討論と何が違う? フォルケ流・対話のマインドセット
2019年夏〜2020年春にかけて筆者が滞在したデンマークの市民学校、フォルケホイスコーレ。「フォルケレポート」と称して、筆者が体験したこと、考えたことをテーマごとに章立てたレポートをお届けします。第一回目のテーマは「対話」です。
全章立てはここから!
対話って何?
フォルケホイスコーレに行く前から聞いていたのは、そこには「対話」の文化が根付いているということ。ところが、正直あまりピンときていませんでした。
知り合いにフォルケホイスコーレに行くと報告すると、「いいね。海外の授業はディベート重視だから、人前で主張する力がつくよ」と言う人がいました。私は「ですね。そうだといいなー」と答えましたが、実のところ英語力にもプレゼン力にも自信がなく、内心はびくびく怯えていました。ナメられたらどうしようと。
でも、はじめてのフォルケホイスコーレで体験した授業光景は、想像していたそれとは違いました。前回の記事でも書いたように、フォルケホイスコーレの授業は対話中心です。そして対話はもっとオープンで、対等で、長い時間をかけて育まれる発展的なコミュニケーションでした。
▼ 前回の記事
対話には、勝者も敗者もない
私が通ったフォルケホイスコーレの先生は、「対話(ダイアローグ)と討論(ディベート)の違い」をこのように述べます。
対話には勝者も敗者も存在しません。討論は二項対立の主張があり、たとえその場限りであってもどちらが正しいか決めなければいけない。対話は、論理の正確さを競い、勝ち負けを決めることを目的にはしていません。相手の主張や問いかけから、自分の思考を発展させる試みなのです。
対話と討論とでは、その「姿勢」にも違いがあると言います。討論の場では、話し手は確固たる「自分のポジション」を持っています。自分の主張の正しさを証明することが最重要ミッション。相手の話を聞いているときでさえ、自分の正しさを証明するための反論点を探っているわけです。
一方、対話においては両者が「私の主張は完全ではない」という前提に立っています。完全ではないからこそ、相手の話を聞いて別の角度から考えてみたり、場合によっては自分の主張が変わってもいいのです。自分の主張は必ずしも正解ではないことを理解したうえで、相手と歩み寄る姿勢が問われます。
内面の変化に注目する
フォルケホイスコーレの授業で、対話における姿勢を体感するワークショップをおこないました。それは、糸を使ったワークショップです。あるテーマに対して異なる主張をもつ2人がペアになり、それぞれの主張に耳を傾け、対話によって生まれた内面の変化を見つめていきます。
1. 2人組を作って、意見が分かれそうなテーマを決める
2. 2メートルくらいの糸の両端をそれぞれが持ち、一番端を固結びする
3. それぞれの主張を話す
4. 相手の話を聞いて、気になったことを質問する
上の手順2でつくった結び目を起点として、相手の話を聞いた後にどれだけ自分の考えに変化があったかを可視化します。具体的には、はじめの結び目とは別に、もう一点新しい結び目をつくります。最初に比べて自分の考えに変化があれば相手側に近づく形で、自分の考えがそんなに変わらなければ自分側にもう一度点を打ちます。
私たちが授業でワークショップに取り組んだ結果は、写真の通り。対話後、結び目がお互いに近づいたペアもいれば、はじめとあまり変わらないペアもいます。
対話をした結果、自分の主張がまったく変わらなくてもいいし、相手の主張に近づいてもいい。私はこのワークショップを通じて、自分の主張の正しさよりも、相手との対話によって自分の内側に生まれた変化に敏感になることが大切なのだと学びました。
同時に、対話を通じて「相手に受け入れられている」安心感を覚えました。
他者がいるから成立する
糸のワークショップに限らず、対話の場にはある「合言葉」がありました。
What you said makes me think...
(あなたの話を聞いて、私はこう考えた……)
対話は相手と自分の相互的なやりとりがあってはじめて成り立ちます。だから、まずは相手の話にじっくり耳を傾ける。次に、自分の内側に意識を向ける。相手からどんな影響を受け、何を感じたのか。そして自分はどう考えたのか ──
その思考プロセスのなかには、「相手を打ち負かしてやろう」とか「相手よりもっと良いこといってやろう」という邪心はありません。それはきっと、「相手もまた自分の話を聞いて、影響を受けている」という実感があるからだと思います。
現実世界でも、自分の主義主張が一生変わらないことはありません。家族や恋人、友人や職場の人々と関わったり、本を読むなかで、他者の視点を取り入れながら自分の思考は目まぐるしく変化しているはずです。しかし、ほとんど無意識のうちに変化するため、私たちは他者との関わりのなかで生きていることをしばしば忘れてしまいます。
対話は、一人ひとり異なる他者と共存し、お互いが影響しあいながら生きていることを思い出させてくれるツールなのです。
フォルケ流・対話のグランドルール
最後に、フォルケホイスコーレで学んだ対話における心構えをまとめます。
これから身近な人と対話の機会をつくったり、自由に意見を交換できるイベント、ワークショップをおこなう機会があれば、ぜひ参考にしてみてください。
続いては、対話を促すためのフォルケホイスコーレの場づくりを考えてみたいと思います。
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