど詳しくない僕でも知っている「エア・ジョーダン」の誕生秘話を描いた作品。
いかにナイキのバスケットのバッシュ部門がパッとしなかったのか映画が始まってすぐ分かる語り口がめちゃくちゃ上手いし、そこから崖っぷちの中で光明を見つけ動き出していく様子を軽快にコミカルに描きながら、ラストはその伝説の偉大さにしっかり感動させられる傑作だった。
博打打ちの物語
主人公ソニー、マット・デイモンが演じていて実話モノの大企業の一発逆転映画というと、「フォードvsフェラーリ」とかを連想するのだけど、あちらの様に上と下との板挟み的な役割に苦悩する感じじゃなく、今作ではずっとやりたい放題してる側の人。
冒頭の彼が分かりやすく博打打ちである事を示すカジノの描写から、この後マイケル・ジョーダンに賭けることが如何に大博打なのかを予感させる。
その博打打ちの熱によって周りを巻き込み時代を変えたポップアイコンとしてエア・ジョーダンが誕生していく様子が熱い。
とはいえやはり崖っぷちの人達の背負っているものもちゃんと描写出来ていて特にソニーの上司であるロブの誕生日のシーンや娘とのエピソード等が味わい深い。
一歩間違えば彼や同僚達の博打打ちじゃない人々の人生も狂わす事になった中でソニーがやろうとしている事の綺麗事だけではない部分も描けている気がした。
キング牧師からスピーチの原稿を貰った友人が話す「途中でスピーチの内容を変えた」というエピソードが、そのまま重なる様なラストの彼のスピーチシーンが凄く感動的だった。
キング牧師と同じ位世界を変える偉業だったと作り手が宣言してるみたいだ。
ここでのマイケル・ジョーダンの人生の光と影を同時に語りながら、その偉大さをこの上なくリスペクトしている映像の入れ込み方がとても感動的で思わず泣いてしまった。
ベンアフの困り顔
映画を観てるこちらはもちろん「エア・ジョーダン」がバスケのバッシュという枠も超えて伝説的なポップアイコンになっていくのを分かっているからこそ味わい深く感じる様な見せ方になっているのが巧みだと思う。
ベン・アフレック演じるフィルが大体何に対しても反対する役割の人なんだけど、観てるこちらはこの後大成功する事が分かってるからこそ安心して観れるのでいちいち彼の反応がコミカルにも見えるバランスなのが良い。
交渉中にバッシュの色の違約金を会社持ちで払う事を知った時の表情とか最高で相変わらずベンアフの顔が困れば困るほど映画は面白くなっていく。
でもそんな彼だからこそラストにこれまでで一番ハードルが高いマイケル・ジョーダンとの売り上げの一部を献上する契約の所ですんなりオッケーを出す所がめちゃくちゃグッとくる。
彼自身がこの仕事がいかに意味があるのかに納得し、腹をくくってソニーの背中を押してあげてる感じが、実際のベン・アフレックとマット・デイモンとの関係とも重なって味わい深い。
ヴィオラ・デイヴィスの女帝感
基本的におじさんばかりが出てくる映画の中で女帝の様にどっしり構えるヴィオラ・デイヴィスが凄い存在感だった。
マイケル・ジョーダンが自ら母親役に推薦していたと言ってたけど、それも納得の華がある。
エアジョーダンの売り上げの一部をマイケル・ジョーダン本人に入る様に要求する所での彼女の仏の様な穏やかな表情が凄まじい。
一歩間違えたら、ただお金にがめつい人に見えかねない事を言っているのだけど、それが買う人にとっての希望にもなるというのを彼女の口調や表情だけで見事に説得力を持たせているのがかなり凄い。
あとこの映画はコミカルな会話劇の要素もめちゃくちゃ笑えて、特にキャラが濃すぎる代理人の罵倒シーンとか最高。
登場シーンは「この人は悪役的な立ち位置なのかな?」と観ていたら、その口の悪さに愛嬌を感じる様になっていくバランス感覚でこういう会話劇の演出の巧さはさすがベン・アフレックだなぁと思った。