「命名タオ」ショローと子猫 その2
「タオ」と命名
糸島への引っ越しが決まったタイミングで、突如現れた白黒の子猫。
なんとか家の中に入れたものの触らせてくれない。
はたして、こんな状態で糸島に連れて行くことはできるのか?
1年先輩のヤムヤムや、昔からいるおじぃにゃん、おばぁにゃん猫と「ワッキャー」と遊んでいる子猫を横目で見ながら考える。
「うちの子」になったことを自覚させるべきだよな。
家族の一員なのだ、と。
だからいっしょに糸島に行くのだ~、となってほしい。
正式な名前を考えよ。
これまで「ちび」とか「しろくろ」とか、テキトーに呼んでいたけど。
もうちゃんとした家猫なんだから。
そのうち、動物病院に行ったら名前を書くんだから。
チャップリン髭のチャプちゃん?
カエル脚のケロちゃん?
性別もまだ分からない白黒猫、うむむ~。
白黒→陰陽→老子→タオ
なぜか、このとき、ピピピと線が一直線につながった。
「タオ」、いいんじゃない?
思えば、そもそもワタシが熊野に来たのは己の陰陽バランスを整えるためだったのだ。33歳でキャットシッターを始めたころは「イケイケどんどん」でもよかったが、40代になると、ワタシの陽の氣が強く出過ぎることがスタッフやクライアントとの人間関係をぎくしゃくさせているのではないかと考えるようになった。日本神話や老子などを勉強しだしたのも、そのころである。
中庸をめざして、イザナミとイザナギの仲直りさせた菊理姫を祀る白山神社総本山に行ってみたりもした。(糸島でふたたび菊理姫と出会うことになるとは……)
しかし、中庸には到達できそうにないと知る。ならば、中庸の前に、陰の氣を自分のなかに増やしてみるのはどうだろう? と考えていた矢先、猫つながりの知人が、
「ボク、この前熊野三山に行ってきたんだけど、あそこ、南里さん、絶対氣に入ると思うよ」
と言ったのだ。
熊野を調べたら、「根の国底の国」とある。
陰を學ぶならここだ!
そう直感すると、時間を見つけては熊野地方を旅するようになった。そんななかで、那智勝浦町浦神の築200年の古民家と出会ったのである。
陰陽のバランスを求めて熊野にたどり着いて11年、糸島に移住するタイミングで白黒陰陽模様の子猫が登場。こじつけにしても、出来過ぎな話である。
ともあれ、その日から子猫はタオになった。
引っ越し前夜
引っ越しの移動手段もさんざん考えた結果、愛車「きっちぃ」(ホンダfit)に6匹の猫を乗せて、運転していくことにした。その距離870キロ。
ひとりで運転していくのは少々不安だったので、大阪からヤスモトさん(元バーテンダー、現在狩猟と農業習得中のアラ50)が同乗してくれることとなった。大阪に無事にたどり着ければ、あとはなんとかなるだろう。長距離運転に関しては、同乗者が決まった段階でほとんど心配がなくなった。なぜ、そうなったかはいまだに不明。
紀伊半島の南端から大阪を経由で、山陽道を抜け、九州に上陸して、福岡市の西に位置する糸島へ。Googleナビだと、13時間ちょっとの行程だった。
ハッキリ言って未体験ゾーンだが、やるしかない。
それより、なにより、最大の課題はタオを車に積み込めるか?
コレである。
1週間前から、きっちぃの後部座席を倒し、組み立て式ケージを置いてみたり、ハードタイプのキャリーケースの配置を確かめたり、あれやこれや。
慣れてもらうために、部屋にキャリーケースを置いたりもした。
荷造りした段ボールの上でじゃれつくタオとヒョンたち。
猫はいいよねぇ、遊んでるだけで愛でられる。
「タオちゃん、みんなといっしょに糸島に行こうね」
「怖いことないから大丈夫だよ、みんなといっしょにドライブ、ドライブ、楽しいよ~」
まだ、完全に人語を解するようにはなっていないタオに向かって、真剣かつ必死に語りかけるショロー。客観的に見れば、こういうとき、絶対避けたいのがこの「必死」である。しかし、実際にはだれしもやってしまうのが、「必死」、「一生懸命」、「頑張まっす!」の数々。
いかん、いかん、ワタシのただならぬ雰囲氣を猫たちが感じ取ってしまったら、うまく行くわけない、平常心、平常心。
なんど、己に言い聞かせたことか。
引っ越し当日
浅い眠りから目覚めたのは引っ越し当日の4時。
引っ越し業者さんの到着は10~11時予定。
荷物の搬出が終わり次第、ワタシは猫たちと車で糸島に向けて13時間のドライブに出発する手筈だ。
ちょっと早いけど、業者さんが来てからでは無理そうだから、今のうちにタオを捕まえてしまおう。
そう思って、隣の部屋に行くと、なんとタオがケージの中に入っているではないか!
すかさず外側から扉を閉める。
タオは依然ケージのなかでおとなしくしている。
やっぱタオも家族ってわかってくれたんだなぁ、協力してくれたんだなぁ、ありがと、ありがと。
うひゃひゃ笑いがが止まらない。
最大の難関はクリアした~、幸先いいぞ。
さ、今日のブログを書いてアップしとこ。
パソコンを立ち上げ、キーボードを叩き始める。
よかった、よかった、あとは大阪まで安全に運転するだけやん、うひょひょ、うひょひょ。
目の端、右下あたりに、見慣れた白黒模様が見える。
え? なに? だって、そんなわけないでしょ?
