夢の国
2人組と別れてからまたパーク内を歩き始める。1人で遊びに来ていた私にとっては、人と話すことがとても新鮮に感じられた。良い人たちだったなあ。そんなことを考えながら歩いていると、また見つけた。ミッキーマウスの木だ。
あ、こんなところにもあるの知らなかったなあ。写真撮っておこう。
カメラを構えてシャッターを切る。
「あ、ここにもあったんですね」
別れてから数分。また出会ってしまった。
これも何かの縁かも、なんて。多分誘ったのは私からだった。
「今日ってこの後パレード観ます?もし良かったら、一緒にパレード待ちしてもいいですか?」
初対面、しかも出会って数分の人にパレード待ちにお邪魔させて欲しいなんて、多分そんなこと言う人あまりいないだろう。それでも、2人は快く快諾してくれた。
「いいですよ、ぜひ一緒に観ましょう!」
それからLINEを交換して、3人のグループを作ってくれた。それぞれ目的があったから、待ち合わせはパレード開始の1時間半前に。
そうして一緒に40周年のパレードを観ることになった。待ち合わせ場所へ行くと、既に2人はレジャーシートを広げて私が座れるスペースを作ってくれていた。
え、ここに私座れる?
1番初めにそう思った。このスペースに入ってギリギリだったらどうしよう。それ程わたしは大きかったのだ。ダイエットを始めてから、正直あまり自分が痩せたという実感が無かった。数字で見たら減ってはいるが、毎日鏡で見ている自分の姿にそこまでの変化を感じていなかったのだ。だが勇気を出して座ってみて、そこで初めてダイエットできていることを実感することになる。
座れた。え、全然大丈夫じゃん。
安堵から声が漏れる。「どうしたの?」女の人が問う。
いつまでも女の人、という訳にもいかないので名前を仮にAさんとする。Aさんに聞かれて、私はダイエットの話をした。「言われなかったら全然分からないよ」って言ってくれたその言葉が嬉しかった。私、痩せたんだ。
パレードが始まるまで1時間半もある。自分のこと、相手のこと、お互いに話す時間は沢山あった。
Aさんは美容師さん。わたしよりもお姉さんだった。男の人は名前を仮にSくんとしよう。Sくんは私よりも5つ歳下の男の子だった。
2人は友だちだった。話を聞くと、Sくんは整骨院でお仕事してるらしい。Aさんはそこの患者さんだった。2人ともディズニーが好きというところから、一緒に行きましょうかとなり2人でディズニーランドに来ていたらしい。Aさんの美容室にSくんもお客さんとして行ってるみたいで、ディズニーという共通点が2人を繋いでいるのかと、ぼんやりと頭で思った。
特に偏見は持たなかった。ディズニーが好き、じゃあ一緒に行きましょう。共通の趣味から仲良くなることあるよなあ、現に私もマツエクのお姉さんと一緒にジャニーズのライブ行くしなあ。
私も色々なことを話した。保育士をしていること。星空準案内人の資格を持っていること。今正案内人になる為に勉強していること。好きなアイドルがいること。アクセサリーを作るのが好きなこと。カメラが好きなこと。ディズニーでは写真を沢山撮ること。
多趣味。それが私を表す言葉の1つだと思う。本当に好きなことが多すぎる。
2人の話は本当に面白かった。同じディズニー好きでも、好きなものがみんな違っていた。私はキャラクターやショーが好き。Aさんは隠れミッキーを探したり、植物を見るのが好き。Sくんはディズニーの世界観そのものが好き。それぞれの好きの話を共有するのはなんて楽しいのだろう。知らないことを知れる楽しさは、いくつになっても変わらないのだと、こういう時間を経験する度に思う。
1時間半という時間は、長いようであっという間だった。Sくんが使っているカメラが、私の持っているカメラと同じメーカーだということが分かった。使い方をあまり知らないらしく、私が使い方を説明する。パレードの写真撮るのに、初めて望遠レンズを使うと。自分の知識が少しでも役に立てればいいのだけれど。
そうして一緒にパレードを観て、感動を分かち合う。これは1人だったら味わえない。1人で来たけれど、思いを共有することってやっぱり素敵だよなあとこの時改めて思った。
結局、その後一緒にご飯を食べ、それぞれのショーの予定があったけれど、その後に美女と野獣のアトラクションに乗りましょうなんて話になった。
アトラクションでは隠れミッキーの話を聞き、エリアにある隠れミッキーの写真を撮り、ミニーマウスのスタイルスタジオへ向かう。夜のパレードも一緒に観た。パレード待ちをしている時、部活の話になる。
私は中学、高校と6年間合唱部に所属していた。そのこともあり、歌が大好きだった。するとSくんが言う。「僕、音痴なんですよ」
「音痴はなおりますよ、練習で何とかなります」
私が軽くそんなことを言ったら、とても興味を持った様で、「今度カラオケ行きましょうね」なんて軽い言葉も飛び出して。まあ、社交辞令のような口先だけの会話だと、私はあまり気にも留めなかった。
そうして、閉園時間になる。結局最後まで一緒に過ごしてしまった。AさんもSくんもディズニーランドから家が近いらしい。Aさんはバス、Sくんは自転車、私は電車。パークを出てそれぞれ違う方向へ帰っていく。
「撮った写真送りますね、またLINEします」
Aさんが先にバス停へ向かう。
自転車置き場へ向かうSくんと舞浜駅へ向かう私。ここでお別れだ。
「今日はありがとうございました」
それだけで終わるはずだったのに。
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