松林散歩とスジョン先生
絶好のお散歩日和
「ザ・ゴールデンウイーク」というお天氣となった日曜日の午後、スジョン先生ことミチヨさんとワタシ、そしてジュンさんの三人は松林に向かっていた。初登場のジュンさんは、タオ帰還に多大なご協力いただいたヒメノさんの妻で、以前から「お散歩同行希望」があったのである。
「最高のお散歩日和ですねぇ」
「ホント、ホント」
帽子姿の三人は、ワキャワキャ蛇行しながら歩いていく。皮はおばちゃんでも、中身は小学3年生(ワタシ)からせいぜい20歳前後くらい、つまり氣だけはいまだ若い。
「あ、この花きれい」
「なんだろう、グーグルカメラに聞いてみよう」
「月見草の一種でしょう」
「うわ、ホントだ、ミチヨさん、なんでもご存じですね」
松林のナマハゲ
ワタシが今回、福吉海岸の松林におふたりをお連れしたのは、
この素晴らしい景色をだれかと共有したいと思ったからだ。
松林の入り口に着いた瞬間、おふたりから
「うぁーー」
と歓声が上がった。
ね、ね?
キレイでしょう?
「スゴくきれい」
でしょ、でしょ?
まるでジブンの手柄のようにニッカリするワタシ。
「あのクジラみたいな形の岬が大入です。今日はあそこまでは行かずに雰囲氣だけつかんでいただければと思います。まず最初に砂浜を歩き、途中から松林に入るとしましょう」
「はーい」
砂浜に降り立ったミチヨさんはサンダルを脱いで、さっそく裸足になった。
これはもう条件反射ですね。
ジュンさんがスマホでパシャパシャ景色を撮っている。
「ホントにキレイ。夕べの雨で海の色が濁ってるんじゃないかと思ってたけど、透明で色もきれいですねぇ」
「今日の天氣で、ホントによかったです」
「ミチヨさん、こっちはいつも海岸とまた一味違いますよね」
「そうですね、こちら側はこんな景色なんですね」
しかし、いくらきれいでも波打ち際は直射日光が強烈だった。
「もう松林に入りましょう」
松林に入ると、またもや歓声が上がった。
「うぁー、氣持ちいい~」
「涼しいですねぇ、それにいい香り」
ミチヨさんがなにやら見つけたらしい。
「このハラン、ずっと探していたの。ここで会えるとは」
ワタシはお散歩バッグからミニスコップを取り出し、ミチヨさんのハランを掘り出す。
ミチヨさんはニコニコニコニコ。
「あ、これは天ぷらにいいのよ」
「なぬ、天ぷらですと」
色めき立つジュンさんとワタシ。
さっそくミチヨさん指導の下、天ぷら材料を探し始める。
むむ、このパターンはワカメ採り?デジャブ~♬
松林をゆったり散策、ではなく、松林の中、目線は地面を這い、「なにかないが~?」とナマハゲ状態となる。
そんななかでもミチヨさんだけはなぜか優雅さを保つ。
なんでだ?
「あ、コレ、持って帰ります」
一等目ざといミチヨさん、
「はい、掘ります」
伯爵夫人に仕える下男のごときワタシ。
松林の上からは氣の早いセミの声、ミーンミーン。
「こちらから海を眺めるのも素敵ですよね」
「ホント、ホント」
松の木の合間から見える碧い海が日の光でキラキラと眩しい。
ミチヨさんは腰をかがめて、またなにやら見つけたらしい。
このお方のサーチ光線は、浜辺のみにあらずなのだった。
「さて、そろそろ引き返しましょうか。海辺は暑いから、帰りは松林を抜けて行きましょう」
ついに明るみに出るスジョン先生の正体
スタート地点に戻り、その後用事のあるジュンさんと分かれたミチヨさんとワタシは、いつもの海岸を歩いて行った。
なぜなら、ミチヨさん宅にお邪魔することになったからだ。
前日ミチヨさんから送られてきたLINE写真がヤバかった。
やっぱりスジョン先生はアーティストだったのね、それにしてもこの精巧さと美しさはただ事じゃない。
そこで、厚かましくも
「実物を見せてくださいませんか?」
とお願いしたところ、あっさり「いいですよ」となったのだ。
「さぁ、どうぞ。コレが明日納品するものです」
見せられたのは、竹かごに入った夫婦スズムシである。
「おおー、おおー」
感嘆符しか出ない。
目の前に出現したアートを言い表すボキャブラリーがない。
「会った瞬間からアーティストだと思ってました。やっぱり、やっぱり~」
ニッコリ微笑んで、珈琲を入れてくださるスジョン先生。
本拠地は熊本県で、糸島の住まいはおひとりで創作をするためのものだそう。
かっこよすぎです。
あのタコガイが照明になっていた
室内には浜辺の宝ものがセンス良く並んでいる。
「うわ、コレ、先日拾ったタコのゆりかごですよね?」
「そう、大きいのから小さいのまでいろいろね」
スジョン先生の室内は見るモノすべてが、うわー、うわーと言うしかないモノばかりだった。
いつもフェミニンなお洋服と室内がマッチしている。
「ベランダからの眺めも氣に入ってるの」
初めて伺ったのに、妙に居心地がいい椅子。
「これは?」
「これは?」
アーテイストの世界を覗くショロー、好奇心全開となってしまった。
にこやかに説明してくださるミチヨさんは、やっぱりスジョン先生だ。
スジョン先生、知れば知るほど興味が湧いてくる。
あの日、ワタシが「わぁー、裸足ですねぇ」と声をかけなかったら、この展開はなかったのだ。
よし、よくやったジブン。
スジョン先生宅からの帰り道、ニッカリ笑って己を褒めるショローであった。
(続く)