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「迷子のタオちゃん目撃情報相次ぐ」ショローと子猫 その5

家出5日目、目撃情報相次ぐ

ワンちゃんのお散歩グループの方が、
「タオちゃんらしき猫がいます」
と、我が家に駆け込んできた。
「いっしょに行きます!」
「こっち、こっち、こっちです」
「あ、タオちゃんのおかぁさん、さっきまでそこにいたんだけど、今あっちに逃げました」
「こっちでーす、このポーチの下に入り込んでます。見えます?」
這いつくばって、のぞき込んだが老眼でよく見えない。

「タオちゃん、怖がらないで……」
近所の人たちとワンちゃん散歩グループ、そしてワタシ。
期せずして大捕り物となってしまった。
「あ、逃げちゃった」
周囲から湧き上がるため息~
「おかぁさん、見ました? タオちゃんでした?」
「ごめんなさい、よく見えなかったんです。ホント、すいません。みなさん、ありがとうございます」
「いいえ、いいえ、でも白黒の子猫でしたよ」
「また、注意して見て回りますね」
「ありがとうございます」
「心配ですよね。うちも猫がいるから分かります」
「ホントにありがとうございます、見かけたらいつでも電話ください」

目撃情報があったことは、大きな1歩だった。
タオちゃんが動き出した、このことである。

続いて、我が家から北西50mほどの家に住むIさんから電話があった。
「ガレージに置いたドライフードを、食べに来た白黒猫が、監視カメラに写っているので、今夜確かめてもらえますか?」
ドキドキ、Iさん宅は、大捕り物をした現場からも近い。
タオちゃん、こっち側に来てたのか?

夜、仕事からお帰りになったIさんに録画映像を見せてもらう。
そこに映っていたのは、でっぷりした白猫、お腹の肉が左右に揺れている、ぷぷぷ。
「残念ながら違うみたいです。タオはまだ1歳未満の子猫で、この子より大分小さいです」
「そうでしたか、すいません。チラシを見て、ガレージにごはんを用意しててたんです。うちにも猫がいるもんで」
優しい~、あにゃたは猫の守護天使?
こうした温かい氣配りに触れられただけで、ワタシは十分だった。

お隣さんも、お向かいさんも、道行く人もみなさんが声をかけてくれる。
「猫好きのヒトにチラシ配っておきましたよ」
「注意して見てます」
どうやらタオが、猫ネットワークを構築してくれているようだ。

タオや、薪ストーブが恋しくないか?

タオの存在感

タオの目撃情報が集まり始めたころ、和歌山・猫楠舎の内覧があった。
タオとワタシの出会いの場所。
無住になってからはや4か月、なるべく早く人の氣を通し、風をいれてやりたい。
本来なら、この家屋敷の売却に力をいれなければならない時期。
しかし、今もし「猫楠舎が売れる」のと「タオの帰還」、どちらかの選択を迫られたとしたら?
ふと、そんな問いが頭に浮かんだ。
どちらかを選べ、となったら?

タオだ!
迷いはなかった。
そうか、ワタシはタオを選ぶんだな。

こうしてジブンにとって、本当に大切なものを肚に落とし込んでいくのが今必要に思えた。
目の前にいないタオの存在が、ワタシの中で大きくなっていく。

タオの形跡

玄関デッキ下に置いたフードが空になることが増えた。
タオであってほしいが、そうじゃなくても嬉しい。
少しずつフードの場所を移動させ、デッキのコーナーに段ボールハウスを作った。
トイレハウスと湯たんぽハウスも増設した。
フードはなくなったが、トイレと寝床は使われる形跡はなかった。
寒くしていなければいいが、風邪を引いたり、怪我をしていなければ、とにかく元氣でいてくれたら、それだけでいい。

白山神社の菊理姫に祈る

毎月1日と15日は地元の白山神社において、朝8時から月次祭が開催される。
50代の初め、石川県にある白山神社の総本山に詣でた。
だが、当時のワタシには菊理姫の「中庸」の道は程遠かった。
その後、「根の国底の国」熊野において、己のバランス調整に励むことになった話は以前にも書いた通り。
さて、移住した糸島の地になんと白山神社があったのには驚いた。この巡り合わせに
「ついにワタシも中庸の道が開けるのか」
と喜び、できる限り月次祭に参加するようにしていたのだった。

