自分らしく生きたいあなたへ贈る、椎名林檎プレイリスト
人生一度きりだから、自らしい人生を生きたい。
こう願う人は多いだろう。「自分らしい人生」を実現する手段だって、以前よりも格段に増えている。
でも人生は思い通りにいかないことの方が多いし、進みたい方向に全員が賛同してくれるわけではない。自分らしい人生を生きようと心に誓っても、気持ちがぐらついたり自分の選択を疑ったり、自信を失うことはきっとあるだろう。
いや、人間ブレて当然なのだ。ブレ上等! 何度ブレても「もう一度やったるぞ」と困難を踏み越えられるかどうかが大切なのである。
わたしが世界で一番不幸に感じたり、他人の人生を羨ましく感じたりしたとき、繰り返し聴くプレイリストがある。それは日本歌謡界の女王、椎名林檎氏の楽曲だ。彼女の曲には、ブレてしまう自分を「大丈夫さ!」と励まし、進むべき道をそっと指し示してくれる力がある。
この記事では、特に心にぶっ刺さった歌詞を抜粋して、ご紹介していきたい。作り手側が意図したメッセージとは異なる可能性も十分あるが、自分らしく生きるために役立ちそうな解釈をわたしなりに入れてみた。
周りの雑音を一度シャットアウトして、自分に正直に生きたいと願うならば、ぜひあなたの懐にも収めておいてほしい。
人生は夢だらけ (2017年)
「かんぽ生命」や「クラフトボスTEA」のCMでもお馴染みの楽曲。ミュージカル調の華やかな曲中には、本質を突くことばが散りばめられている。
一曲通して貫かれているメッセージは、己の人生、めいっぱい味わおうではないかというもの。
実感したいです 喉元すぎればほら 酸いも甘いもどっちもおいしいと
これが人生 私の人生 たらふく味わいたい 誰かを愛したい
私の自由この人生は夢だらけ
ーー 出典:人生は夢だらけ / 作詞作曲:椎名林檎
痛感したいです 近寄れば悲しく 離れれば楽しく見えてくるでしょう
それは人生 私の人生 誰のものでもない
奪われるものか 私は自由 この人生は夢だらけ
ーー 出典:人生は夢だらけ / 作詞作曲:椎名林檎
歌詞の通り、近眼視的にならず距離をおいて人生を見つめれば、苦い経験すら楽しめるのである。この事実に気付ければ、「どんな経験もまるっと楽しめればいいや!」と楽観的になれないだろうか。
目抜き通り (2017年)
トータス松本氏とのデュエットで話題になった『目抜き通り』。銀座を舞台とした、軽やかでモダンな楽曲だ。
目抜き通りとは、人通りの多いメインストリートのことを指す。高級店が立ち並ぶ銀座の大通りを闊歩しながら、「何者にも規定されないわたし」を楽しむ姿が脳裏に浮かぶ。
誰も知らない 私が何なのか あてにならない肩書きも苗字も
今日までどこをどう歩いてきたか分かっちゃあいないから 誰でもない
ーー 出典:目抜き通り / 作詞作曲:椎名林檎
個人的にぐさっときた歌詞は、曲終盤のこちらである。
あの世でもらう批評が本当なのさ デートの夢は 長い眠りで観ようか
最期の日から数えてみて ほらご覧飛び出しておいで 目抜き通りへ!
