ウェンディ&ルーシーの感想(ネタバレあり)
初めてのケリー・ライカート
名前だけ知ってた「ケリー・ライカート」の初期監督作品がU-NEXTで独占配信されているのを映画友達からオススメ頂き今回「オールドジョイ」と今作「ウェンディ&ルーシー」を鑑賞。
その時のアメリカの片隅で生きている人々に優し過ぎず、かといって突き放し過ぎないバランスで寄り添う様な視線の作風が好きになった。
あとアメリカのあまり裕福じゃない人たちの営みがとてもリアルな空気感で、世界中の誰でも共感できそうな普遍的などんよりさ。
それぞれの登場人物が自分の暮らしで精一杯で、他者にかまう余裕がない感じなのがしんどいけど、それでも優しい人はいるし、絶望だけじゃない。
決してカタルシスがある映画ではないけど、僕らの生活の地続きな登場人物の人生を生々しくも愛おしく感じる作品だった。
それとちょっとドキュメンタリー的なタッチとか、冒頭からのヒッピー的な人達との交流シーンとかもそうだし、今観るとクロエ・ジャオの「ノマドランド」と共通する要素を強く感じる。
ウェンディ
ただノマドランドと違い、主人公ウェンディにはしっかりと目的地があるし、その道中を楽しむための心の余裕もなさそう。
何より映画全体を覆う街や人々の停滞感が終始強くて、「ノマドランド」の広大な自然を写した画の強さから感じる爽やかさはこの映画にはなかった。
でも重苦しさの中から彼女が決断して生きていくラストが僕はとても好きだ。
最初の方の車は壊れ、ドッグフードを買うお金もない彼女がルーシーに対して言う「分かってる、分かってる」というセリフが本当は現状を認めようとせず何も分かっていないのを逆に表しているみたいで後から振り返ると切ない。残念ながら「餌を買うお金がないのに犬を飼うべきじゃない」という万引きを発見したバイトの彼が言う事は正論で、彼女が最終的にその言葉の通りにするしかないのが観ていてとても辛かった。
最後の柵を挟んでのやりとりでの「分かってる」がとても重い。
全てを失ってもそれでも電車が動いていき、ルーシーと過ごした象徴みたいなハミングを口ずさんで映画が終わっていくのが、僕は「前向き」とまでは言えないけど、彼女の人生が前進している感じがしてすごく好きだった。
演じたミシェル・ウィリアムズがこの時から既に華があって、常に不満を抱えている様な目つきが最高。ケリー・ライカート監督最新作でも主演やるらしいのでそちらも早く観たい。
生々しい存在感の他者
彼女以外の登場の登場人物の実在感も素晴らしい。みんなそこで痛みを抱えて生きているとしか思えない。
駐車係のおじさんの大きな手助けはしてあげらないけど、側で見守ってくれるのが嘘臭くない良い人という感じで、観ていてとても安心感がある。
最後の連れの女性のなんとも言えない感も最高。
車屋のおじさんのぶっきらぼうさの中にある、職人として信用出来る逞しさも良かった。
途中のウェンディの寝込みにやってくるおじさんとか凄い怖い描写であるのと同時に、生きる場所がない悲しみが伝わってくる様で切なかった。
正しさをおしつける様な悪役になりそうなウェンディの万引きを止めたアルバイト青年だって、店の裏から出てくる服装や佇まいとか見ると普通の大学生っぽくてとても人間臭い。
そしてもちろん「オールドジョイ」から引き続き名ワンコ役のルーシーもとても愛らしくて最高。
ラストシーンの別れのシーンの目つきとか素晴らしくて本当名演だった。
枝を咥えて尻尾フリフリな冒頭シーンからウェンディにとってかけがえのない時間なのが分かる。
ここのシーンとラストシーンで印象的にハミングが流れるのだけど、彼女がこの先もハミングを口ずさむ度にルーシーの思い出と共に生きていくのを示唆しているみたいでとても切ない気持ちになった。