ケージに閉じ込めたはずのタオが私を見上げていた。
なんで?
オーマイガー、なんでよ?
崖下に突き落とされたような感覚(落とされたことないけど)、体温が3℃は下がった。
チャカマ、チャカマ、どうして抜け出したかはこの際どうでもいい。
再度、コイツをキャリーに入れなくてはならんちゃ。
ケージはダメだ、キャリーに入れてガムテープでぐるぐる巻きにして逃げ出さんようにせにゃ。
猛然と火事場の馬鹿力発動!
近くにあったバスタオルにタオを包んだ。
暴れるタオ。
これを逃したら、もう二度と捕まえられない。
バスタオルのまま、すぐさまキャリーケースにむりやりねじ込む。
キャリーケースのドアだけでなく、全体に布ガムテープを何重にも巻き付けた。
ニィーニィー、とタオが鳴く。
ちょっとの我慢だから、勘弁してね。
よし! タオ捕獲完了、と思った瞬間、この一部始終を目撃していたヤムヤムと目が合う。
怯えた瞳で今にも天袋に駆け上がろうとしている。
逃すまじ!
やおらヤムヤムのからだをひっつかまえ、ビッチビッチに暴れまくるのをもろともせず、キャリーケースにねじ込む。ケース自体がガッタガタとゆれ、ゴロゴロ転がる。からだの大きなヤムヤムなら、キャリケースを壊しかねない。これまたガムテープをグルグル巻いて、さらに念のためガーゼケットで包んだ。
おし、これでオッケー!
猫の神様、ありがとうございます。
いざ、糸島へ870キロの旅
早朝のタオとヤムヤム捕獲がこの日最大の山場だった。
なんとか無事に引っ越し荷物の搬出が済み、12時過ぎ、ワタシは後部座席に6匹の猫を乗せて猫楠舎を出発した。
走り出して間もなく、夏子がオエ、オエッともどし始めた。
プライベートキャットの夏子にとって、狭い車内で他猫の匂いを嗅ぐのはストレスだった。
さいわい、まだ高速に乗る前だった。
車を停めて、夏子の吐しゃ物をきれいに拭き取る。
キャリーから外に出た夏子は
「あたくしは助手席でけっこうよ」
と言って、もうキャリーケースに入ろうとしない。
ま、いっか。
夏子は通院せざるを得ない場合でもキャリーケース不要なのだ。
じゃ、助手席でおとなしくしていてね。
後部座席のタオ、ヤムヤム、ちぃちぃ、トーマ、わこの5匹はやけに静かだった。緊張で固まっている間に先を急ごう。高速に乗ってからは、ずっと追い越し車線を猛スピードで走り続け、15時すぎ、大阪の待ち合わせ場所に到着できた。
やれやれ、これで四分の一。
ヤスモトさんにハンドルを渡すと、もはやワタシのミッションは終了したかのように思われた。
大阪を抜け、山陽道に入ると、見事な夕焼けがワタシたちを迎えてくれた。
まだ、猫たちはおとなしいままで、「死んでないか?」と思ったほど。
ドライブはまことに順調だった。
途中、何度かパーキングエリアで休憩をしながら、ハンドルはヤスモトさんに預けたままだった。
とにかく猫たちをキャリーケースから一刻も早く出してやりたい。
山陽道の終盤、下関パーキングエリアにおいて、さぁ、いよいよ九州上陸というときは、さすがにブルッときた。
もうすぐだからね、もうすぐだよ~。
「ほなら、このまま、行っちゃいましょか」
「このまま、行っちゃってください」
とっくにワタシは運転する氣がなくなっていた。
ヤスモトさん、ワタシを糸島に連れてってくだはい。
北九州、福岡を過ぎて、ついに糸島に入った。
ナビが「あと20分で到着」と表示する。
そのとき、車内に異臭が、いや、よく知っている、あの匂いが、漂い始めた。
「だれかうんちしましたね」
「氣が緩んだんでしょうか」
窓を開け、新鮮な空氣を入れながら、ワタシとヤスモトさんは笑った。
「みなさん、うんちでもおしっこでもどんどん出してね、我慢しなくていいからね」
糸島の家は間もなくだった。
どんなに汚れたところで、みんな無事に到着出来たら御の字だ。
到着間際、猫たちは伝染したかようにいっせいに排せつを始めた。
よか、よか。
そして明け方4時、糸島の家にたどり着いた。
キャリーケースから解放された猫たち、お疲れさん。
大阪から糸島まで運転してくれたヤスモトさん、ホンにお疲れさん。
タオちゃんも来たね、いっしょに来てくれてありがとね。
こうして、2022年10月12日から、ショローと猫6匹の糸島暮らしがスタートしたのだった。
しかし、この糸島暮らしにも大きな波乱が待ち受けていたのだ。
ブログには一切書かなったタオとワタシの絆構築の11日間の物語、
「タオの出奔」はまた明日~、お楽しみに。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?