ーー 出典:目抜き通り / 作詞作曲:椎名林檎
「あの世でもらう批評が本当なのさ」ーー。他人や会社から得た評価で一喜一憂を繰り返す毎日だが、現世で測られる自分の価値なんて一時的で一部でしかない。
"あの世でもらう批評"が本当の価値だと思えば、他人の期待に寄り添うよりも、自分に正直に生きるほうが何倍もいいのではないかと思える。
この世の限り (2007年)
「この世の限り」は、椎名林檎氏の兄である椎名純平氏、作曲家の斎藤ネコ氏の3人で手がけた一曲だ。歌詞のほとんどは英語で歌われているため、日本語の歌詞は前半にすこしだけ登場するのだが、この一部分が秀逸なのである。
この世に限りはあるの? もしも果てが見えたならどうやって笑おうか
愉しもうか もうやり尽くしたね
ーー 出典:この世の限り / 作詞作曲:椎名林檎
じゃあ何度だって忘れよう そしてまた新しく出逢えれば素晴らしい
さようなら はじめまして
ーー 出典:この世の限り / 作詞作曲:椎名林檎
己の信じる道を突き進んだ結果、目指していたゴールにあっけなく辿り着いてしまったり、はたまたやり切れずに燃え尽きてしまったりと、予想打にできない結末を迎えることもあるだろう。
それでも肩の力を抜いて、過去の結果に囚われずに前を向くとっかかりをこの曲は与えてくれる。
獣ゆく細道 (2018年)
エレファント・カシマシの宮本浩次氏との激しくも麗しいコラボレーションが記憶に新しい一曲。タイトルに「獣」が入っている通り、歌詞とメロディー双方に荒らしさや奔放さが現れている。
わたし達は社会の中で「ちゃんとした会社員」「立派な母親」などたくさんの鎧を被っている。その鎧に飲まれると、本来の自分を見失うこともしばしばあるだろう。
時々は(モラルを守った上でだが)獣のように、五感を研ぎ澄まして突き進んでいってもいいんじゃない?そう投げかけてくれる歌詞だ。
自分自身の才能を あまたとからだ まるで食い違う
人間たる前の単に率直な感動を頼っていたいと思う
そう本性は獣 丸腰の命をいま野ざらしに突っ走ろうぜ
行く先はこと切れる場所 大自然としていざ行こう
ーー 出典:獣ゆく細道 / 作詞作曲:椎名林檎
また特徴的なのは、自分の生命は借り物であるという死生観である。せっかく与えられた生命、精一杯使い切って返そう。こう考えると、自分を出し惜しみして生きるのはもったいない!と不思議と思えてくる。
なけなしの命がひとつ どうせなら使い果たそうぜ
かなしみが覆い被さろうと 抱きかかえて行くまでさ
借りものの命がひとつ 厚かましく使いこんで返せ さあ貪れ
笑い飛ばすのさ誰も通れぬほど 狭き道をゆけ
ーー 出典:獣ゆく細道 / 作詞作曲:椎名林檎
ありあまる富 (2014年)
自分の人生を進んだが故に、心ないバッシングや僻みを受けることもあるかもしれない。よく知らない誰かからマイナスの言葉を浴びせられたとしても、まったく気にする必要はない。あなたの価値は、誰にも操作できないから。
やさしくも、核心をついたメッセージはバラード曲『ありあまる富』の中で語られる。
もしも彼らが君の何かを盗んだとして それはくだらないものだよ
返してもらうまでもないはず なぜなら価値は生命に従って付いている
ーー 出典:ありあまる富 / 作詞作曲:椎名林檎
誰かの言葉に傷ついて自信を失ってしまったとき、悲しみの海に沈む前にこの曲を聴いて、徐々に自分を取り戻していこう。
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少し話が逸れるが、2014年withnewsに掲載されたロングインタビューで、椎名林檎氏は「命短し、目抜き通りを歩こう」と語っている。上で紹介した『目抜き通り』という曲は2017年に発表されたことを考えても、ここ5年以上変わらない椎名林檎氏の一気通貫した信条が伺える。
「死はいつだってすぐ近くにある」という忘れがちな事実を思い出させると同時に、限りある生命をどう潔く、かっこよく生きていくか。そのヒントを椎名林檎氏の歌は教えてくれる。
最後に、上記で紹介したプレイリストをiTunesで作成したので、ぜひご視聴ください。
ライティングを学び合う会員コミュニティ「sentence」のメンバーが、月ごとのテーマに沿ってマガジン「gate, by sentence」を更新していきます。5月のテーマは『わたしの胸熱コンテンツ』です。