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ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドの感想(ネタバレあり)

イオンシネマ京都桂川で2回鑑賞。
どちらもかなり混んでいた。学生さんなどあんまり若いお客さんは居なかった。
「映画館での映画って久しぶり」って話してる人が居たので、普段映画は観ないけどタランティーノの作品だからとりあえず来たみたいな人が多いのかも知れない。

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個人的にはタランティーノ映画で1番好きだったのはリアルタイムの劇場で初めて観れた「ジャンゴ繋がれざる者」。今回の題材にも通じるけど胸糞の悪い歴史に対して映画で出来る痛快な救いを、という部分でタランティーノ作品の中で1番カタルシスを感じた作品なので。

今作もそういう意味でラストにカタルシスはあるけど、観てる間ずっとハラハラするような映画ではなく、どちらかといえばのんびりした日常描写が多い。ただその日常描写にこそタランティーノの映画愛が詰まっていて全編愛おしくて、今までとはまた違う味わいの大傑作になっていた。

もちろん8月9日の悲劇へ向けて進んでいくからこそ、彼らの日常の多幸感が切なくもある。
でもラスト、映画愛に狂っているタランティーノにしか出来ないやり方で「映画は絶対に負けない」と表明してる様で後追いで泣いてしまう。(ラスト周辺観てる間は笑うしかないので)

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ディカプリオ演じるリック・ダルトン。
最初アル・パチーノから自分の現状を言葉にされメソメソ泣くシーンからもう好き。
悲しい事実を初めて打ち明けられるとかじゃなく、薄々自分でも気づいていた自分の現状をあえて口に出された事に、ショックを受けているのが情けないし愛らしい。

もちろんここは観客に彼がどういう俳優なのか説明しているシーンでもあるんだけど、彼の駄目だけど憎めない人柄の紹介にもなっている。

中盤のヒッピー風の悪役をやる所、嫌々ながらもいざやり始めると真っ直ぐに頑張る人ではあるので一生懸命なのだけど前日に飲み過ぎた酒でセリフを忘れる失態。
ここから「俺のアホ!このアル中!次やったら脳天ぶっ飛ばす!」と自分への責め方が容赦無いのに、途中で無意識に酒飲んでるのが駄目すぎて爆笑。本当人間臭い。

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そして気持ちを切り替えて挑んだ次の撮影の時の演技の迫力が素人目から観ても段違いに素晴らしくて、やっぱ俳優さんって凄い。
あとこのシーンは完全にディカプリオとリック・ダルトンが同一化して観えるのが面白くて、最後の「俺はリック・ダルトン様だ」と涙ながらに呟く所で、こういう瞬間があるからこの人(そして演じるディカプリオ)は、俳優を辞められないんだろうなぁと思えてきて、観てるこちらも涙が出てきた。
だって僕もこういう素晴らしい瞬間が詰まってるから映画を観るのをやめられないもん。

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ブラピ演じるクリフ・ブース。戦争も経験していて、特に怖いものない人。こないだ「運び屋」でイーストウッドが「俺は戦争知ってるし、お前らなんて怖くねぇ」ってシーンがあったけどクリフもそんな感じのドッシリした佇まい。

予告観た時点ではディカプリオから無茶振りされて危ない事ばっかやらされるスタントマンの役なのかなぁと思ってたけど、本編を観たらむしろ真逆。
スタントマンという肩書きすら危うく、ほぼリックのお手伝いさん化している。

冷遇されて可哀想だなぁとか、思ってたらあんまり仕事貰えない理由がブルース・リーと、どつき合いして追い出されたという割と普通に駄目な人。

しかし自分のそういう状況を決して憐れんでなくて、自分を曲げる位なら仕事ないのも「まあ、しょうがない」って感じ。
個人的には生涯ベスト1音楽映画の「インサイド・ルーウィン・デイヴィス」のルーウィンとかに近い駄目感。そしてルーウィンと同じ様に日の目を見ず夢の中に埋もれていった人。僕はどうしてもこういうキャラクターが出てくると無条件で好きになってしまう。タランティーノもそういう表舞台に立てず居なくなっていった人の象徴として敬意を示す様にクリフを描いている感じがする。
ただ演じているのがブラピなので超色っぽくてズルイ。
あんなカッコいいアンテナ修理、人生で初めて観た。

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でもこのクリフの最大の見せ場は何といってもスパーン牧場でのシークエンス。今までの多幸感に満ちた日常から、僕らの知っている悲劇の現実に引き戻されて、とても恐ろしくなる。

