新規に建設された酷道

国道の仕組み上、酷道が新規に建設されることはほぼないのだが、そんな世にも珍しい新規に建設された酷道がある。

そもそも酷道とは何かを理解するためには国道の仕組みを押さえておく必要がある。国道とは一言で言えば国費による都市間連絡道路整備事業である。都市間連絡道路を建設したい区間で既存の道路を国道指定する。それから国道の改良事業としてバイパスを建設する。そのようにして建設された国道こそが本来の意味での国道である。とりあえず国道指定された既存の道路はいわばダミーである。国道指定された道路の中にはおおよそ都市間連絡に適さないような線形の悪い道があり、それが酷道である。

そのような経緯から、酷道というのは通常は既存の線形の悪い道路であって、新規に建設される区間が酷道であることはまずない。山越えのバイパスを新規に建設するとしたら、通常は長大トンネルで峠をショートカットするものである。トンネルでショートカットされれば、以降は普通の国道である。旧道が国道指定解除されなければ酷道として残るが、並行してバイパスがあれば、一部の酷道マニア以外は走りやすいバイパスを走るものである。

前置きが長くなったが、世にも珍しい新規に建設された酷道は、国道416号の福井県と石川県との県境区間である。国道416号の東には国道157号が通っており、こちらはよく整備されている。一方、石川県内の国道416号は、尾小屋鉱山への県道が分岐する場所から先、福井県境までの長大な区間が酷道であり、おおよそ都市間連絡道路として機能するものでないことから、県境の山越え区間は長らく未開通だった。2018年9月9日についに道路が開通したが、トンネルかと思いきや、酷道として開通した。ここにトンネルを掘っても石川県側に長大な酷道区間があり、どのみち酷道は解消しない。また、石川県側の酷道区間は冬季閉鎖されるので、トンネルを掘ったからといって通年の通行を確保できるわけでもない。それならばトンネルよりも酷道の方が建設費用が安いのだろう。

新規に開通した区間は酷道であっても現代の技術基準に準拠して建設されたので、実に立派な酷道である。立派な酷道とは形容矛盾だが、実際に走ってみれば立派な酷道という表現がふさわしいことがわかる。

まず1車線道路である。標高差を克服するためにつづら折りの山道である。乗用車なら通行できるが、トラックは4トン車でギリギリではないだろうか。除雪が入らないので新規に建設された区間なのに冬季閉鎖される。ここまでは通常の酷道なのだが、舗装はきれいだし車線幅は広いし、特にカーブでは幅に余裕を持たせている。カーブミラーもついている。積雪地帯には珍しくガードレールもしっかり設置されている(積雪地帯では雪の重みでガードレールが崩落するため、ガードレールの無い道路が多い)。一定間隔ですれ違いのための待避所が設置されているし、路盤を確保するために盛土切土で法面を作っている。その結果、周囲を含めて大掛かりな造成となっており、もしかしたらトンネルの方が安いのではないかと思えてくる。もし現代の技術基準で酷道を作ったらという空想が体現している。

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