タオが家を出て9日目、月次祭の2/15だった。
普段は「神仏は敬うが頼らない」がモットーだが、この際「お願い神さま仏さま」である。


縁結びの神様として有名な白山神社

菊理姫さま、お願いですからタオちゃんを家に戻してください。
足元からジンジン寒さが這い上がってくる本殿で、ワタシは一心に祈った。
ただただ、タオをイメージし続けた。
お式終了後、控室で宮司さんや総代さん、参列された皆さんに迷い猫の事情を話し、チラシを配らせてもらう。
皆さんの暖かい励ましと応援に、
「きっと大丈夫だ」という勇気が湧いてきた。

捕獲器作戦


月次祭の日から寒さが厳しくなった。
雪でも降ってきそうな凍てつく空気が空を覆っている。
こんなに寒いんだから、いい加減帰ってきたらいいのに、ホントにもぉ~。
そう思いながら、この日も、ポケットに煮干しとドライフードを入れて、ご近所をグルグルまわっていた。

ふと、放置されたままツタだらけになったビニールハウスに目が行く。
我が家の庭の先からも、猫なら容易にこのビニールハウスに入り込める。
「ここなら雨風をしのげるし、ビニールハウスだから寒くないかも。うちの様子も聞こえるし」
なぜだろう、そう直感した。

破れていても雨風は十分防げる。
写真は4月現在で、2月ごろは枯れたツタでおおわれていた。

翌朝、玄関先デッキに置いたキャットフード近くに、小さな猫の足跡を発見した。
ペタ、ペタ、ペタ、ペタ。
あの猫マークである。
この小ささ、タオに違いない。

その直後、2軒先のヒメノさんから電話が鳴った。
「おそらくタオちゃんと思われる子猫が今、うちの納屋でドライフードを食べてます」
「えっ? い、今、行きますっ!」
全速力で走るショロー。
「今、パッと逃げて、ビニールハウスに入っちゃいましたけど、たぶんタオちゃんだと思います」
やはり、ビニールハウスか!
話を聞くに、ヒメノさん、以前は10匹も猫がいたそうで、
「人の顔は覚えられないけど、猫の顔は忘れない」そう。
目撃したときの様子、ビニールハウス、我が家との距離からしてもタオに間違いない。

守護天使

「迷子チラシをもらってすぐに物置にドライフードを置くようにしたんです」
(おおー、ここにも猫好き守護天使~♬)
「地面に置くと野良猫が食べちゃうので、わざと高い場所に置いたら、毎日なくなるので、窓から観察したんです。そしたら、白黒の小さな猫が食べていたので、チラシで顔の特徴もチェックして電話しました」
「ありがとうございますっ。ホントにありがとうございます。居場所がわかっただけでも安心しました」

ワタシの頭の中で、高速エンジンが回り始めていた。
「あのですね、タオはワタシにも触らせない子なので、普通に捕まえるのは難しいと思うんです。厚かましいお願いなんですが、捕獲器を用意するので、こちらに置かせてもらってよろしいでしょうか?」
市役所で捕獲器を借りられるはず。
なければ保護団体に聞いて、それでもなければ買えばいい。

「ええ。さっきは少ししか食べないで逃げちゃったから、また来ると思いますよ」
ヒメノさんは頼もしくオーケーしてくれた。


ワタシはさっそく糸島市役所の保健衛生課に連絡をした。
「今から、取りにこられますか?」
「はい、すぐ行きます」

Googleナビをセットして、急ぎ車を走らせた。
手続きはあっけないほど簡単で、新品に近い捕獲器を借りることができた。
菊理姫さま、助けてくれるんですね~

帰り路スーパーで、捕獲器にセットする練り物などを買い込む。
長期戦になるかもしれないから、この際いろいろ買っておこう。
うまく行ったら「祝帰還パーティ」で、みんなに大盤振る舞いすればよかね。
すでにワタシのなかで「タオ帰宅イメージ」が明確化され、無性に喜びが湧き上がってきていた。

ただ、借りてきた捕獲器は新し過ぎて、これまで使ったことあるものとはまるで勝手が違った。YouTubeでセットの仕方を学ぶこと数時間。なんとか扱い方を習得し、夕方ヒメノさん宅に捕獲器一式を預ける。
「やってみます。中に入ったら連絡しますが、時間はいつでもいいですか?」
「何時でも構いません、はい。お手数でもよろしくお願いいたします」
「分かりました。やってみますね」
「あ、今夜うちではごはんを出さないでおきますから」
「はい、了解です」

続く

 


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