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夢から醒めても

「本当に楽しかったです」

そんな感じだったと思う。「またディズニー行きたいですね」「ディズニーの外でも会いましょう」そんな言葉を交わした気がするけれど、どんな風にそういう流れになったのか記憶が無い。

でも、なぜか話が盛り上がったことは覚えている。彼が言う。

「ずっと思ってたんですけど、姿勢悪いですよね」

これだけはしっかりと覚えている。確かに、姿勢良いとは思ってないけど、そんなに気になる程だったのか。仕事あるあるなのかもしれないなと、頭で思ったことも、何となく覚えている。
ただ、初対面でそんなことを言われると思ってなくて驚いたのと同時に、姿勢についてすごく気になってしまう。指摘されると、それがずっと気になってしまう所が私にはあって、そんなことない、気にしてないという風に振舞ってしまいがちだが、内心とても気にしてしまう。そっか、姿勢悪いのか。

それでも何故か意気投合して、仕事終わりに飲みに行きましょうなんて言葉を交わす。誘ってくれたのは彼だったか。
「わ、ぜひ!」
なんて軽く返事をする。本当に私は、こんな口先だけの軽い言葉と適当な返事をしていたと思う。社交辞令。何となくその場の雰囲気。実現することは無いだろうなと、ぼんやり思いながら笑顔で返事をするのだった。


帰り道。電車の中で今日1日を振り返る。素敵な出会いだったと、今日が楽しかったと、それはそれは幸せな気持ちだった。
また会うことはきっとないのだとしても、今日が楽しかった記憶は消えないし、本当にそれで良かった。撮った写真をまとめなくちゃな、楽しかったなあ。
また明日から仕事頑張ろう。そう言って、今日1日を糧にまたいつもの日常に戻っていった。


次の日。職場での休憩中、私がディズニーに行ったことを知っている同僚がどうだった?と聞いてきた。

私はとても楽しかったこと、新しい出会いがあって一緒に過ごしたことを話した。「良かったね」そう言って共感して貰えると、そう思っていた。私が浅はかだったのか、言葉選びを間違えたのか、私が変なのか。出会った2人の関係を話してしまったのがいけなかった。

「え、何それ?その2人変な関係なんじゃない?なんかいやらしい〜」

休憩室で、嫌な笑いが起こる。待って、やめて、違うの。そんなんじゃなかったの、

その場にいた全員が、そんな風に笑った訳では無かったけれど、楽しかった思い出が一瞬で暗くなっていくのを私は感じた。私は何とも思ってなかったことを、他の人が見たらそんな風に感じるという事実に理解が追いつかなかった。そっか、そういう風に感じる人もいるんだよなあと他人事のように頭の片隅で感じた。とても幸せな1日だったのに。私も2人のことをよく知っている訳では無いけれど、でも顔も見たことないあなたにそんな風に言われたくない。

話さなければ良かった。私は心底後悔した。もっと適当な話をしておけば良かった。
こうして、私の大切な思い出はほんの少し暗闇を残して心の奥へ仕舞われたのである。




ディズニーというのは不思議な物で、1度行くと何度も行きたくなってしまう。どうしよう、さすがにパークには行けないけど、舞浜で遊ぼうかな…。

多分ディズニーの魔法だけではない。私は昔からこうだった。何か1つの物に夢中になると、暫くは熱が冷めなくなる。そして、影響されやすい。本当にすぐ、何にでも影響されてしまう。
星空案内人の資格を取ろうとした時もそうだった。元々星が好きではあったが、そんな資格があることすら知らなかった。ある物語に星空案内人の資格を持っている人が出てきて、そこで初めてこの資格の存在を知った。

そこからは早かった。すぐにどんな物か調べてみる。ふむふむ、民間資格なんだ。幼稚園教諭免許と保育士資格、運転免許証しか持っていない私にとっては、星空案内人の資格はとてもキラキラして見えた。好きなことの資格があるのだと、新しい発見に嬉しくなった。
そして実際に取る事ができる場所を探し、講座を受けて資格を取得することになる。


元々好きなディズニーも、再び熱が上がれば気の済むまで調べたい。ディズニーランドへ行った2日後に、友だちとディズニーランドホテルで朝ごはんを食べて映画を観て、その次の週にはホテルのラウンジでケーキを食べ、1週間の間に3回も舞浜へ足を運んだのである。(ダイエット中にも関わらず。調節が大変だった)


物事が動いたのは、ディズニーランドに行ってから4日後の事だった。


『水曜日空いてますか?』


彼からのLINEだった。
まさか連絡が来るなんて思ってなかったから、心底驚いた。仕事終わりに飲みに行きましょうって話はしたけど、本気だったの?でも、連絡が来るというのはやはり嬉しい。私は二つ返事で飲みに行くことを決め、ダイエットを始めてからほとんど飲むことのなかったお酒を飲もうと決めたのである。

水曜日。また会えるんだ。
あの出会いが続くなんて、想像もしてなくて、何だか不思議な気持ちだった。


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