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ヤムヤム2021年 第4話


石ベッドから、おはようさん

「おはよう、おはよう、オハヨーさん、今日もきたきた、朝がきたーー」
わーが朝の挨拶をしとったら、母屋からおばちゃんがやってきた。

『はい、はい、おはようさん。朝っぱらから大声でビックリするわ。おっきな声だねぇ』
 わーを見て、なんかゆうとるおばちゃんは怒ってるようには見えんかった。

『しっかし、チビちゃん、君はすっごく長―く鳴くんだね。うわーんうわーんって、消防車のサイレンみたい。それも、おっきい声でさ』

水琴窟らしき石柱

石の上のわーと、おばちゃんの顔は同じ高さやった。
ガラス戸越しに見るおばちゃんの顔、なんか面白くてたまらんちゅう感じやわ。
夕べ、その石の中で寝たの? ふーん、そうなんだ。夕べは満月で明るかったでしょ?』
おばちゃんは声に出さずに、わーに話しかけてきた。

「あんな、おばちゃん、おばちゃんてホントは怖いヒト?」
『ん? んにゃ、猫にはまぁ優しいと思うよ』
およっ、およっ、にゃんと……。
わーのゆうてること、おばちゃんに通じてる?

『夕べここは寒くなかった?』
およよっ~、およよよ~。
わーかて、おばちゃんがゆうてることが分かるやん。
なんで?
んにゃ、「なんでか」はこの際、どうでもええわ。

『おうちのヒト、心配しない? それともホントの野良?』

わーがおばちゃんの質問に「答えよ」思うたその前に、 
『とにかく、朝からサイレンみたいに鳴くのは止めてね。ワタシは平氣でもご近所さんが『なにごと?』と思うじゃない? わかった?』
と言うと、おばちゃんはいなくなった。

朝ごはん


それから数分後、家の中からワキャワキャした空氣が漏れてきた。
フガフガ、フンガ、クンクン、スーハ―、なんともゆえんいい匂いや。
じゅわじゅわっと、喉元からよだれが湧き上がって来る。

『玖磨ちゃん、ごはん、ここに置くよ~。
ちぃさん、トーマたん、ちゃんと1皿ずつあるんだから横取りしないのね。
わこ、どこにいるの? 早く来ないと、トーマに食べられちゃうよ。
玖磨ちゃん、夕べはよくお水飲んだ。はい、新鮮なお水、どうぞ。
これっ、トーマ、ウエットだけ食べて、ヒトのを横取りしちゃダメでしょ。
わっこー、ほら、早く食べて。トーマに食べられちゃう。んもう、ヤキモキするぅ。
あら、ちぃさんはもういいの? 後でお腹空いても知らないよ』


日当たりのよい廊下


おばちゃんがわーをチラッと見た。
あ、見てるの、見られた……。
『あぁたにも、ごはん出そうかと実は悩んでる。もう少しだけ時間ちょうだい』

腹ペコやけど仕方ない。
かぁやんから「ヒトからごはん貰ったら家の中に閉じ込められてしまうから氣ぃつけぇや」と教わっていたんや。

ほんでも、ヒトんちの猫は、こんな風にごはん食べるんかぁ。
食べ物、探さんでええんかぁ、ええなぁ、ええなぁ。
わーが食べたの、いつやったやろか?
漁協に転がっていた魚食べてから、まともに食べてぇへん。
ええなぁ、ええなぁ。

みんなはごはんが終わると、廊下で毛繕いを始めた。
ちぃちぃはわーと目が合った途端、ちょっと目を逸らした。
氣ぃ遣わんでええのにな。

テントの中の玖磨じぃちゃんは、ごはんが済んでも、ボーっとしたままやった。
ボケとるんか?
あれが普通なんか?
ほんでも、なぁんも心配せんでごはんがでるのは、ええなぁ。
それにしても、腹へったわ~。

母屋にて


みんながいるのが「離れ」で、その南側には「母屋」があった。
母屋の北から東にかけては、ぐるりと濡れ縁があって、そこに点々と猫の足跡が付いとる。
わー以外の猫もここに来てるんやな。
角の柱からは、強烈なスプレー臭がした。
コイツとケンカをしたら、かなりヤバそうな匂いや。
なるべくここで鉢合わせせんよう注意せにゃあかんわ。

そんなことを考えながら濡れ縁を歩いとったら、ガラス戸の向こうの猫とばっちし目ぇが合った。
おりゃ、母屋にも猫がおったんか。
わーとちぃちぃと同じ茶白、ほんでもこの猫は薄い色の茶白やね。
茶白同士、仲ようしよ。

その猫がノッシノッシと、わーがいるほうに寄ってきた。
ノッシノッシ、ガニ股歩き、おっさんかい?
顔と歩き方が、おうてないんちゃう?

母屋をのぞき込む


「ちょっと、そこのアンタ、うちで何してるのよ!」
「そないに怒らんでもええやん。ちょっと覗いただけやんか」
「なんなのよ、アンタは!」
ねぇさん、いきりたっとるけど、上の牙が1本欠けとるし~。
本人真剣なだけに、なんか笑けるわ~。

夏子のヒミツ


「なんなのよ、アンタ」
およ、さっきとおんなじことゆうとるぞ。
「なんなのよ、アンタ」
「わーは覗いただけ、ゆうたやんか、さっき」
「なんなのよ、アンタ」
およ? ひょっとしてこのねぇさん、耳が聞こえないんか?

『なっちゃん、いきり立って、どしたの?』
怒りんぼ茶白の後ろに、おばちゃんがやってきた。

母屋の夏子に威嚇される



『あぁ、チビがこっちにも回って来たのね。なっちゃん、耳が聞こえなくてよかったわ。このチビ、サイレン級の鳴き声で超うるさいの。今朝も、頼むから鳴かないでと頼んだとこなのよ』

ふーん、やっぱり、このねぇさん、耳が聞こえへんのやな。
ほやから、怒りっぽいんやろか?

ほいでも、なんでこの猫だけ、みんなといっしょにおらん?

『チビちゃん、見てまわるのは構わないけど、母屋の夏子さんに失礼のないようにしてくださいね』
「おばちゃん、なんでこの猫だけ、こっちなん?」
『お、するどいね。なっちゃんはね、プライベートキャットって言って、猫が嫌いな猫なのよ』
「へっ? 猫が嫌いな猫? ジブンも猫なのに?」
『そ、人嫌いのニンゲンとおんなじ。っても、チビちゃんにはまだ分かんないか。うんとねぇ、なっちゃんはジブンが猫とは思ってないような節もある。だから、他の猫は異性体に見えてるかも。実は前まで、離れでみんなといっしょだったんだけど、耳が聞こえなくなってからは、なるべくストレスかけないように、ひとりだけ母屋で暮らしてるってわけよ』
ふーん、そうなんか……。
玖磨じぃちゃんは目が見えんで、夏子ねぇさんは耳が聞こえんのやな。
ほいでも、めっちゃ元氣そうやん。

「夏子ねぇはん、わー、ときどき来るから、わーのこと、覚えといてよぉ」
「なんなのよ、アンタ」
「同じ茶白やんか、仲良くしよや」
「なんなのよ、アンタ」
こりゃ、アカンわ。

(続く)

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