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幸せへのまわり道の感想(ネタバレあり)

イオンシネマ京都桂川で鑑賞。
その前に観た「事故物件」に、かなりガッカリしてしまい「これじゃ折角の休日が台無しになってしまう!」と思っていたら、いい感じのトム・ハンクスのポスターの作品があり、何の映画なのかも分からずに観たけど本当逃さなくて良かった。

フレッド・ロジャースという人の存在も知らなかったし、もちろん「ミスター・ロジャースのご近所さん」という番組の存在も全く分からない丸腰状態で観たので、オープニングから「これはどういうフィクションラインの話なのだろうか?」とかなり面食らったのだけど、観ていく内に映画の構造がだんだん分かってきて、どんどん引き込まれていった。
フレッド・ロジャースという人に対するリスペクトと、今の時世だから改めて響く彼のメッセージ性にとても感動してしまう傑作だと思う。

フレッド・ロジャースという人

実際のフレッド・ロジャースの事を知りたいのに、パンフレットが販売していなくて困っていたけど、アマゾンプライムビデオで観れる「ミスター・ロジャースのご近所さんになろう」というドキュメンタリー映画がフレッド・ロジャースの功績を知るうえでとても参考になったし、映画の中の彼のエピソードがほとんど事実なのには驚いた。
こちらのドキュメンタリーは当然生身の人間としてのフレッド・ロジャースを描いているので、より彼の苦悩みたいなものも印象に残る映画だった。今作でも奥さんが言っていた「彼は完璧な人間ではない、努力してこういう人間になった」という言葉がより胸に残る。

ドキュメンタリーを観てから観るとオープニングからして「ミスター・ロジャースのご近所さん」のワンエピソードとして語ろうとしているのが分かる。
だけど初見でも音楽が流れ始めてトム・ハンクスが歌いだした瞬間に、全く見た事が無いのに懐かしくて泣きそうな感覚になるから不思議。
もちろんドキュメンタリーを観て予習した状態で二回目の鑑賞をしたら、再現度の高さにめちゃくちゃ愛情を感じて泣いてしまう。

途中、編集部から工場まで雑誌が出来るまでの経緯を説明するビデオもまんま教育テレビ的でビックリしたけど、それがあるから終盤で彼の書いたインタビュー記事が色んな所に届けられていく様子にジンワリ感動する。

ただラストは「ミスター・ロジャースのご近所さん」として終わっていくのではなくセットを出た後、彼が一人でピアノを弾いて終わっていくのが味わい深い。
ここで彼が重荷を感じた時にする低音を叩く動作がちゃんと入っていて、人間的な痛みを持った普通の人としての一面を見せて映画が終わっていくのが僕は凄く好きだ。

演出力の高さ

演出も素晴らしくて、セリフじゃない視線のやりとりや仕草で感動させてくるのも上手い。
実際のエピソードを元にしているらしい地下鉄の中でロジャースを見つけた子供たちが「ミスター・ロジャースのご近所さん」のオープニング曲を歌いだし車両に乗っている人みんなで大合唱になる所とかも、とても自然に幸福感に満ちたシーンになっていて何回観ても泣いてしまう。

中華料理屋で「一分黙って大切な人を思い出す」シーンとかも、その場にいるお客さんが当たり前の様に一緒にやりながら店中が静まり返り、自然だけど少しファンタジー的な面白さがある良いシーン。

そして何といっても地下鉄でさり気なく話していた手話が、車の窓越しで繰り返される静かなにお互いへのリスペクトを示す最後のやりとりの素晴らしさ。

マリエル・ヘラー監督、今回が初見だったけどとても演出力が高くて、今後も追いかけたい監督になった。

登場人物

ロイド
父親に対しての怒りを抱えたままずっと生きてきた人。
どこか人に優しくなれないのは父親への不信感みたいなものが根幹にある感じ。
自分が父になったらなかなか子育てに前向きになれていないぐずぐずなシーンの積み重ねがとても丁寧で素晴らしい。おむつを捨てたりする時の顔とかあからさまに嫌そうで笑う。

ただそういう「人に対する不信感」みたいなものがライターとしての彼のエネルギーにもなっていて、そういうこれまでの彼の生き方をフレッドが否定するような事を言わない所にとても感動した。「君は壊れてなんてない、父親がいたから(いなくなったから)今の君がある」と語りかける中華料理屋のシーンが本当に優しく胸に刺さる。

父が運ばれた病院からその足で、錯乱した意識のままピッツバーグに向かい番組に出る流れになる所とか、何処までが現実なのか分からなくなる様なドラッグ描写みたいで凄く好き。
その中でフレッドがトラのぬいぐるみになって子供の気持ちになる様に、古ウサギになって本心をさらけ出し最後に母親との会話で、自分の気持ちを整理して救われていく描写でまた泣いてしまう。

フレッドとの対話の中で、不機嫌そうで気難しそうな表情が少しずつほぐれていく様子がとても良かった。

フレッド・ロジャース
実際のフレッド・ロジャースに無理に寄せていく感じじゃなくてしっかりトム・ハンクス感。
そもそもトム・ハンクス自体が普段からナイスガイな話が多いし、本人の温厚な人柄がばっちり合っていたと思う。

ただしゃべり方とかゆったりとした動き方とかで、モノマネ的じゃなく本人を彷彿とさせる瞬間があって、絶妙なバランスで演じきっていた。当たり前だけど改めてめちゃくちゃ上手い俳優。

ジェリー

人生の終わりを迎え子供と和解しようと頑張るがロイドとの溝がなかなか埋まらずがっかりしている顔が切ない。
歩み寄りの姿勢は見せつつもポロっと迂闊な事を言ってしまう辺りが結局ロイドと似た者親子に感じる。
クリス・クーパーはこないだのストーリー・オブ・マイライフでもちょっとした表情の変化でグッと感動させる貫禄が凄い。最後の寝たきり状態で息子と孫と話す所の少しだけ流す涙とかとても素晴らしかった。

ラストのトム・ハンクスとの演技合戦も眼福。
彼とフレッドの2人の父親的な存在との交流を通してロイドも父親としての覚悟を決めていくお話としての流れが美しい。

という感じで、あまり期待して無かったけどめちゃくちゃ良かった。
というかこないだのオスカーでトム・ハンクスがノミネートされたのこの作品だったんだな。それも納得。

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