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玖磨問わず語り 第16話 ミンさんの贈り物 その4


ヤムヤムTwitter

わーも「痛み分けの術」を覚えたいわ~。
たーだこの術を使えるようになっても、術をかけたヒトが病院に行ったら意味ないやん?
そこがビミョーにムズカシイとこやね。

 明治神宮のお日様

ミンさんが病院に行ったのが4月の終わりだした。
5月はあっという間に過ぎて、そして6月はゆるやかな下り坂に入ったような感じだした。
オラたちはただミンさんのそばにいただす。

通院をしないと決めた当初、ミンさんのお世話に全力投球していたナンリさんはあの痛み分けの術以来、肩の力が抜けた感じだした。
「頑張るのを止める。ワタシが頑張ると、ミンちゃんも頑張っちゃうから、ね。そして一喜一憂しない。ミンちゃんのありのままを受け入れる。コレがワタシの課題だわ。河合隼雄先生の『全力でそばにいる』を実践しようと思う、うん」
それからの桜舎に平穏な静けさが漂うようになっただす。
不思議だすな、ヒトひとりの意識が変わることで、その場の空氣感まで変わったんだすよ。
ヒトと猫とは、こんなにもつながっているんだすな。

「おはよう、明治神宮に行ってきまーす」
朝5時、ナンリさんは歩いてすぐの明治神宮に出かけて行っただす。

1時間後に帰ってきたナンリさん、両掌をグーにしていただす。
そしてミンさんに近づき、そっと手のひらを開いて、ミンさんのからだを挟むようにしたんだす。
ミンさんは目を閉じたまま。
ナンリさんも目を閉じて、ミンさんの呼吸を合わせているような感じだした。
 
「ミンちゃん、これは明治神宮から運んできた今朝生まれたてのお日様なの。お日様はあったかいねぇ」
「実は夕べ、日拝のやり方を勉強したの。
朝の新鮮な空氣のなか、昇ってくる太陽に向かって、まっすぐに立つ。そして両手をからだの両脇にに垂らしていると、手のひらのまん中にお日様の光が集まってくるの。コレ、ホントに掌が熱くなるからよく分かる。
『このお日様パワーをミンちゃんに』と思って、両手を握りしめて帰って来たってわけよ」

 

玖磨ちゃんもお手当


「まだあったかいわ。玖磨ちゃんも試してみる?」
ナンリさんの掌がオラの腰に触れたとき、ほわーんとしたかすかな波動がからだの芯に伝わってきたんだす。
そしたら、からだじゅうがポッポポッポと温かくなったから、びっくりだす。
 
「玖磨ちゃん、感じた?
ただ手を当てるだけでも氣持ちいいよね。
今日から、このお手当と明治神宮の日拝を組み合わせて、ミンちゃんを応援しよう、と思ってるんだけどどうかしら?」
「おら、賛成だす」
ミンさんが、オラたちの横ですぅーすぅーと寝息を立てていただす。
 
 
それからナンリさんは毎朝明治神宮に出かけては、日拝でお日様パワーを持ち帰ってきたんだす。
そして、オラたちもミンさんのお福分けをもらったんだした。
 

ネネさんのお迎え

そのころ、ここ和歌山のネコクス舎の改修工事も済んで、少しずつセミナー合宿も始まっていただす。
でも、ナンリさんの和歌山行きは、ミンさんのことがあって2か月間はやめていたんだした。

7月1日、ナンリさんは急にネコクス舎に向けて出発しただす。
「1泊でネコクスに行ってきます。ミンちゃん、ありがとね」 
 説明がむずかしいだすが、とにかく必然の成り行きだした。



このころのミンさんはほとんど寝ていて、ときおりこっち側の世界に舞い戻ってくる、そんな感じだした。
日に日に透明になっていくミンさん。
でもオラには、ちっとも辛そうには見えなかっただすよ。
ゆっくり、ゆっくりあっち側に渡ろうとしているだすか、ミンさん。

ひょっとするとナンリさん、ミンさんのそばにいたら、あっち側に行くのを引き留めてしまいそうで、それで、ネコクスに向かったのかもしれないだす。

ナンリさんがいない桜舎の夜、オラたちは月子さんを送ったときのように、ミンさんのまわりに座っていただす。

窓の外で、濃い緑色の桜葉がサワサワと揺れていただす。

「あ、ネネちゃん……、迎えに来てくれたんだね」
そうつぶやいたミンさんは、すっかりオトコのコになっていただす。
ネネさんは、前にミンさんと一緒だった猫さん。

「つばさママもいるの? ボク、ママのところに戻れるんだね」
オトコのコの顔つきになったミンさんは決意を固めているようだした。
そして、ちょっぴり恥ずかしそうにも、うれしそうにも見えただすよ。



こうやって、迎えに来てくれるんだすな。
よかった、よかった、ミンさん、よかっただすな。


ミンさん出発

翌日7月2日の午後、ミンさんはスーッとあちら側に旅立ったんだす。
このとき、ナンリさんは東京に向かう新幹線のなかだした。

「ミンちゃん、ただいま。
きれいなお顔してる。
苦しまなかったのなら、よかった。
ミンちゃん、お手当させてくれてありがとうございました。
ミンちゃんのおかげで、いろんなことを教えてもらえた。ホントありがとね」

ナンリさんは泣きながらも、どこか晴れ晴れしていただすよ。

「ミンちゃんをつばさママにお返しできて、ワタシのミッションも終了だわ。つばさママはやっとネネちんミンちゃんと合流して、今ごろ喜んでるわね」

「しかし、桜舎はおっさん猫ばっかりになっちゃったわねぇ。
ミンちゃん、お願いよ、桜舎にミンちゃんのようなかわいい女子猫を手配してくださーい」

ハイテンションで言ったナンリさんのこの言葉が、数週間後にまさか実現するとはオラたち全員思いもよらなかったんだす。

続く


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