ダコタ・ファニング演じるスクィーキーとの網戸越しの会話シーンの緊張感から、外で並んでこちらを見ている若者達、家の中に入ってからのハエの音、罠にかかって動けないネズミの鳴き声など不穏な演出のオンパレード。

そしてその後のブルース・ダーンとブラッド・ピット名演技合戦から、安心したと思わせてからの牧場を出るまでの一悶着。

こちらもこちらで幸せな日常描写とは違う、映画的な多幸感&緊張感に溢れていて本当最高。タランティーノありがとう!って心の中で叫んだ。

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そんな感じで性格的にはクリフとリックは真逆なのだけど、だからこそ2人で補い合えるいいパートナーって感じで彼等のやり取りをずっと観ていたくなる。

リックに関しては「忘れるなよ、お前はリック・ダルトン様だ」など、クリフが言った言葉に無意識的に助けられていたりする。
だからラスト救急車に乗せられる直前にリックに「俺は足を引きずっても生きていける」的なセリフをクリフが言うのだけど、リックが読んでいた本の腰を駄目にした馬乗りの主人公とも重なってジンワリ感動するし、ここでのリックの表情がクリフに救われている事に自覚的になった様な気がした。
だからここでのリックからの「いい友達だ」ってセリフが最初と全然違う響き方がしてかなり泣けた。

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マーゴット・ロビー演じるシャロン・テートもとても愛らしくて最高。

映画観た誰もが言ってるけど、中盤彼女が映画館で自分の映画を観るシーンの何層にも重なった感動が本当凄まじい。スクリーンに映し出される本物のシャロン・テートを観ている劇中の人物達の多幸感と、今このシーンを劇場で観ている僕たちが完全に繋がる素晴らしいシーンだった。

またここで彼女が劇中のブルース・リーと練習しているシーンが差し込まれるのが彼女が一人の俳優として確かにそこにいた、という事を強調している様で切なくなる。

「サイレンサー第4弾/破壊部隊」のシーンの切り取り方も彼女の魅力が伝わる様に選ばれている気がして、タランティーノが素晴らしいモノは素晴らしいんだと表明しているみたい。

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ただとっても凄い事をしている映画なのに偉ぶった印象ばかりが目を引かないのがタランティーノの素晴らしい所だと思う。しょうもなくコミカルなシーンもふんだんに盛り込まれている。

2回劇場で観てどっちの回も爆笑が起こっていたのはブルース・リーがクリフにぶっ飛ばされて車が凹む所。そんなに凹む?って位凹んでいるのが最高。

あと2回観るとフワーっと笑わせてくる様なディティールに溢れているのが分かるので2回目の鑑賞は本当オススメ。冒頭のクリフがセロリ食べてる所から僕はニヤニヤが止まらなかった。

あとザ・タランティーノ的な爆笑ポイントとしてはやっぱラストの襲撃シーン。

ここでの襲撃者に対して間抜けな悪役としてしか描かない感じも好き。相変わらず「クソ野郎共は映画の中で位スッキリ死んでくれ」というタランティーノの姿勢が出ている。まあそれにしてもバイオレンス。

まずターゲット変更されるきっかけになるリックの「私道から出ていきやがれ!」のまくし立てがひどい。ミキサーに入った酒を持ったまま出てきてさんざん怒鳴った後にチビリと飲んでるのが半年たっても安定のアル中具合。

その後、敵が乗り込んでからのクリフと犬とのバディ感が最高だし(あのブラピのチッチッて合図ずっと練習しちゃう)、不確定要素で入ってきた奥さん(イーライ・ロスの嫁)がいちいち反応良くて笑う。
クリフの女性に対する壁ドン攻撃も容赦無くて笑ったし、逃げたと思ってたらノソノソと火炎放射器を物置きから持ってくるリックの仕草で爆笑。

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その他、ちょっとだけ出てくる豪華キャストの演出も相変わらずの素晴らしさで楽しいし、家の中にある細かい時代性を感じる小道具使いも素敵だし好きな所しかない映画。

イングロリアス・バスターズやジャンゴみたいに分かりやすく面白い展開が沢山ある映画じゃないけど、彼がこれまで撮ったどの作品よりも映画愛に満ちたとっても素晴らしい作品。観返せば観返すほど、思い返せば思い返すほど、どんどん好きになっていく宝箱の様な映画だった。

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