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再会

会う約束。何時にどこで待ち合わせ。お店はどこにする?

そんな会話をLINEでする。お互い仕事をしているから、やり取りはそんなに頻繁ではなかったけれど、会うまでに全てを決めるのには充分時間があった。
場所と時間はすぐに決まった。問題はお店選びだった。相手がどんな雰囲気のお店を好きなのかも、普段どんなお店で飲んでいるのかも全く分からなかったし、好き嫌いはもちろん、何もかも知らなかった。

「何でもいい」

これ程便利で難しい言葉ってあるのだろうか。苦手な食べ物もない、特に食べたい物もない。だから何でもいいです。そう言われて本当に悩んだ。かといって、私自身、苦手な食べ物はあっても、特に食べたい物も浮かばなく、本当に困ってしまった。
「適当に歩いて適当なお店に入る」ということが、私にはできなかった。できるだけ、決められることは決めてしまいたかった。優柔不断な私は、結局、どこにでもあるチェーン店の名前を出し、そこで軽く飲みましょうと提案したのだった。


全てを決めて、当日。仕事終わりに会う約束をしていた私は、会うって決めてから物凄く悩んでいた。何着ていこう。

やっぱり、洋服、メイク、気にしない訳にはいかなかった。仕事終わりだし、メイクも直してから行きたい。ほぼ初対面。少しでも変じゃないようにって、そんなことを考えていた。結局、お気に入りのシンプルな黒のワンピースを着て、少しだけ目元をきらきらさせて、待ち合わせ場所へ向かったのだった。


ディズニーの外で会う彼は、また雰囲気が違って見えた。
仕事終わりだからなのか、急いで来てくれたのか、ただ単に暑いからなのか、ほんの少し額に汗を滲ませて「お疲れ様です」と声を掛けてくれた彼は、やはり彼だった。
実はほんの少しだけ、彼のことが分からなかったらどうしようと思っていた。あの日に少し一緒に過ごしただけの彼の顔を、覚えているか不安だったのだ。
でも、そんな心配は無用だった。一瞬で彼だと分かる。向こうも、すぐに私を私だと分かってくれたことに安堵した。 


2人並んで歩いてお店へ向かう。LINEで会話をしていたからか、変な緊張はなかった。

「何名様ですか」
「2人です」
「こちらへどうぞ」
よくある、決まったやり取りを交わし席に案内される。周りの席には、同じような2人組や、仕事終わりに愚痴を言い合っているような、そんな人が沢山いた。ふと、周りからはどう見えるんだろう、そんなことを思った。


席に座って、注文を決める。お互い距離感が分からず、なんだかぎこちない空気が流れる中、何とかお酒と食べ物をいくつか選び、店員さんを呼ぶ。注文した物が届くのを待つ間、先に口を開いたのは私だった。


「本当に誘ってくれると思ってなかったので、驚きました」
「え?あ、いや…面白い人だなと思って」

面白い?これはどう捉えたら良いのだろうか。確かに記憶を思い返せば、面白いよねと友だちに言われたことがあったような…仕事で海外に行った時に現地の人にFunnyGirlって言われたこともあったけれど。この前のディズニーで、そんなに面白い要素なんてあったかな、と一瞬のうちに頭で考えて私は「それっていい意味ですか?」と笑って尋ねた。

「もちろん、いい意味ですよ、変わってるなあって」

多分私は、私のことを面白いという彼のことを、この先もずっと忘れないんだろうなと何となく思った。

それから色んな話をした。仕事のこと、ディズニーのこと、そして恋愛のこと。

彼に今お付き合いしてる人はいなかった。
だからなんだという訳ではないけれど、まあ彼女がいたら私を誘ったりしないよなあと思ったりして。思わず口に出したら、そうでもないらしい。じゃあどういうつもりなんだ。


お酒を飲みながら、私は失念していた。ダイエットを始めてから、ほとんど飲酒していなかったことを。
ダイエット前は、それはそれはお酒が大好きで、酔ったことなんてなかった。一晩でワイン1本空けても平気だったのに。


久しぶりのお酒だからか、それともこの雰囲気がそうさせているのか、私はたった3杯で『あれ、なんかやばいかも』と生まれて初めて酔う感覚を味わったのであった。

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