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ぼくを探しにの感想(ネタバレあり)

下書きに置いたまま、めちゃくちゃ時間経ってしまってたけど、リニューアルオープンした京都みなみ会館で鑑賞。とても綺麗な劇場になっていて感動した。

他のオープニング作品に比べるとお客さんは少ないのかなぁという印象。同日に観た恐怖の報酬はめちゃくちゃ入ってた。

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2013年公開の作品で、鑑賞直後はそうでもなかったのだけど、観終わってしばらくしてからめちゃくちゃ好きになってきて、もう一回行こうと思ったら、公開がもう終わって観れなかった映画。

リニューアルのスペシャルラインナップでこういう映画を拾ってくれるみなみ会館、流石。

時間が止まっていた人がもう一度動き出すまでを描いたお話で、主人公ポールは2歳の時に目の前で両親を亡くし、そのショックでしゃべれなくなってしまったが、あまりに幼くて本人はその記憶すら残っていない。前に進もうにも乗り越えるべきトラウマが何かすら分かっていないので30歳を過ぎても心は子供のまま。

育ての叔母二人も良かれとは思ってのことだけど、彼を過剰に守っているせいで操り人形の様に自分の人生の目的を考えることも出来ない感じ。

そんな彼がちょっとしたきっかけで出会った同じアパートに住むマダム・プルーストという女性のハーブティーを使った記憶療法で少しずつ自分が何者かを見つけていく。

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監督はシルバン・ショメ、僕は観れてないがイリュージョニストなど主にアニメに関わってきた作家さんなのだけど、とにかく鬼の様に演出が上手い。

まず主人公が最初にマダムプルーストの家に迷い込むシーンから素敵。
盲目のピアノの調律師のおじさんが手すりの棒に杖を当てながら鳴らしていると、一つだけ違う音がして、、、そこから段階を踏んで少しずつマダムの家に吸い込まれていく。ここだけで何というか寓話的で可愛いらしくて絶対いい映画だともう分かる。

途中記憶旅行で入るミュージカルシーンも全部素晴らしくて、彼の明確な記憶というより音楽を通してその時、彼に向けられた誰かからの想いを掬いとる様なシーンになっていてどのシーンもとても優しい。

父親は主人公のポールと同じ俳優さんが演じている。父親がポールの男性性の象徴にもなっていて情報がない父親が何者かを知ることで、ポールは男になり、そして父になっていく。

途中の父親が母親に暴力を振るっていると知る場面で自分のルーツを知る事の辛さを味わってしまうが、それはミスリードで両親の死の真相こそが彼の最大のトラウマだと後で分かる構成が上手い。

自分の両親を殺したのはピアノだったと気づいてしまい、目線だけで叔母達にも伝わっていくシーンの重さ、胸が締め付けられる。

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それでもラストのお墓にウクレレを返しに行く所で、木から落ちてきた雨粒がメロディを奏でだして何のセリフも無いのに「あなたの人生を生きて」という言葉がパッと蘇る所の優しい演出に泣く。
亡くなったプルーストの人生を肯定し、もう一度違う形で彼が音楽を愛する人生を歩みだし、最初と対になるシーンで映画が終わっていく。言葉にならない位素晴らしい。

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これまで孤独に生きてきたポールとプルーストのやりとりがとても愛おしい。彼からすれば疑似的な母親の様な想いがあるし、彼女からすれば少し話に出た弟とポールを重ねているのかもしれない。
ポールからすると叔母2人に関係を裂かれた事も知らないし、彼女との最後は手紙のやり取りだけなのが切ない。それ故にお墓の前での彼女からの言葉を使わないメッセージが胸に響く。

叔母2人も凄く良くて、かなり傲慢で嫌な人間だとは思うんだけど、凄まじい愛嬌で2人とも演じられていて憎めない存在感。
これまでの家系の考え方に囚われた彼女達にとって、音楽で生きる以外の幸せは無かった訳だから両親を殺した凶器でもピアノをさせる他、彼を幸せに育てるという選択肢は無かったのだと思う。
ラストの主人公の自分なりの音楽の向き合い方を見つける展開は彼女達の人生もある意味否定しない感じがして泣ける。

他にも小さな役柄の人たちにもドラマを感じる描き方をしている。僕は特に好きなのはあのアパートの管理人の男性。老いた母を介護してるシーンがサラッと入ったり、プルーストが亡くなった後、部屋を改装してる時の「困った人だった」と言いながら少し寂しそうな表情も浮かべている辺りにどことなく人柄の良さを感じてしまう。

そんな感じでキャラクターがそれぞれ駄目な所と愛らしい所を同居した人ばかりで、ただの甘ったるい感動作になっていないのがとても好き。シルバン・ショメ監督しばらく日本での公開作品ないけどもっと観たい。イリュージョニストも観なければ。

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