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福吉海岸:スジョン先生に學ぶ海辺の宝物 糸島ショローの今日もお散歩日和

海辺を歩く裸足の婦人

昨日の夕方、福吉海岸を歩いていると、白い衣類をまとった婦人が現れた。
誰もいない海が慣れっこになっていたワタシは、迷わずその婦人のほうに近づいて行き、声をかけた。
「こんにちは~風が強いですね」
「こんにちは」
静かにニッコリ微笑んだその人は、なんと裸足だった。
「わ、裸足、寒くないですか?」
「ええ」
と言いながらその人は波打ち際に進み、寄せる波に足を入れた。
(おおーっ)
「冷たくないですよ」
とはいえ、「じゃ、ワタシも」という氣にはなれなかった。
「裸足だと氣持ちいいし、歩いているうちに乾いちゃうから大丈夫」
とイェ・スジョン似(韓国のベテラン女優)の婦人が言う。
手にはアイパッドとなにか植物が入ったビニール袋を持っておられる。
波打ち際を歩きながら、ぽつぽつと会話を続けた。
「お近くですか?」
「ええ、あそこ」
「ワタシは半年前に糸島に引っ越してきて、駅の南側に住んでます」
「あら、そうですか、私はここに家を持ってもう十数年になるかしら」
「いいとこですねぇ。山もあって、海がきれいで」
シルバーグレイの髪に木綿の白いワンピース、スジョン似の面差し。
ワタシとしてはこの人物に興味津々であったが、突然話しかけられたほうは迷惑だったかもしれない。
「いつもひとりで歩いていたので、思わず話しかけてしまい、お邪魔しました」
と言って、その人から離れた。

美しい福吉海岸

ワカメを拾う


ワタシの行く手に、いつも腰かける流木があった。
そこに座って海を見ていると、婦人がやってきて、
「あそこにあるワカメ、私はひとりだから少しだけ取りましたけど」
と言って、手にしたビニール袋を広げて見せてくれた。中には少量の海藻が。
「これ、食べられるんですか?」
「もちろん、今の時期だけ浜辺に流れ着くんですよ」
ときどき見かけていたけれど、拾って食べようとは考えなかった。
「今日は、流れ着いてるのが多いですよ」
そう言われると、拾ってみたくなる。
「持ち帰ってみようかしら」
浜辺のワカメを物色しだしたワタシの横にスジョン先生。
「拾ったら砂を海水で洗ってから」
「はい」
拾う氣になって見ると、漂着ワカメは山ほどあった。

持ち帰ったワカメ


根っこの部分は強靭なゴムのようで、細かなフリル状になっている。半ば乾いて黒く変色しているのもあるが、波近くのものは茶色である。
「海に落ちているものはタダですから」
「そうですねぇ。コレってすごいことですねぇ」

そういや、今朝カットワカメを使い果たしたばかりだった。
「干して乾燥させたら保存できますかね?」
「できるんじゃないかしら」
ワタシは5株ほどのワカメを拾って、いつも持ち歩くビニール袋に入れた。
ワクワク。

浜辺の宝物

「これ、知ってます?」
スジョン先生の手に、白いプラスチックのようなものがあった。
「いいえ、なんですか? 貝?」
「これ、タコの乗り物なんですよ、私は『タコのゆりかご』って勝手に呼んでますけど」
「ええーっ、コレにタコが?」
「この辺だけに流れ着くんですよ。いくつか持ってますけど、今日拾えるとは思わなかったわ」
スジョン先生は微笑んだ。

アオイガイ、別名タコガイともいうらしい

「そうそう、ハマボウフウをご存じ?」
「いいえ、植物ですか?」
「そう、よく刺身のつまに使われるんですよ。あ、これこれ」
数分歩いた先の砂地に、その植物が地味めの花を咲かせていた。

刺身のつまと言われても、正直ピンとこなかったが、どうも高級な刺身用らしい。
たしかに、この新芽を刺身に添えたら引き立つであろう。
スジョン先生、ハマボウフウの保存法にも言及されている。
高級な刺身を召し上がる方なんだわ。

茎が紫色のハマボウフウ

ついで、近くで咲いていたハマエンドウを見たワタシが、
「ハマエンドウ、かわいいですよね。うちの庭で咲いてくれないかしら」
とつぶやくや、
「砂地で咲く花ですから、どこでも咲きますよ。私もほら、1つ抜いてきたところ」
スジョン先生のビニール袋に入っていたのはハマエンドウなのだった。
「それじゃ、ワタシも」
お散歩バッグからミニスコップを取り出し、ハマエンドウを引き抜きにかかるワタシ。ニコニコと見守ってくれるスジョン先生。

「あの黄色の花は? ツキミソウみたいなヤツ」
「ツキミソウです」
「ツキミソウかと思ったら、やっぱりツキミソウなんですね」
「ツキミソウの花を摘んでお茶を作るんですよ」
「ええー、お茶ですか? でもこんなにたくさん花が咲いていたら、お茶でもなんでも作れますね」
「そう、この海は宝の宝庫ですよ」
そうなのだ、ただし、ワタシごときは案内してくれる人がいて初めて分かるというもの。

「砂浜を歩くのはいいトレーニングです」
「ホントですね、インナーマッスルに効く。いつも歩かれる?」
「ええ、何往復もします」
「ワタシがここに来るときは4時から5時くらいの時間帯です。ぜひ、またお目にかかりたいです」
「ええ、ではまた」
そう言った直後、スジョン先生の姿は視界から消えた。
え?え?
必死に目で追ったけれど、分からなかった。
裸足のまま、スジョン先生はどこに?
名前も住所も知らないまま別れてしまったが、また必ず会えるような氣がする。

ワカメを仕込む

帰宅後、まずワカメを流水で洗った。
洗っても洗っても汚れが出る。ヌルヌルのぬめり感もスゴイ。
次にたっぷりのお湯を入れた大鍋でぐつぐつ煮る。
台所中、海の香りでいっぱいになる。
茶色から緑色に変わったワカメをザルに上げ、水けを切る。
ステンレスの洗濯干しに吊るして、デッキに干してみた。

拾ったワカメ


うまくいけば、乾燥ワカメができる。
少なくとも冷凍保存は可能。
単純に水でもどして、味噌汁や酢の物にもできそうだ。
茎部分は佃煮にすればいいかも。
海からの贈り物を活用する暮らし、いいんじゃないでしょうか。
海辺のスジョン先生との再会が楽しみになってきた。
続く









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