ヤムヤム2021年 第2話
ちぃちぃとわこ
翌日、わーは居ても立っても居られずに、石垣の上からこっそり金網小屋を見張っていた。
昨日のおっちゃん猫の他にもう1匹の猫が見えた。
いったい、ここには何匹、猫がおるんや?
わーは、近くにがあのおばちゃんがいないのを確かめてから、金網に駆け寄って行った。
「こんちは~」
「おりょ、君か、昨日の逃げ足は速かったね」
「ほやかて、あのおばちゃんがなにゆうてるんか分からんかったんよ」
「そうね、まだ人語がいまいち分からないよね。うんと、なんりさん、君がどこかの家の猫かって」
(ふーん、あのおばちゃん、「なんりさん」ゆうんか……)
「わー、家とかない」
「じゃ野良なの?」
おっちゃんのとなりにいた長毛の雌猫が目をキランとさせて、わーを見た。
「わーは野良なんやろか、よう分からん」
「決まった家がない猫を、ニンゲンは野良って云うのよ」
「なんで、アンタまで野良ゆうん?」
「んま、生意氣な子ね」
そう言うと、長毛はんは家の中に入ってしもうた。
「今しゃべったのは『わこ』っていって、君よりずーんと年上だよ」
ホンマに? そんな年食ってるように見えへんけど。
かぁやんより若いかと思うたわ。
「なぁ、ここって、おっちゃんちなん?」
「あのねぇ、ボクのこと、おっちゃんって呼ぶのやめてくれない? ボクは『ちぃちぃ』っていう名前があるんだからさ。それとここは『ネコの森のネコクス舎』っていうんだ」
「へぇ、おっちゃん、ちぃちぃってゆうんか。へぇー」
「おりゃもう呼び捨てなの。参ったなぁ」
「いいやん。ところで、このうち、どう?」
「どう?ってなにが?」
「うんーと、食べ物とか?」
「たいていドライとウエットの合い盛りで朝夕の2回、ときどき新鮮な刺身。カツオのナマリヤ焼きアジのときもあるね」
「ちょい待ち、朝晩2回って、毎日?」
「もちろん毎日」
(うぞ、うぞ、そんな~、ジュルールー)
「どしたの? 急に固まって」
(毎日2回って、すごくないか?)
「……あっ、そうか、外は食べるの大変だもんね。ボクも昔野良だったから分かるよ~」
ちぃちぃがなにを言おうと、わーにはもうどうでもよかった。
今思うと、このとき、わーは「この家に入る!」と決めたんかもしれん。
カメラを構えたおばちゃん
『あ、昨日の子猫、やっぱり来てる、ふふふ。
あれ、でもよその猫を見ると、すぐに「カァーッ」って威嚇するちぃちぃが珍しいね。相手が子猫だから?
なんか、ちぃちぃとしゃべってるよ。ふーん、どれどれ、こっそり写真撮っちゃお』
いつの間にかガラス戸の向こうに、カメラを構えたおばちゃんがいた。
ちぃちぃが「なんりさん」ゆうてたヒトや。
ガラス戸があるし、ここならすぐ逃げられるから、捕まることないやろ。
わーはカメラを構えているなんりさんをすこーし観察してみよ、と思うた。
続く